魔法使いと子猫の京ドーナツ~謎解き風味でめしあがれ~

橘花やよい

文字の大きさ
上 下
9 / 83
第一章 迷える月夜に、クリームドーナツ

4.烏天狗の宴会2

しおりを挟む
「なんだこれ」
「なんだって、もう、前に言うたでしょ。快さんの生活苦を救ってあげるーって」
「ああ、あの約束」
「野菜とか果物とか、いろいろプレゼント。妖怪たちに声かけたら、みんな『持っていき』ってわけてくれはったんよ。これからも定期的に烏に食材を運ばせてあげるから、感謝してくれてええですよ」

 誇らしげに笑う八尋を横目に、紙袋をのぞき込む。

 食べものから、子どもの普段着、厚手のパジャマまでそろっている。あと絵本や昔ばなしのアニメDVDなども。子育てグッズ詰め合わせだ。

 絶賛生活苦に頭を悩ませている快は、つい頭の中で金額に換算しようとしてしまい、そんな自分に呆れた。ひとの好意をお金で勘定するのはいただけない。

「でも、こんな大量にもらっていいのか?」
「うん。助けて~ってお願いしたら、たぁくさんもらえたから自由に使って。あとは、子育ての悩みなら聞きますえ、とか、忙しいときは子守しに行きますからね、って言ってた妖怪婦人会のみなさんもいはったよ。烏に声かけてくれたら、そういう妖怪にヘルプ出せるから、使ってや」

 快は目をまたたく。至れり尽くせりじゃないか。

「ありがとう、八尋。本音を言えば、ここまで真面目に気を利かせてくれるとは思ってなかった」
「え、そうなん?」
「だって八尋だし。期待していなかった分、感動もひとしおだ」

 どうせ酔っぱらってるしいいだろう、と普段からかわれるお返しに皮肉を言ってみた快だったが、なんだかむずむずしてきた。自分に皮肉は向いていないらしい。結局、素直な感謝も言い添える。

「ありがとな、八尋」
「いいえー。お礼は、ぼくのこと甘やかしてくれればええですよ?」
「それ本気だったのか」
「一割くらい。残り九割はからかい要素」
「そうかよ」

 言いつつ、一割のお望みどおりにと八尋の頭をぐしゃぐしゃとなでてやれば、八尋は笑い声を上げた。ほろ酔いなのもあって、いつもより反応が無邪気だ。常にこれくらいかわいい弟分でいてくれたら楽なのだが。

 なんてじゃれていると、ひなたがくいっと快の服を引っ張った。

「どうした、ひなた」
「ずるい」
「なにが?」
「あたま」
「ああ……。わかったわかった」

 ぷっくりと頬を膨らませるひなたに苦笑し、その頭もなでてやる。

 二、三度つづければ、ひなたも満足したようだ。だが、すぐに機嫌を直すのも癪なのか、仏頂面のままでいようと努めているらしい。口のはしが、笑顔になるのをこらえようとぴくぴくしていて面白い。

 このまま見ていたら噴き出してしまいそうだったから、快は辺りに目を向けた。

 ひとりの子どもが目に映る。ご馳走の詰まった重箱には手をつけず、じっと座っていた。ほかの烏天狗と同じ山伏の衣装で、小さな翼がぱたぱたと揺れている。はじめて見る顔だった。

「いつの間に子どもが増えたんだ?」
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

Webコンテンツ大賞の戦い方【模索してみよう!】

橘花やよい
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスのWebコンテンツ大賞。 読者投票もあるし、うまく戦いたいですよね。 ●応募作、いつから投稿をはじめましょう? ●そもそもどうやったら、読んでもらえるかな? ●参加時の心得は? といったことを、ゆるふわっと書きます。皆さまも、ゆるふわっと読んでくださいませ。 30日と31日にかけて公開します。

仲町通りのアトリエ書房 -水彩絵師と白うさぎ付き-

橘花やよい
キャラ文芸
スランプ中の絵描き・絵莉が引っ越してきたのは、喋る白うさぎのいる長野の書店「兎ノ書房」。 心を癒し、夢と向き合い、人と繋がる、じんわりする物語。 pixivで連載していた小説を改稿して更新しています。 「第7回ほっこり・じんわり大賞」大賞をいただきました。

ビストロ・ノクターン ~記憶のない青年と不死者の洋食屋~

銀タ篇
キャラ文芸
降りしきる雨の中、倒れるように転がり込んだその場所。 なんとそこは、不死のあやかし達の洋食屋だった!? 記憶をなくして路頭に迷った青年、聖弘(仮名)は、イケメンだけどちょっとゆるふわヴァンパイアの店長の取り計らいで不死者の洋食屋『ビストロ・ノクターン』で働かせて貰うことになったのだった。 人外だけの、ちょっとお洒落な洋食屋に陽気な人狼の経営するパン屋さん。 横浜のちょっと近くにある不思議なお店で繰り広げられる、ちょっと不思議でちょっと温かい、そんな話。

毒小町、宮中にめぐり逢ふ

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。 生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。 しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...