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第二章 縁結びの、ミニドーナツ
1.常連客のたわむれ1
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「お、ちょっと太ったんやないですか、快さんの甥っ子」
「太ったって……、健康体になったと言え」
レジカウンター越しに、男子高校生の勇樹がひなたを見下ろす。ひなたはあいかわらず快の足にはりついている。そんなひなたは、細かった手足にすこしずつ肉がついてきたような気が、快もしていた。
「俺、まだ甥っ子に怖がられてるんか。いい加減慣れてくれんと、こっちも店来づらいんやけど」
勇樹はぶっきらぼうな高校生で、「魔女のドーナツ」の常連だ。根はやさしいのだが、なにかと口調がつっけんどんになるため、ひなたもまだ警戒を解こうとしない。例にもれず、今日もびくっと快の後ろに隠れてしまう。
ちなみに常連たちには、ひなたは快の甥っ子で、一時的に預かっているのだと説明してある。快はひとりっ子だから甥っ子がいるわけもないのだが、海外生活が長かったこともあって、快の家族構成を覚えている人間は京都にもそうそういないから、ごまかせていた。
「ひなた、いまのはな、責めようとするわけじゃなくて『怖がられると悲しくて店に入れへんわ、どないしよ』って言いたいんだ。あんまり勇樹を悲しませてやるなよ」
「快さん、へたな関西弁使うん、やめたほうがええで」
「でも言ってることは間違ってないだろ?」
「それは……まあ」
勇樹はあいまいに濁して、ひなたの様子をうかがう。ひなたは快の後ろからそっと顔だけのぞかせた。だが、やはり駄目だったようで、もう一度引っ込んだ。勇樹ががくりと肩を落とす。ヤケになったのか、いつもドーナツを二、三個買っていくところを、今日は五つも注文した。
「悪いな、勇樹。ドーナツ、彼女といっしょに食べるのか?」
「う、うるさいわ。あいつは関係あらへんやろ!」
かっと赤くなって、勇樹は逃げるように店を出ていく。ぶっきらぼうで、恥ずかしがり屋なのだ。彼が最近、恋人とつき合い出したばかりだと知っている快は、口もとに笑みを浮かべる。初々しいことだ。
「ひなた、勇樹はいいやつだぞ。おびえてやるな」
ぽんぽん、とひなたの頭をなでる。
「……ん」
里親探しのためにも、ひとに馴れてもらおうという努力は継続中なのだが、いまだ成果は出ていない。どうしたものか……と思った快に気づいてか、ひなたは猫の耳としっぽを出して、快にすり寄った。しっぽが、するりと脚に巻き付いてくる。
「ひなは、かいといっしょがいい」
額をぐりぐりと押し付けてくるひなたに、快は頭をかいた。
「あー、うん、そうか……。おまえ、どこでそんな甘え方覚えてきた」
「つきこが、おしえてくれた」
「月子さんか」
なにを教えてくれているんだ、あのひとは。
勇樹とはべつの常連、ふくよかな婦人の月子を思い出す。その穏やかな雰囲気もあってか、ひなたが心を開いている数すくない人間のひとりだ。
「みみとしっぽつければ、かわいさあっぷで、めろめろ、っていってた」
「月子さん……」
いつのまに、そんな入れ知恵を。
――いや、ちょっと待て。
「ひなた、月子さんの前で耳としっぽ出したのか?」
「ん? うん」
ひなたは不思議そうに首をかしげる。快はさっと顔を青くさせた。ただの人間に、ひなたが化けているのを見られるのは困る。
「快さん、こんにちは」
「うわっ、月子さん!」
「太ったって……、健康体になったと言え」
レジカウンター越しに、男子高校生の勇樹がひなたを見下ろす。ひなたはあいかわらず快の足にはりついている。そんなひなたは、細かった手足にすこしずつ肉がついてきたような気が、快もしていた。
「俺、まだ甥っ子に怖がられてるんか。いい加減慣れてくれんと、こっちも店来づらいんやけど」
勇樹はぶっきらぼうな高校生で、「魔女のドーナツ」の常連だ。根はやさしいのだが、なにかと口調がつっけんどんになるため、ひなたもまだ警戒を解こうとしない。例にもれず、今日もびくっと快の後ろに隠れてしまう。
ちなみに常連たちには、ひなたは快の甥っ子で、一時的に預かっているのだと説明してある。快はひとりっ子だから甥っ子がいるわけもないのだが、海外生活が長かったこともあって、快の家族構成を覚えている人間は京都にもそうそういないから、ごまかせていた。
「ひなた、いまのはな、責めようとするわけじゃなくて『怖がられると悲しくて店に入れへんわ、どないしよ』って言いたいんだ。あんまり勇樹を悲しませてやるなよ」
「快さん、へたな関西弁使うん、やめたほうがええで」
「でも言ってることは間違ってないだろ?」
「それは……まあ」
勇樹はあいまいに濁して、ひなたの様子をうかがう。ひなたは快の後ろからそっと顔だけのぞかせた。だが、やはり駄目だったようで、もう一度引っ込んだ。勇樹ががくりと肩を落とす。ヤケになったのか、いつもドーナツを二、三個買っていくところを、今日は五つも注文した。
「悪いな、勇樹。ドーナツ、彼女といっしょに食べるのか?」
「う、うるさいわ。あいつは関係あらへんやろ!」
かっと赤くなって、勇樹は逃げるように店を出ていく。ぶっきらぼうで、恥ずかしがり屋なのだ。彼が最近、恋人とつき合い出したばかりだと知っている快は、口もとに笑みを浮かべる。初々しいことだ。
「ひなた、勇樹はいいやつだぞ。おびえてやるな」
ぽんぽん、とひなたの頭をなでる。
「……ん」
里親探しのためにも、ひとに馴れてもらおうという努力は継続中なのだが、いまだ成果は出ていない。どうしたものか……と思った快に気づいてか、ひなたは猫の耳としっぽを出して、快にすり寄った。しっぽが、するりと脚に巻き付いてくる。
「ひなは、かいといっしょがいい」
額をぐりぐりと押し付けてくるひなたに、快は頭をかいた。
「あー、うん、そうか……。おまえ、どこでそんな甘え方覚えてきた」
「つきこが、おしえてくれた」
「月子さんか」
なにを教えてくれているんだ、あのひとは。
勇樹とはべつの常連、ふくよかな婦人の月子を思い出す。その穏やかな雰囲気もあってか、ひなたが心を開いている数すくない人間のひとりだ。
「みみとしっぽつければ、かわいさあっぷで、めろめろ、っていってた」
「月子さん……」
いつのまに、そんな入れ知恵を。
――いや、ちょっと待て。
「ひなた、月子さんの前で耳としっぽ出したのか?」
「ん? うん」
ひなたは不思議そうに首をかしげる。快はさっと顔を青くさせた。ただの人間に、ひなたが化けているのを見られるのは困る。
「快さん、こんにちは」
「うわっ、月子さん!」
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