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第一章 迷える月夜に、クリームドーナツ

14.魔法の灯り

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 じっと見つめられて、思い当たる。

「ああ……うん、まあ、できなくもないけど。でも俺は、魔法はなるべく使わないようにしてるから」

 困って頭をかく。たしかに灯りをともす魔法もあるけれど、もう何年も使っていない。胸にじわりと苦い思いが広がるから、快は魔法を使えないのだ。

 劣等生という記憶が身体に染みついているのだと思う。イギリスにいたころは、コンプレックスの針山をのぼっているような生活だった。いまでも魔法を使おうとすると心が拒否する。飛行魔法は配達のためにたびたび使っているうちに慣れたけれど、ほかの魔法はてんで駄目だった。

 でも。

「かいなら、できる」

 ひなたにまっすぐ見つめられた。そこまでされると、できないとは言いにくい。子どもには、かっこいい自分を見せたいと思ってしまう。

 いけるか? 魔法嫌いの自分でも。四分の一しか魔法使いではない、自分でも。

 自問自答して、もう一度頭をかいて、長いため息をついた。

「わかった。やってみるか」

 意を決して、手のひらをかざす。力を込めると、ひとつ、ふたつ、青白い光の粒が生まれた。まるで蛍のような光はひとつなら弱弱しいが、いくつか集えば、この小径を明るく照らしてくれるだろう。

 快はふっと息を吹きかける。光は増え、快の周囲に散らばった。まるで星たちが空から落ちてきたようだ。暗闇にほのかな光がいくつも揺れて、親子の姿を淡く照らし出していく。京都の街並みによく似合う、それこそ烏天狗たちも好みそうな幻想的な光景がつくられていく。

「蛍? こんな時季に」

 真央が目を丸くして、快の魔法に魅入る。光は集い、また散らばってを繰り返す。

「きれい!」

 奏太がぱっと笑顔になった。

 魔法のおかげで、その笑顔は真央にもよく見えたのだろう。不思議な光たちに呆気に取られていた彼女もつられて微笑み、奏太の頭をなでる。幸せそうだった。ふたりはぎゅっと手をつなぐ。

 ひなたは目を細めた。

「かいのまほうは、いいまほう」
「……そうかな」
「うん」

 快はくしゃりとひなたの頭をなでた。

 快のつたない魔法でも、彼らの笑顔に力添えができたのだろうか。それならば、いい。自分がつくりだした小径の光景を見つめる。そして、笑い合う親子を。

 たしかに、自分で言うのもなんだが、美しい魔法に思えた。
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