41 / 54
第十二章 レオの戦い
(一)
しおりを挟む
わたしたちがいたのは、森の中にある小屋だった。
わたしは、自分たちの街がどの方向にあるのかもわからなかった。だけど、ミナセは空に輝きはじめた星の位置を確認して、すぐさま向かうべき場所がわかったらしい。
「こっちだよ!」
ランプの小さな灯りを頼りに、わたしたちは全力で薄暗い森を進んだ。
「間に合うかな……」
「大丈夫、この森、そんなに広くない!」
何度も木の根につまずきそうになった。それに、夜の森は不気味だ。獣だって、魔物だっているはず。あちこちから、わたしたちを狙っている目があるように思えてしまう。
ぴっとりと、わたしたちを見ている気配が、気になって仕方ない。
だけど、怖がっている暇はない。
(はやく、レオに会いたい。無事だって確認したい)
赤輝石は手に入らなかった。だからせめて、レオが街に出て、だれかを襲うことがないように、わたしとミナセで見守らないといけないんだ。ルークさんからも、守ってあげないと。
「ルリ、もうすぐだ。牢に見張りがいなかったのが幸いだね」
ミナセの言葉どおり、やがて、街が見えてきた。
そのときには、あたりは夜の闇に包まれていた。レンガづくりの街並みは、真っ赤な空気に満ちている。森を抜けたことで、やっと木の葉に邪魔されずに、夜空を見上げることができた。
「ブラッド・ムーン」
真っ赤な、月。血のように不気味な、だけど神秘的で美しくも感じる月が、夜空からわたしたちを見下ろしていた。
「ルリ、はやく!」
「うん。……って、どこ行くの⁉」
ミナセは街を走り抜ける。でもそっちは、ミナセの家の方角じゃない。レオは、そっちにいないはずなのに。
「昨日、レオには別の小屋に移ってもらったんだ!」
「え⁉」
ミナセはふり向いて叫ぶ。目でついてきて、と促されて、わたしもあわてて追いかけた。
「別の場所って?」
「レオがルリの家にいないとなると、次にルーク殿が疑うのは、ぼくの家だろう。だから、あそこも危ないと思って、街の使われていない建物に避難してもらった」
「そうなの⁉」
あ、だから昨日、レオに会えなかったのか。
「ミナセってば、なんで教えてくれなかったの!」
「どこからルーク殿に情報がもれるかわからなかったから、秘密にしたほうがいいと思ってね。昨日、極秘で教会の鍵を借りてきて閉じこもるように、レオに頼んだんだ」
(だからって、わたしだけ、のけ者……⁉)
怒りたいのに、わたしは走るのに精いっぱいで、これ以上大声を出す力もなかった。
あとで絶対、文句言ってやる!
ミナセに連れていかれたのは、街のすこしはずれた場所。道の交差するところに開かれた、小広場だった。
ここには小さな教会がある。礼拝堂(正面に十字架と、両脇に神さまにお祈りをするための椅子が並べられた場所)、だけしかない、小さな教会だ。いまはもう使われていなくて、すこしボロボロだけど、外から鍵はかけられる。
だけど、わたしはぎょっとした。
「ここ⁉ 吸血鬼に教会って大丈夫なの……?」
吸血鬼って、たしか、十字架が苦手じゃなかった? 十字架と、日の光と、にんにくが弱点だったはず。
「苦手なだけで問題はないみたいだよ。十字架よりもトマトのほうがよっぽど嫌いだって、レオが言ってた」
「ああ、トマト……。それはレオの好き嫌いでしょ……」
「でも十字架が苦手なのはたしからしいし、ルーク殿も、まさかレオが教会にいるとは思わないだろう」
そっか、それはそうかも。
「ミナセ、天才!」
「ありがとう。まあ、それを言うのはレオが無事か確認してからだね」
ミナセは、どん、と錠前のかかった教会の扉をたたいた。
「レオ! いるかい⁉」
わたしは、自分たちの街がどの方向にあるのかもわからなかった。だけど、ミナセは空に輝きはじめた星の位置を確認して、すぐさま向かうべき場所がわかったらしい。
「こっちだよ!」
ランプの小さな灯りを頼りに、わたしたちは全力で薄暗い森を進んだ。
「間に合うかな……」
「大丈夫、この森、そんなに広くない!」
何度も木の根につまずきそうになった。それに、夜の森は不気味だ。獣だって、魔物だっているはず。あちこちから、わたしたちを狙っている目があるように思えてしまう。
ぴっとりと、わたしたちを見ている気配が、気になって仕方ない。
だけど、怖がっている暇はない。
(はやく、レオに会いたい。無事だって確認したい)
赤輝石は手に入らなかった。だからせめて、レオが街に出て、だれかを襲うことがないように、わたしとミナセで見守らないといけないんだ。ルークさんからも、守ってあげないと。
「ルリ、もうすぐだ。牢に見張りがいなかったのが幸いだね」
ミナセの言葉どおり、やがて、街が見えてきた。
そのときには、あたりは夜の闇に包まれていた。レンガづくりの街並みは、真っ赤な空気に満ちている。森を抜けたことで、やっと木の葉に邪魔されずに、夜空を見上げることができた。
「ブラッド・ムーン」
真っ赤な、月。血のように不気味な、だけど神秘的で美しくも感じる月が、夜空からわたしたちを見下ろしていた。
「ルリ、はやく!」
「うん。……って、どこ行くの⁉」
ミナセは街を走り抜ける。でもそっちは、ミナセの家の方角じゃない。レオは、そっちにいないはずなのに。
「昨日、レオには別の小屋に移ってもらったんだ!」
「え⁉」
ミナセはふり向いて叫ぶ。目でついてきて、と促されて、わたしもあわてて追いかけた。
「別の場所って?」
「レオがルリの家にいないとなると、次にルーク殿が疑うのは、ぼくの家だろう。だから、あそこも危ないと思って、街の使われていない建物に避難してもらった」
「そうなの⁉」
あ、だから昨日、レオに会えなかったのか。
「ミナセってば、なんで教えてくれなかったの!」
「どこからルーク殿に情報がもれるかわからなかったから、秘密にしたほうがいいと思ってね。昨日、極秘で教会の鍵を借りてきて閉じこもるように、レオに頼んだんだ」
(だからって、わたしだけ、のけ者……⁉)
怒りたいのに、わたしは走るのに精いっぱいで、これ以上大声を出す力もなかった。
あとで絶対、文句言ってやる!
