魔法使いと子猫の京ドーナツ~謎解き風味でめしあがれ~

橘花やよい

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第二章 縁結びの、ミニドーナツ

17.河童の証言1

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 河童――瓜生の言葉に、「おまえか!」とつい叫んでしまった快に、瓜生と八尋は目をまたたかせた。ひなただけは、快に同意するようにこくこくとうなずいていたが。

「はあ、葉月さんがそんなことを。それは申し訳ないことをしました」

 葉月と河川敷で出会ったこと、葉月が瓜生と会えなくなって気に病んでいることなど、どうにか落ち着きを取りもどして説明した快に、瓜生は軽く相づちを打った。

 葉月は、瓜生に嫌われたのではと心配していたが、彼の態度に葉月を厭うようなところはなさそうだった。むしろ、葉月を好ましく思っていることが言葉の端々からうかがえる。

「おまえ、葉月さんと同級生が遊びに行くのについていくって約束したんだろ? なんで突然、葉月さんに会わなくなったんだ?」

 彼女はずいぶん気にしていたぞ、と言外ににじませる。だが瓜生は天然なのか気づいた様子はなく、「いやあ、それがですね」と頬をかいた。

「ぼくは河童なものですから、川から離れられないんですよ。言うなれば、布団から出られない朝のような。こたつから出られない冬の日のような……、河童と水辺はそんな感じの関係でして」
「それは、がんばれば出られるだろう」
「えええっ、そうなんですか? 布団もこたつも、絶対に出られない魔性の代物だと聞いてるんですけど」

 瓜生がもともと大きなひとみを、ぱちぱちとまたたかせる。

 彼はどうやら、布団もこたつも実物を見たことがないらしい。河童が本当に水辺から一切離れることができないのだとしたら、それもあり得るだろう。ドーナツも、葉月と出会うまで食べたことがなかったようだし、彼は人間社会にうといのかもしれない。

 ――なるほど、流行りにうとくて葉月さんと話が合うわけだ。

 流行りどころか、人間社会そのものに対する知識がすくないのだから当然だ。その反面、少年のように見えても人間よりは長生きなのだろうし、人間社会の中でも古いもの……たとえば万葉集などの知識ならば持ち合わせている、ということかもしれない。

「まあとにかく、おまえが川から離れるのは無理ってことだな」
「はい。そのとおりで。河童の本能なんです」

 妖怪には、それぞれの特性がある。烏天狗なら風を操ることが得意だし、化け猫化け狐化け狸たちなら、ひとを化かすことを十八番とする。

 それと同時に、どうしても抗えない本能というものもある。

 烏天狗は迷惑なことに、ひとをさらって面白がるのが本能らしい。化け妖怪たちなら、ひとを化かして愉悦を得るのが本能。そして河童は、水辺から離れられないことが本能のようだ。

 強い妖怪ならば、耐えることもできる。八尋なんかは、ひとをさらいたいと思っても理性で抑えられる――たまに本能のままに楽しんでいるようだが。

 妖怪というのは、なかなか難儀なものなのだ。
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