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第十二章 レオの戦い
(一)
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わたしたちがいたのは、森の中にある小屋だった。
わたしは、自分たちの街がどの方向にあるのかもわからなかった。だけど、ミナセは空に輝きはじめた星の位置を確認して、すぐさま向かうべき場所がわかったらしい。
「こっちだよ!」
ランプの小さな灯りを頼りに、わたしたちは全力で薄暗い森を進んだ。
「間に合うかな……」
「大丈夫、この森、そんなに広くない!」
何度も木の根につまずきそうになった。それに、夜の森は不気味だ。獣だって、魔物だっているはず。あちこちから、わたしたちを狙っている目があるように思えてしまう。
ぴっとりと、わたしたちを見ている気配が、気になって仕方ない。
だけど、怖がっている暇はない。
(はやく、レオに会いたい。無事だって確認したい)
赤輝石は手に入らなかった。だからせめて、レオが街に出て、だれかを襲うことがないように、わたしとミナセで見守らないといけないんだ。ルークさんからも、守ってあげないと。
「ルリ、もうすぐだ。牢に見張りがいなかったのが幸いだね」
ミナセの言葉どおり、やがて、街が見えてきた。
そのときには、あたりは夜の闇に包まれていた。レンガづくりの街並みは、真っ赤な空気に満ちている。森を抜けたことで、やっと木の葉に邪魔されずに、夜空を見上げることができた。
「ブラッド・ムーン」
真っ赤な、月。血のように不気味な、だけど神秘的で美しくも感じる月が、夜空からわたしたちを見下ろしていた。
「ルリ、はやく!」
「うん。……って、どこ行くの⁉」
ミナセは街を走り抜ける。でもそっちは、ミナセの家の方角じゃない。レオは、そっちにいないはずなのに。
「昨日、レオには別の小屋に移ってもらったんだ!」
「え⁉」
ミナセはふり向いて叫ぶ。目でついてきて、と促されて、わたしもあわてて追いかけた。
「別の場所って?」
「レオがルリの家にいないとなると、次にルーク殿が疑うのは、ぼくの家だろう。だから、あそこも危ないと思って、街の使われていない建物に避難してもらった」
「そうなの⁉」
あ、だから昨日、レオに会えなかったのか。
「ミナセってば、なんで教えてくれなかったの!」
「どこからルーク殿に情報がもれるかわからなかったから、秘密にしたほうがいいと思ってね。昨日、極秘で教会の鍵を借りてきて閉じこもるように、レオに頼んだんだ」
(だからって、わたしだけ、のけ者……⁉)
怒りたいのに、わたしは走るのに精いっぱいで、これ以上大声を出す力もなかった。
あとで絶対、文句言ってやる!
ミナセに連れていかれたのは、街のすこしはずれた場所。道の交差するところに開かれた、小広場だった。
ここには小さな教会がある。礼拝堂(正面に十字架と、両脇に神さまにお祈りをするための椅子が並べられた場所)、だけしかない、小さな教会だ。いまはもう使われていなくて、すこしボロボロだけど、外から鍵はかけられる。
だけど、わたしはぎょっとした。
「ここ⁉ 吸血鬼に教会って大丈夫なの……?」
吸血鬼って、たしか、十字架が苦手じゃなかった? 十字架と、日の光と、にんにくが弱点だったはず。
「苦手なだけで問題はないみたいだよ。十字架よりもトマトのほうがよっぽど嫌いだって、レオが言ってた」
「ああ、トマト……。それはレオの好き嫌いでしょ……」
「でも十字架が苦手なのはたしからしいし、ルーク殿も、まさかレオが教会にいるとは思わないだろう」
そっか、それはそうかも。
「ミナセ、天才!」
「ありがとう。まあ、それを言うのはレオが無事か確認してからだね」
ミナセは、どん、と錠前のかかった教会の扉をたたいた。
「レオ! いるかい⁉」
わたしは、自分たちの街がどの方向にあるのかもわからなかった。だけど、ミナセは空に輝きはじめた星の位置を確認して、すぐさま向かうべき場所がわかったらしい。
「こっちだよ!」
ランプの小さな灯りを頼りに、わたしたちは全力で薄暗い森を進んだ。
「間に合うかな……」
「大丈夫、この森、そんなに広くない!」
何度も木の根につまずきそうになった。それに、夜の森は不気味だ。獣だって、魔物だっているはず。あちこちから、わたしたちを狙っている目があるように思えてしまう。
ぴっとりと、わたしたちを見ている気配が、気になって仕方ない。
だけど、怖がっている暇はない。
(はやく、レオに会いたい。無事だって確認したい)
赤輝石は手に入らなかった。だからせめて、レオが街に出て、だれかを襲うことがないように、わたしとミナセで見守らないといけないんだ。ルークさんからも、守ってあげないと。
「ルリ、もうすぐだ。牢に見張りがいなかったのが幸いだね」
ミナセの言葉どおり、やがて、街が見えてきた。
そのときには、あたりは夜の闇に包まれていた。レンガづくりの街並みは、真っ赤な空気に満ちている。森を抜けたことで、やっと木の葉に邪魔されずに、夜空を見上げることができた。
「ブラッド・ムーン」
真っ赤な、月。血のように不気味な、だけど神秘的で美しくも感じる月が、夜空からわたしたちを見下ろしていた。
「ルリ、はやく!」
「うん。……って、どこ行くの⁉」
ミナセは街を走り抜ける。でもそっちは、ミナセの家の方角じゃない。レオは、そっちにいないはずなのに。
「昨日、レオには別の小屋に移ってもらったんだ!」
「え⁉」
ミナセはふり向いて叫ぶ。目でついてきて、と促されて、わたしもあわてて追いかけた。
「別の場所って?」
「レオがルリの家にいないとなると、次にルーク殿が疑うのは、ぼくの家だろう。だから、あそこも危ないと思って、街の使われていない建物に避難してもらった」
「そうなの⁉」
あ、だから昨日、レオに会えなかったのか。
「ミナセってば、なんで教えてくれなかったの!」
「どこからルーク殿に情報がもれるかわからなかったから、秘密にしたほうがいいと思ってね。昨日、極秘で教会の鍵を借りてきて閉じこもるように、レオに頼んだんだ」
(だからって、わたしだけ、のけ者……⁉)
怒りたいのに、わたしは走るのに精いっぱいで、これ以上大声を出す力もなかった。
あとで絶対、文句言ってやる!
ミナセに連れていかれたのは、街のすこしはずれた場所。道の交差するところに開かれた、小広場だった。
ここには小さな教会がある。礼拝堂(正面に十字架と、両脇に神さまにお祈りをするための椅子が並べられた場所)、だけしかない、小さな教会だ。いまはもう使われていなくて、すこしボロボロだけど、外から鍵はかけられる。
だけど、わたしはぎょっとした。
「ここ⁉ 吸血鬼に教会って大丈夫なの……?」
吸血鬼って、たしか、十字架が苦手じゃなかった? 十字架と、日の光と、にんにくが弱点だったはず。
「苦手なだけで問題はないみたいだよ。十字架よりもトマトのほうがよっぽど嫌いだって、レオが言ってた」
「ああ、トマト……。それはレオの好き嫌いでしょ……」
「でも十字架が苦手なのはたしからしいし、ルーク殿も、まさかレオが教会にいるとは思わないだろう」
そっか、それはそうかも。
「ミナセ、天才!」
「ありがとう。まあ、それを言うのはレオが無事か確認してからだね」
ミナセは、どん、と錠前のかかった教会の扉をたたいた。
「レオ! いるかい⁉」
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