上 下
47 / 54
第十三章 ルリの戦い

(二)

しおりを挟む
「わたしの、どこが? きみたちを襲っているのに」
「優しいですよ」

 わたしは、いままでのことを思い出す。

「わたしに乱暴はしてない。剣で襲ってきたときも、刃じゃない側で斬ってた。狼に襲われたミナセの怪我も、手当てしてくれた」

 そうだ。ルークさんって、わたしやミナセを、殺そうとはしていなかったんだ。

 話すうちに、どんどん自信がついてくる。

「ルークさん、レオを傷つけることも、本当は、嫌なんじゃないですか?」
「そんなこと……」
「嫌じゃなかったら、そんな、つらそうな顔しません!」

 声を大きくすると、ルークさんは口を閉ざす。

 ルークさん、気づいてないのかもしれないけど、今日ずっと、レオに「ごめん」って言い続けてるんだよ。だから、こんなこと、本当はしたくないんじゃないの?

「わたし、はじめてルークさんと話したとき、レオと同じ目をしてるって思いました」

 赤くて、宝石にも負けない、きらきらした瞳。

「レオと同じ目をしているルークさんは、優しいひとのはずなんです。きらきらしてる目を持ってるひとは、いいひとなんです!」

 心が優しいと、瞳に現れる。わたしは、そう思う。レオもミナセも、みんな、すてきな瞳をしてる。ルークさんだって、そうだ。

「もう、こんなひどいこと、しないでください!」

 ルークさんは黙ったまま、わたしを見つめた。わたしも、祈るように見つめ返す。だけど、やがて……、ルークさんは首をふった。

「わたしはもう、決めたんだ。掟には縛られない。邪魔しないでくれ」

 こつこつ、と石畳の道を、ルークさんが歩み寄ってくる。

 わたしは、ごくっとのどを鳴らして、拳を握った。

(どうして、わかってもらえないんだろう)

 剣は広場に置いてきてしまった。武器はない。でもそれはルークさんだって同じはず。

 そう思ったとき。

「残念。わたしは、ずるい大人なんだよ」

 ルークさんは服の下から、小さな刀を取り出した。もう一本、持ってたの……⁉

「こんなわたしと、レオが同じなんて、言わないでおくれ。レオに申し訳ない」

 ルークさんは、悲しそうにつぶやいた。

「殺しはしないから、すこしだけ、眠っていてくれるかな」

 とん、と一気に距離を縮められる。刀がふり上げられる。

(どうしよう……)
(ううん、ダメ。ここでわたしが倒れちゃダメ)
(レオも、ミナセも、わたしを待ってるんだから)

 おびえそうになった心を、ふるい起こす。わたしは、ふたりのところに帰らないといけないんだ。

「あきらめたり、しない……!」

 近づいてくる刀に、手をのばした。ルークさんがぎょっとする。

「なにしてるの。怪我が増えるだけだよ! やめなさい!」
「ううん! これも、石だから!」

 刀は、もともと石からできている。石を溶かして、固め直したものだ。だったら、壊せる!

 ありったけの力を、両手にこめた。一瞬、激しい光がほとばしる。刀に小さなヒビが入って、ピシピシと音をたてた。

「壊れて……っ!」

 わたしの叫びにあわせて、また、雷のような光が刀をつらぬく。ルークさんの手もとから、刀が、きらきらと小さな破片になって、こぼれ落ちていく。

「そんな、刀が……」

 目を見開いて固まっているルークさんの腕を、強くつかんだ。

「あきらめてください、ルークさん! 武器がないと、戦えませんよね!」

 ルークさんは、なにも言えないようだった。

 しばらく黙ってから、小さな声でつぶやく。

「……あーあ、宝石店の女の子は、敵に回せないな」

 ルークさんは力が抜けたように、地面に座り込んだ。わたしも、その手を握ったまま、ルークさんの前にしゃがむ。

(あ、もう、大丈夫だ)

 ルークさんの目から、戦う意志がなくなっていた。その代わりに、ただ、泣きそうに眉をぎゅっと寄せている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

