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第二章 縁結びの、ミニドーナツ

18.河童の証言2

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「河童のことは理解した。でもそれなら、なんで遊びについていくなんて約束したんだ」
「それはまあ、その場で断るのは忍びなかったもので」
「だからって、約束を破るのはひどいんじゃないか? 葉月さん、悲しんでたぞ」

 快は真剣に言った。しかし瓜生は「はて」と不思議そうな顔をする。

「妖怪の世界では、約束なんてあってないようなものですからねえ」

 悪気なんて感じさせない、こざっぱりとした言い草だ。それを援護するように、八尋も口を開く。ちなみに八尋は手持ち無沙汰になったのか、ひなたの頬をこねるなどしてちょっかいを出していた。ひなたはとても不服そうな顔をしている。

「快さん、妖怪の口約束なんてあってないようなもんですよ。みぃんな、フリーダムなんやから。まあぼくは、ひとの世にまぎれて生きてるから、そこそこ約束は守りますけど、ほかのやつらはだめですねえ。とくに山や川なんかに住んで、人間との交流をもたない妖怪は、人間の物差しなんて通用しないと思う」

 言いながら、みょーんと、ひなたの頬を真横に引き伸ばす。ひなたの頬はやわらかいから、よく伸びる。

「妖怪に約束守らせたいなら、契約書でもつくらんと。できれば、まじない入りの」

 そうかよ、と快は深くため息をつく。

 人間と妖怪は、まったくちがう時の流れや文化の中で生きているのだから、そういう食いちがいが起きてしまうのも、まあ仕方のないことなのだろう。葉月はその被害を受けてしまったらしい。

「やひろ、しつこい」
「あら」

 さんざん八尋にこねられたひなたが、ぱしっと手をふり払って快の後ろに隠れる。それでもこねたりないのか、八尋が物足りない顔をするので、快もひなたを守るために盾になった。これ以上酔っ払いに絡まれるのは、ひなたがかわいそうだ。

 そうしているうちに、瓜生が困ったような顔をした。

「葉月さん、気にしてるのかあ。それは申し訳ないことをしちゃったな」
「なら、もう一回会ってあげたらどうだ?」
「いやあ、そうしたいのは山々なんですけどね」

 瓜生は苦く笑って頬をかく。

「河童連盟のみなさんに怒られちゃいまして。河童って、人間と関わるのは禁止って規則があるんですよ」
「なんだそれ」
「河童は、人間を驚かせるのが好きだったんですけど、ここ数十年で意識が変わってきまして。前までは『河童が出たぞ』って噂が流れても、せいぜい地元の住人が物見遊山しに来る程度でかわいいもんだったんですけど、いまじゃあ、全国からひとが集まってきちゃうじゃないですか」

 最近聞いた話だな、と快は八尋を見る。八尋は「わかるわあ」とうなずいた。

「現代は趣きがあらへんよね」
「そうなんですよー。だから河童連盟でも、ひっそり山奥で暮らして、人間との接触禁止って規則ができちゃいまして。その点、烏天狗たちは人間社会に溶け込んでいるし、河童とはちがいますよね。さすがだなあ」
「褒めてもなんも出えへんよ。でもまあ、人間に化けて溶け込むことはしても、ひとさらいは自粛しろって空気は、うちにもあるし。楽しみがすくない世界になったもんやね」

 ――してただろうが、ひとさらい。

 呆れる快の横で、妖怪ふたりは意気投合している。もうひとりの妖怪であるひなたは、話にあきてきたのか「だっこ」と快にせがむ。やはり妖怪は思い思いに過ごす者が多いらしい。

「でも瓜生、葉月さんとしばらく会ってたじゃないか」

 ひなたを抱きあげながら問いかける。瓜生は照れたように笑った。

「つい好奇心に負けちゃいまして。一回だけと思ってひとのいる場所に遊びに来てみたら、葉月さんに会ったんです。それ以来、彼女と話すようになったんですけど……、それがほかの河童に知られちゃったんですよねえ」

 そら大変、と八尋が軽く言う。ひとごとだと思っているのだろう、あまりにも軽い言い方だったが、言われた瓜生は深刻そうに眉を寄せた。

「そう、大変なんです。おかげさまで、つぎに葉月さんに会ったら山から追放って脅されたんですよ。さすがにそれは困るので、葉月さんには会えないんです。ごめんなさい」
「いや、俺に謝られても困るんだけど。それは葉月さんに言ってもらわないと」

 しかし瓜生はどうしても会えないようだし、この流れからいくと、快が葉月に説明をしなくてはならなくなりそうだ。こんな妖怪の都合を、どう話せというのか。面倒な問題に首をつっこんでしまったものだ。
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