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第二章 縁結びの、ミニドーナツ
12.休日のこと2
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調理器具を洗って片づける間も、ひなたはずっと椅子に座って快の作業が終わるのを待っている。ひなたとしては手伝いたいのだろうけれど、さすがに店の機材を触らせるのは怖くて断っていた。
だが手持ちぶさたな様子が不憫なので、指令を与えてやる。
「二階に、毛布を用意しておいてくれるか?」
「……うん! わかった」
ひなたは頼られたことがうれしいらしく、こくこくとうなずいて、足早に二階へと上がっていった。
定休日は、ゆっくり昼寝をするのが快の趣味だ。ひなたが来てからは、ふたりで並んで眠るようになった。
片づけを終えると、ずっと流していた動画を止め、快も二階に上がる。ひなたは窓辺に毛布を用意して……というより、すでに毛布にくるまって寝息を立てていた。
「早いな、おい」
そんなに片づけに時間を取られてはいないと思うのだが。まあ寝る子は育つというから、いいか。肩をすくめて、ひなたが起きないように忍び足で近づく。ひなたのとなりに並び毛布をかぶった。
ひなたは寝たままなのだが、気配を察したのか快にすり寄ってきた。静かに頭をなでてやると、ただでさえ心地よさそうだった幼い寝顔がとろける。
――あったかいな。
カーテンをとおして注ぐ陽の光は、快とひなたをやわらかく包み込んでくれる。これなら快も、いい夢が見られそうだ。
ひなたを預かりはじめた当初は仕方なくだったが、こうしていっしょにいる時間が増えるごとに離れがたくなっていく。ひなたの体温は、とても心地いい。いまさらこのぬくもりを失ってしまうと、空寒い思いがするだろう。
ひなたが望むなら、ずっとここにいてくれてもいいかもしれない。
だが、この時間がつづけばいいという気持ちと、若造の自分がこれから先もひなたの面倒を見ていられるのだろうかという気持ちが入り混じる。それでもいまは、このまどろみに身を任せていたい。
――夕方になったら、また河川敷に行こう。
憂い顔ばかりの葉月にも、穏やかな時間を過ごしてほしいから。
だが手持ちぶさたな様子が不憫なので、指令を与えてやる。
「二階に、毛布を用意しておいてくれるか?」
「……うん! わかった」
ひなたは頼られたことがうれしいらしく、こくこくとうなずいて、足早に二階へと上がっていった。
定休日は、ゆっくり昼寝をするのが快の趣味だ。ひなたが来てからは、ふたりで並んで眠るようになった。
片づけを終えると、ずっと流していた動画を止め、快も二階に上がる。ひなたは窓辺に毛布を用意して……というより、すでに毛布にくるまって寝息を立てていた。
「早いな、おい」
そんなに片づけに時間を取られてはいないと思うのだが。まあ寝る子は育つというから、いいか。肩をすくめて、ひなたが起きないように忍び足で近づく。ひなたのとなりに並び毛布をかぶった。
ひなたは寝たままなのだが、気配を察したのか快にすり寄ってきた。静かに頭をなでてやると、ただでさえ心地よさそうだった幼い寝顔がとろける。
――あったかいな。
カーテンをとおして注ぐ陽の光は、快とひなたをやわらかく包み込んでくれる。これなら快も、いい夢が見られそうだ。
ひなたを預かりはじめた当初は仕方なくだったが、こうしていっしょにいる時間が増えるごとに離れがたくなっていく。ひなたの体温は、とても心地いい。いまさらこのぬくもりを失ってしまうと、空寒い思いがするだろう。
ひなたが望むなら、ずっとここにいてくれてもいいかもしれない。
だが、この時間がつづけばいいという気持ちと、若造の自分がこれから先もひなたの面倒を見ていられるのだろうかという気持ちが入り混じる。それでもいまは、このまどろみに身を任せていたい。
――夕方になったら、また河川敷に行こう。
憂い顔ばかりの葉月にも、穏やかな時間を過ごしてほしいから。
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