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第二章 縁結びの、ミニドーナツ

19.河童の証言3

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「葉月さんってば、本当は簡単に友だちもつくれる子なんですけどねえ」

 瓜生は遠い目になった。

「ちょっと真面目すぎるところはありますけど、いい子だし。本人が無理だって決めつけてるだけで、本当はできる子なんですよ」

 それはそうだろうな、と快も思う。なかなか、瓜生もわかっているようだ。

「週末のクラスメイトとの予定も、瓜生がいないと無理だって思ってそうだったぞ」
「うーん、それは困りました。ぼくは行けないし……」

 と、瓜生の目が快を映した。ぽんっと彼が手を打つ。嫌な予感がした。

「そうだ。快さんがぼくの代わりに行ってくれればいいのでは?」
「無理だ」

 瓜生の提案をばっさり切り捨てる。

「な、なんでですか!」
「おまえは葉月さんと同い年くらいの外見だからいいけど、俺が女子中学生の輪に入るのはおかしいだろ」
「引率の先生かなってなるやろうね」

 想像したのか、八尋がくすくすと笑う。快はそんな幼なじみに睨みを利かせつつ、瓜生につけたした。

「それに、俺より瓜生に励まされたほうが、葉月さんもうれしいだろうし」
「そうは言われても、ぼくは川から離れられませんよ」

 瓜生は困った笑みを浮かべた。しばらく考え込む顔をする。彼なりに葉月のことを大切だと思っているのだろう。あれこれと考えたあとで、「じゃあ」と提案する。

「彼女に言づてをお願いできませんか?」
「伝言か。まあ、それくらいならいいけど」
「よかった。それから……、ドーナツをあげてもらえたら、うれしいです。ぼく、いつももらってばかりだったので、最後くらいお返しをしなければ」
「快さんのドーナツは高いから気ぃつけてな、瓜生くん」

 八尋のからかいに、瓜生が飛び跳ねる。

「えええっ、そうなんですか? そんなものをいつも葉月さんにもらっていたなんて! どうしよう!」
「待て、うちのドーナツはふつうの値段だ。ぼったくり店主みたいな言い方はやめろ、八尋。……とはいえ、瓜生って人間の金を持ってるのか?」

 ぴしっと瓜生が固まる。

 人間と関わらないようにして生きてきたのなら、お金なんて持っていないだろう。さすがに快も、店を経営する身としてただ働きするわけにはいかないし。

 瓜生は視線をさまよわせた。

「あーえっと、じゃあ……、特別に河童仕込みの胡瓜のぬか漬けをお裾分けするというのはどうでしょう? それがお代ということで、いかがです?」
「あ、ええなあ。河童が漬けた胡瓜って、めちゃくちゃ美味しいんよ。でも胡瓜は河童の好物やから、譲ってもらえることなんて滅多にないし」

 八尋がうらやましそうな目で快を見る。快は特別漬物が好きなわけではないけれど、そこまで八尋が言うのであれば気になってくる。葉月のためになにかしてあげたいという思いもあるし。

「わかった。それで手を打とう」
「ありがとうございます! じゃあ、できれば当日に、葉月さんに渡してあげてほしいです。お友だちと食べてもらえるように、種類もたくさんそろえてもらえれば……、あ、ちゃんと数に見合った胡瓜はお渡ししますよ! 任せてください!」

 胡瓜のぬか漬けを大量にもらっても困りそうではあるが、まあいいだろう。

「了解。で、届け先はどこなんだ?」

 葉月の家か、出掛ける先を教えてもらえれば届けることはできる。瓜生は葉月と遊びに行く約束を一度はしているのだし、行き先くらい知っているだろう。と思ったのだが、瓜生はこてんと首をかしげた。

「さて……、どこでしょうね?」
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