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第一章 迷える月夜に、クリームドーナツ
4.烏天狗の宴会2
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「なんだこれ」
「なんだって、もう、前に言うたでしょ。快さんの生活苦を救ってあげるーって」
「ああ、あの約束」
「野菜とか果物とか、いろいろプレゼント。妖怪たちに声かけたら、みんな『持っていき』ってわけてくれはったんよ。これからも定期的に烏に食材を運ばせてあげるから、感謝してくれてええですよ」
誇らしげに笑う八尋を横目に、紙袋をのぞき込む。
食べものから、子どもの普段着、厚手のパジャマまでそろっている。あと絵本や昔ばなしのアニメDVDなども。子育てグッズ詰め合わせだ。
絶賛生活苦に頭を悩ませている快は、つい頭の中で金額に換算しようとしてしまい、そんな自分に呆れた。ひとの好意をお金で勘定するのはいただけない。
「でも、こんな大量にもらっていいのか?」
「うん。助けて~ってお願いしたら、たぁくさんもらえたから自由に使って。あとは、子育ての悩みなら聞きますえ、とか、忙しいときは子守しに行きますからね、って言ってた妖怪婦人会のみなさんもいはったよ。烏に声かけてくれたら、そういう妖怪にヘルプ出せるから、使ってや」
快は目をまたたく。至れり尽くせりじゃないか。
「ありがとう、八尋。本音を言えば、ここまで真面目に気を利かせてくれるとは思ってなかった」
「え、そうなん?」
「だって八尋だし。期待していなかった分、感動もひとしおだ」
どうせ酔っぱらってるしいいだろう、と普段からかわれるお返しに皮肉を言ってみた快だったが、なんだかむずむずしてきた。自分に皮肉は向いていないらしい。結局、素直な感謝も言い添える。
「ありがとな、八尋」
「いいえー。お礼は、ぼくのこと甘やかしてくれればええですよ?」
「それ本気だったのか」
「一割くらい。残り九割はからかい要素」
「そうかよ」
言いつつ、一割のお望みどおりにと八尋の頭をぐしゃぐしゃとなでてやれば、八尋は笑い声を上げた。ほろ酔いなのもあって、いつもより反応が無邪気だ。常にこれくらいかわいい弟分でいてくれたら楽なのだが。
なんてじゃれていると、ひなたがくいっと快の服を引っ張った。
「どうした、ひなた」
「ずるい」
「なにが?」
「あたま」
「ああ……。わかったわかった」
ぷっくりと頬を膨らませるひなたに苦笑し、その頭もなでてやる。
二、三度つづければ、ひなたも満足したようだ。だが、すぐに機嫌を直すのも癪なのか、仏頂面のままでいようと努めているらしい。口のはしが、笑顔になるのをこらえようとぴくぴくしていて面白い。
このまま見ていたら噴き出してしまいそうだったから、快は辺りに目を向けた。
ひとりの子どもが目に映る。ご馳走の詰まった重箱には手をつけず、じっと座っていた。ほかの烏天狗と同じ山伏の衣装で、小さな翼がぱたぱたと揺れている。はじめて見る顔だった。
「いつの間に子どもが増えたんだ?」
「なんだって、もう、前に言うたでしょ。快さんの生活苦を救ってあげるーって」
「ああ、あの約束」
「野菜とか果物とか、いろいろプレゼント。妖怪たちに声かけたら、みんな『持っていき』ってわけてくれはったんよ。これからも定期的に烏に食材を運ばせてあげるから、感謝してくれてええですよ」
誇らしげに笑う八尋を横目に、紙袋をのぞき込む。
食べものから、子どもの普段着、厚手のパジャマまでそろっている。あと絵本や昔ばなしのアニメDVDなども。子育てグッズ詰め合わせだ。
絶賛生活苦に頭を悩ませている快は、つい頭の中で金額に換算しようとしてしまい、そんな自分に呆れた。ひとの好意をお金で勘定するのはいただけない。
「でも、こんな大量にもらっていいのか?」
「うん。助けて~ってお願いしたら、たぁくさんもらえたから自由に使って。あとは、子育ての悩みなら聞きますえ、とか、忙しいときは子守しに行きますからね、って言ってた妖怪婦人会のみなさんもいはったよ。烏に声かけてくれたら、そういう妖怪にヘルプ出せるから、使ってや」
快は目をまたたく。至れり尽くせりじゃないか。
「ありがとう、八尋。本音を言えば、ここまで真面目に気を利かせてくれるとは思ってなかった」
「え、そうなん?」
「だって八尋だし。期待していなかった分、感動もひとしおだ」
どうせ酔っぱらってるしいいだろう、と普段からかわれるお返しに皮肉を言ってみた快だったが、なんだかむずむずしてきた。自分に皮肉は向いていないらしい。結局、素直な感謝も言い添える。
「ありがとな、八尋」
「いいえー。お礼は、ぼくのこと甘やかしてくれればええですよ?」
「それ本気だったのか」
「一割くらい。残り九割はからかい要素」
「そうかよ」
言いつつ、一割のお望みどおりにと八尋の頭をぐしゃぐしゃとなでてやれば、八尋は笑い声を上げた。ほろ酔いなのもあって、いつもより反応が無邪気だ。常にこれくらいかわいい弟分でいてくれたら楽なのだが。
なんてじゃれていると、ひなたがくいっと快の服を引っ張った。
「どうした、ひなた」
「ずるい」
「なにが?」
「あたま」
「ああ……。わかったわかった」
ぷっくりと頬を膨らませるひなたに苦笑し、その頭もなでてやる。
二、三度つづければ、ひなたも満足したようだ。だが、すぐに機嫌を直すのも癪なのか、仏頂面のままでいようと努めているらしい。口のはしが、笑顔になるのをこらえようとぴくぴくしていて面白い。
このまま見ていたら噴き出してしまいそうだったから、快は辺りに目を向けた。
ひとりの子どもが目に映る。ご馳走の詰まった重箱には手をつけず、じっと座っていた。ほかの烏天狗と同じ山伏の衣装で、小さな翼がぱたぱたと揺れている。はじめて見る顔だった。
「いつの間に子どもが増えたんだ?」
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