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第十三章 ルリの戦い
(二)
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「わたしの、どこが? きみたちを襲っているのに」
「優しいですよ」
わたしは、いままでのことを思い出す。
「わたしに乱暴はしてない。剣で襲ってきたときも、刃じゃない側で斬ってた。狼に襲われたミナセの怪我も、手当てしてくれた」
そうだ。ルークさんって、わたしやミナセを、殺そうとはしていなかったんだ。
話すうちに、どんどん自信がついてくる。
「ルークさん、レオを傷つけることも、本当は、嫌なんじゃないですか?」
「そんなこと……」
「嫌じゃなかったら、そんな、つらそうな顔しません!」
声を大きくすると、ルークさんは口を閉ざす。
ルークさん、気づいてないのかもしれないけど、今日ずっと、レオに「ごめん」って言い続けてるんだよ。だから、こんなこと、本当はしたくないんじゃないの?
「わたし、はじめてルークさんと話したとき、レオと同じ目をしてるって思いました」
赤くて、宝石にも負けない、きらきらした瞳。
「レオと同じ目をしているルークさんは、優しいひとのはずなんです。きらきらしてる目を持ってるひとは、いいひとなんです!」
心が優しいと、瞳に現れる。わたしは、そう思う。レオもミナセも、みんな、すてきな瞳をしてる。ルークさんだって、そうだ。
「もう、こんなひどいこと、しないでください!」
ルークさんは黙ったまま、わたしを見つめた。わたしも、祈るように見つめ返す。だけど、やがて……、ルークさんは首をふった。
「わたしはもう、決めたんだ。掟には縛られない。邪魔しないでくれ」
こつこつ、と石畳の道を、ルークさんが歩み寄ってくる。
わたしは、ごくっとのどを鳴らして、拳を握った。
(どうして、わかってもらえないんだろう)
剣は広場に置いてきてしまった。武器はない。でもそれはルークさんだって同じはず。
そう思ったとき。
「残念。わたしは、ずるい大人なんだよ」
ルークさんは服の下から、小さな刀を取り出した。もう一本、持ってたの……⁉
「こんなわたしと、レオが同じなんて、言わないでおくれ。レオに申し訳ない」
ルークさんは、悲しそうにつぶやいた。
「殺しはしないから、すこしだけ、眠っていてくれるかな」
とん、と一気に距離を縮められる。刀がふり上げられる。
(どうしよう……)
(ううん、ダメ。ここでわたしが倒れちゃダメ)
(レオも、ミナセも、わたしを待ってるんだから)
おびえそうになった心を、ふるい起こす。わたしは、ふたりのところに帰らないといけないんだ。
「あきらめたり、しない……!」
近づいてくる刀に、手をのばした。ルークさんがぎょっとする。
「なにしてるの。怪我が増えるだけだよ! やめなさい!」
「ううん! これも、石だから!」
刀は、もともと石からできている。石を溶かして、固め直したものだ。だったら、壊せる!
ありったけの力を、両手にこめた。一瞬、激しい光がほとばしる。刀に小さなヒビが入って、ピシピシと音をたてた。
「壊れて……っ!」
わたしの叫びにあわせて、また、雷のような光が刀をつらぬく。ルークさんの手もとから、刀が、きらきらと小さな破片になって、こぼれ落ちていく。
「そんな、刀が……」
目を見開いて固まっているルークさんの腕を、強くつかんだ。
「あきらめてください、ルークさん! 武器がないと、戦えませんよね!」
ルークさんは、なにも言えないようだった。
しばらく黙ってから、小さな声でつぶやく。
「……あーあ、宝石店の女の子は、敵に回せないな」
ルークさんは力が抜けたように、地面に座り込んだ。わたしも、その手を握ったまま、ルークさんの前にしゃがむ。
(あ、もう、大丈夫だ)
ルークさんの目から、戦う意志がなくなっていた。その代わりに、ただ、泣きそうに眉をぎゅっと寄せている。
「優しいですよ」
わたしは、いままでのことを思い出す。
「わたしに乱暴はしてない。剣で襲ってきたときも、刃じゃない側で斬ってた。狼に襲われたミナセの怪我も、手当てしてくれた」
そうだ。ルークさんって、わたしやミナセを、殺そうとはしていなかったんだ。
話すうちに、どんどん自信がついてくる。
「ルークさん、レオを傷つけることも、本当は、嫌なんじゃないですか?」
「そんなこと……」
「嫌じゃなかったら、そんな、つらそうな顔しません!」
声を大きくすると、ルークさんは口を閉ざす。
ルークさん、気づいてないのかもしれないけど、今日ずっと、レオに「ごめん」って言い続けてるんだよ。だから、こんなこと、本当はしたくないんじゃないの?
