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第十二章 レオの戦い
(二)
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返事がない。わたしは一気に不安になった。
まさか、もうルークさんにばれて、襲われた……?
「レオ! レオ、いる⁉」
わたしも、どんどん、と強く扉をたたく。
「……ルリ、か?」
小さな声がした。
「レオ!」
わたしとミナセの声がそろう。
よかった、ここにいた!
でも、レオの声はふるえている。
「赤輝石が、ないから……、ほんと、きついんだけど……」
切れ切れに、でも苦く笑っているような声が、扉ごしに聞こえる。瞬間、わたしの頭には、暴走してわたしを襲おうとしたレオの姿が浮かんだ。きっといまも、吸血衝動をおさえるのに必死なんだ。
「レオ。ルーク殿は来てないかい?」
「あ……? 来てないぞ。ちゃんと、だれにも見られないように、隠れたからな……」
レオは苦しそうに声を出す。
「つーか、ルリたち、昨日、帰ってこなかったけど……、なんかあったのか?」
「わたしたちは大丈夫だよ!」
「そっか。……悪い、おれ、そのうち、意識飛ぶかも」
言葉の合間合間に、低くうなる声がする。
血が飲みたい、苦しい。そんな言葉が、声にはしなくても聞こえてくるみたいだった。
「暴走したら、前みたいに、魔法ぶつけて、おれを止めてくれ……!」
わたしはミナセと顔を見合わせた。ミナセはいま、魔法が使えない。わたしの魔法では、たぶん、レオを止めることはできない。それでも、ふたり同時にうなずいた。
「任せて!」
レオが安心したように笑う気配があった。すぐあとに、うっと苦しそうにうめく。もうそれ以上の会話はできそうになかった。
どん、どん、と扉が内側からたたかれる。きっと、レオが暴れているんだ。この中で、必死に戦っている。自分の中の、ひとを襲ってしまう衝動と。
「大丈夫だよ、ルリ。レオならきっと、大丈夫」
「うん」
夜が明けるまで、数時間。
(耐えて、レオ)
祈ることしかできない自分が、情けない。だけど、どうか……、レオが悲しむことが起きませんように。優しいレオは、わたしたちも、街のひとも、ルークさんも、傷つけたくはないはずだから――。
「ごきげんよう、レディ」
突然、声がした。
空気が凍り、わたしとミナセは背後をふり向く。
わたしたちの間を、一直線に、白く輝くものが飛んできた。
キンッ。
高い音。
(あ……!)
勢いよく飛んできた剣は、扉の錠前に突き刺さった。錠前は壊れて、あっけなく扉から落ちる。
「探したよ、わたしのかわいいレオ」
闇の中から現れたルークさんは、にっこりと微笑んだ。
まさか、もうルークさんにばれて、襲われた……?
「レオ! レオ、いる⁉」
わたしも、どんどん、と強く扉をたたく。
「……ルリ、か?」
小さな声がした。
「レオ!」
わたしとミナセの声がそろう。
よかった、ここにいた!
でも、レオの声はふるえている。
「赤輝石が、ないから……、ほんと、きついんだけど……」
切れ切れに、でも苦く笑っているような声が、扉ごしに聞こえる。瞬間、わたしの頭には、暴走してわたしを襲おうとしたレオの姿が浮かんだ。きっといまも、吸血衝動をおさえるのに必死なんだ。
「レオ。ルーク殿は来てないかい?」
「あ……? 来てないぞ。ちゃんと、だれにも見られないように、隠れたからな……」
レオは苦しそうに声を出す。
「つーか、ルリたち、昨日、帰ってこなかったけど……、なんかあったのか?」
「わたしたちは大丈夫だよ!」
「そっか。……悪い、おれ、そのうち、意識飛ぶかも」
言葉の合間合間に、低くうなる声がする。
血が飲みたい、苦しい。そんな言葉が、声にはしなくても聞こえてくるみたいだった。
「暴走したら、前みたいに、魔法ぶつけて、おれを止めてくれ……!」
わたしはミナセと顔を見合わせた。ミナセはいま、魔法が使えない。わたしの魔法では、たぶん、レオを止めることはできない。それでも、ふたり同時にうなずいた。
「任せて!」
レオが安心したように笑う気配があった。すぐあとに、うっと苦しそうにうめく。もうそれ以上の会話はできそうになかった。
どん、どん、と扉が内側からたたかれる。きっと、レオが暴れているんだ。この中で、必死に戦っている。自分の中の、ひとを襲ってしまう衝動と。
「大丈夫だよ、ルリ。レオならきっと、大丈夫」
「うん」
夜が明けるまで、数時間。
(耐えて、レオ)
祈ることしかできない自分が、情けない。だけど、どうか……、レオが悲しむことが起きませんように。優しいレオは、わたしたちも、街のひとも、ルークさんも、傷つけたくはないはずだから――。
「ごきげんよう、レディ」
突然、声がした。
空気が凍り、わたしとミナセは背後をふり向く。
わたしたちの間を、一直線に、白く輝くものが飛んできた。
キンッ。
高い音。
(あ……!)
勢いよく飛んできた剣は、扉の錠前に突き刺さった。錠前は壊れて、あっけなく扉から落ちる。
「探したよ、わたしのかわいいレオ」
闇の中から現れたルークさんは、にっこりと微笑んだ。
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