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第十三章 ルリの戦い

(三)

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「……嫌だったんだけどなあ。兄さんと対等じゃない生活は。変えたかったのに、失敗か」
「ルークさん……」
「うまくいかないなあ。やっぱり、掟を破ったのが悪かったのかな」

 わたしは、ぎゅっと口を引き結んだ。兄弟なのに、仲よくできない、吸血鬼の貴族の掟。ミナセだったら、掟は守るべきって言うかもしれない。だけど、今回は、どうだろう。

(……今回は、ミナセもそんなこと言わないんじゃないのかな)

 すくなくとも、レオは、絶対に言わない。

「レオはわかってましたよ。こんな掟、間違ってるって」
「え?」
「ルークさんが苦しんでるってことも、わかっていました」

 赤い瞳がわたしを見る。どういうこと、と言いたそうに。

「レオは、ひとりでブラッド・ムーンを乗り越えようとしたんです。お父さんにも、だれにも、あなたに狙われてるって言わずに、ひとりで」
「どうして」
「ルークさんのためです。だれかに知られたら、ルークさんが怒られちゃうから」

 え、と小さな声が、ルークさんのくちびるからこぼれた。

「逃げていたのも、あなたに罪を犯してほしくなかったからです。ルークさんやお父さんとちゃんと話して、もうこんなことが起きないようにしたいって、レオは言っていました」

 ぎゅっと、わたしより大きなルークさんの手を握る。大きいけど、ふるえた手。

(ああ、やっぱり、きれいな瞳だ。レオと同じ)

 その赤い瞳に、じわりと涙がにじんだ。

「レオは、あなたのことが大好きなんです。だから、お願い、レオを助けて」

 ルークさんは、わたしをじっと見る。

「……そっか」

 一度ぎゅっと目を閉じて、疲れたような、でも優しい微笑みを浮かべた。

「レオは優しいから、ひとを襲いたくなんて、ないだろうね。わたしのことまで助けようとするなんて、おひとよしにも程がある」

 そう言って、胸ポケットに手を入れる。

「これを」

 わたしの手に、宝石のペンダントを握らせた。赤い、美しい石――、赤輝石だ。

「わたしの石だ。レオに届けてくれるかい?」
「……ルークさんは、石がなくても、平気なんですよね」
「ありがとう、心配してくれて」

 ルークさんは、わたしに赤輝石を握らせ、手を差し伸べる。わたしが手を取ると、ふわりと、お姫さまにするみたいに、優しく抱き起してくれた。

「大人は、吸血衝動をおさえられるから、大丈夫。だからレオに、届けてほしい」

 お願い、と背中を押される。レオのいる、広場のほうへ。

「――わかりました。ありがとう!」

 力強くうなずいて、わたしは来た道を駆け出した。

 うっ、とうめく声がした。

 一瞬、ふり向くと、ルークさんが苦しそうな顔をして、額をおさえていた。衝動をおさえられるといっても、つらいことに変わりはないみたいだ。ひとのいないところに行きたいのか、ルークさんは森に向けて駆けだした。

 弱々しい姿に、不安になる。だけど、ルークさんが「大丈夫」って言ったんだ。信じよう。

「……レオ!」

 わたしも、前だけ見て、走り出した。
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