「わたし、はじめてルークさんと話したとき、レオと同じ目をしてるって思いました」
赤くて、宝石にも負けない、きらきらした瞳。
「レオと同じ目をしているルークさんは、優しいひとのはずなんです。きらきらしてる目を持ってるひとは、いいひとなんです!」
心が優しいと、瞳に現れる。わたしは、そう思う。レオもミナセも、みんな、すてきな瞳をしてる。ルークさんだって、そうだ。
「もう、こんなひどいこと、しないでください!」
ルークさんは黙ったまま、わたしを見つめた。わたしも、祈るように見つめ返す。だけど、やがて……、ルークさんは首をふった。
「わたしはもう、決めたんだ。掟には縛られない。邪魔しないでくれ」
こつこつ、と石畳の道を、ルークさんが歩み寄ってくる。
わたしは、ごくっとのどを鳴らして、拳を握った。
(どうして、わかってもらえないんだろう)
剣は広場に置いてきてしまった。武器はない。でもそれはルークさんだって同じはず。
そう思ったとき。
「残念。わたしは、ずるい大人なんだよ」
ルークさんは服の下から、小さな刀を取り出した。もう一本、持ってたの……⁉
「こんなわたしと、レオが同じなんて、言わないでおくれ。レオに申し訳ない」
ルークさんは、悲しそうにつぶやいた。
「殺しはしないから、すこしだけ、眠っていてくれるかな」
とん、と一気に距離を縮められる。刀がふり上げられる。
(どうしよう……)
(ううん、ダメ。ここでわたしが倒れちゃダメ)
(レオも、ミナセも、わたしを待ってるんだから)
おびえそうになった心を、ふるい起こす。わたしは、ふたりのところに帰らないといけないんだ。
「あきらめたり、しない……!」
近づいてくる刀に、手をのばした。ルークさんがぎょっとする。
「なにしてるの。怪我が増えるだけだよ! やめなさい!」
「ううん! これも、石だから!」
刀は、もともと石からできている。石を溶かして、固め直したものだ。だったら、壊せる!
ありったけの力を、両手にこめた。一瞬、激しい光がほとばしる。刀に小さなヒビが入って、ピシピシと音をたてた。
「壊れて……っ!」
わたしの叫びにあわせて、また、雷のような光が刀をつらぬく。ルークさんの手もとから、刀が、きらきらと小さな破片になって、こぼれ落ちていく。
「そんな、刀が……」
目を見開いて固まっているルークさんの腕を、強くつかんだ。
「あきらめてください、ルークさん! 武器がないと、戦えませんよね!」
ルークさんは、なにも言えないようだった。
しばらく黙ってから、小さな声でつぶやく。
「……あーあ、宝石店の女の子は、敵に回せないな」
ルークさんは力が抜けたように、地面に座り込んだ。わたしも、その手を握ったまま、ルークさんの前にしゃがむ。
(あ、もう、大丈夫だ)
ルークさんの目から、戦う意志がなくなっていた。その代わりに、ただ、泣きそうに眉をぎゅっと寄せている。
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