魔法使いアルル

かのん
児童書・童話
 今年で10歳になるアルルは、月夜の晩、自分の誕生日に納屋の中でこっそりとパンを食べながら歌を歌っていた。  これまで自分以外に誰にも祝われる事のなかった日。  だが、偉大な大魔法使いに出会うことでアルルの世界は色を変えていく。  孤独な少女アルルが、魔法使いになって奮闘する物語。  ありがたいことに書籍化が進行中です!ありがとうございます。

YouTuber犬『みたらし』の日常

雪月風花
児童書・童話
オレの名前は『みたらし』。 二歳の柴犬だ。 飼い主のパパさんは、YouTubeで一発当てることを夢見て、先月仕事を辞めた。 まぁいい。 オレには関係ない。 エサさえ貰えればそれでいい。 これは、そんなオレの話だ。 本作は、他小説投稿サイト『小説家になろう』『カクヨム』さんでも投稿している、いわゆる多重投稿作品となっております。 無断転載作品ではありませんので、ご注意ください。

ひかりにふれたねこ

1000
児童書・童話
遠い昔、深い森の奥に、ふわふわ浮かぶ、ひかるさかなが住んでいました。 ひかるさかなは、いつも そこにいて、周りを照らしています。 そこに 暗い目をした黒猫:やみねこがやってきました。 やみねこが、ひかるさかなに望んだこととは……? 登場人物 ・やみねこ ・ひかるさかな ※ひかりにふれたねこ、完結しました! 宜しくお願いします<(_ _)>

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

わけありのイケメン捜査官は英国名家の御曹司、潜入先のロンドンで絶縁していた家族が事件に

川喜多アンヌ
ミステリー
あのイケメンが捜査官? 話せば長~いわけありで。 もしあなたの同僚が、潜入捜査官だったら? こんな人がいるんです。 ホークは十四歳で家出した。名門の家も学校も捨てた。以来ずっと偽名で生きている。だから他人に化ける演技は超一流。証券会社に潜入するのは問題ない……のはずだったんだけど――。 なりきり過ぎる捜査官の、どっちが本業かわからない潜入捜査。怒涛のような業務と客に振り回されて、任務を遂行できるのか? そんな中、家族を巻き込む事件に遭遇し……。 リアルなオフィスのあるあるに笑ってください。 主人公は4話目から登場します。表紙は自作です。 主な登場人物 ホーク……米国歳入庁(IRS)特別捜査官である主人公の暗号名。今回潜入中の名前はアラン・キャンベル。恋人の前ではデイヴィッド・コリンズ。 トニー・リナルディ……米国歳入庁の主任特別捜査官。ホークの上司。 メイリード・コリンズ……ワシントンでホークが同棲する恋人。 カルロ・バルディーニ……米国歳入庁捜査局ロンドン支部のリーダー。ホークのロンドンでの上司。 アダム・グリーンバーグ……LB証券でのホークの同僚。欧州株式営業部。 イーサン、ライアン、ルパート、ジョルジオ……同。 パメラ……同。営業アシスタント。 レイチェル・ハリー……同。審査部次長。 エディ・ミケルソン……同。株式部COO。 ハル・タキガワ……同。人事部スタッフ。東京支店のリストラでロンドンに転勤中。 ジェイミー・トールマン……LB証券でのホークの上司。株式営業本部長。 トマシュ・レコフ……ロマネスク海運の社長。ホークの客。 アンドレ・ブルラク……ロマネスク海運の財務担当者。 マリー・ラクロワ……トマシュ・レコフの愛人。ホークの客。 マーク・スチュアート……資産運用会社『セブンオークス』の社長。ホークの叔父。 グレン・スチュアート……マークの息子。

初恋迷路

稲葉海三
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞】で奨励賞をいただきました。 桜井あずさは、幼なじみの日向カケルに恋をした。 しかし、カケルが好きなのは、あずさの親友の女の子。 そのことを知ったあずさは、恋愛と友情の狭間で苦しむことに……。 中学に進学したばかりの幼なじみ4人が繰り広げる純粋で不器用な初恋の物語。 ※たくさんの方に応援してただき、誠にありがとうございました。  完結から連載中に変更し、少しずつ改稿をさせていただきます。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
児童書・童話
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 <第2回きずな児童書大賞にて奨励賞を受賞しました>

処理中です...