ミナセに連れていかれたのは、街のすこしはずれた場所。道の交差するところに開かれた、小広場だった。
ここには小さな教会がある。礼拝堂(正面に十字架と、両脇に神さまにお祈りをするための椅子が並べられた場所)、だけしかない、小さな教会だ。いまはもう使われていなくて、すこしボロボロだけど、外から鍵はかけられる。
だけど、わたしはぎょっとした。
「ここ⁉ 吸血鬼に教会って大丈夫なの……?」
吸血鬼って、たしか、十字架が苦手じゃなかった? 十字架と、日の光と、にんにくが弱点だったはず。
「苦手なだけで問題はないみたいだよ。十字架よりもトマトのほうがよっぽど嫌いだって、レオが言ってた」
「ああ、トマト……。それはレオの好き嫌いでしょ……」
「でも十字架が苦手なのはたしからしいし、ルーク殿も、まさかレオが教会にいるとは思わないだろう」
そっか、それはそうかも。
「ミナセ、天才!」
「ありがとう。まあ、それを言うのはレオが無事か確認してからだね」
ミナセは、どん、と錠前のかかった教会の扉をたたいた。
「レオ! いるかい⁉」
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~
世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。
友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。
ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。
だが、彼らはまだ知らなかった。
ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。
敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。
果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか?
8月中、ほぼ毎日更新予定です。
(※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。
魔法少女はまだ翔べない
東 里胡
児童書・童話
第15回絵本・児童書大賞、奨励賞をいただきました、応援下さった皆様、ありがとうございます!
中学一年生のキラリが転校先で出会ったのは、キラという男の子。
キラキラコンビと名付けられた二人とクラスの仲間たちは、ケンカしたり和解をして絆を深め合うが、キラリはとある事情で一時的に転校してきただけ。
駄菓子屋を営む、おばあちゃんや仲間たちと過ごす海辺の町、ひと夏の思い出。
そこで知った自分の家にまつわる秘密にキラリも覚醒して……。
果たしてキラリの夏は、キラキラになるのか、それとも?
表紙はpixivてんぱる様にお借りしております。
天空の魔女 リプルとペブル
やすいやくし
児童書・童話
天空の大陸に住むふたりの魔女が主人公の魔法冒険ファンタジー。
魔法が得意で好奇心おうせいだけど、とある秘密をかかえているリプルと、
基本ダメダメだけど、いざとなると、どたんばパワーをだすペブル。
平和だった魔女学園に闇の勢力が出没しはじめる。
王都からやってきたふたりの少年魔法士とともに、
王都をめざすことになったリプルとペブル。
きほんまったり&ときどきドキドキの魔女たちの冒険物語。
ふたりの魔女はこの大陸を救うことができるのか!?
表紙イラスト&さし絵も自分で描いています。
氷鬼司のあやかし退治
桜桃-サクランボ-
児童書・童話
日々、あやかしに追いかけられてしまう女子中学生、神崎詩織(かんざきしおり)。
氷鬼家の跡取りであり、天才と周りが認めているほどの実力がある男子中学生の氷鬼司(ひょうきつかさ)は、まだ、詩織が小さかった頃、あやかしに追いかけられていた時、顔に狐の面をつけ助けた。
これからは僕が君を守るよと、その時に約束する。
二人は一年くらいで別れることになってしまったが、二人が中学生になり再開。だが、詩織は自身を助けてくれた男の子が司とは知らない。
それでも、司はあやかしに追いかけられ続けている詩織を守る。
そんな時、カラス天狗が現れ、二人は命の危険にさらされてしまった。
狐面を付けた司を見た詩織は、過去の男の子の面影と重なる。
過去の約束は、二人をつなぎ止める素敵な約束。この約束が果たされた時、二人の想いはきっとつながる。
一人ぼっちだった詩織と、他人に興味なく冷たいと言われている司が繰り広げる、和風現代ファンタジーここに開幕!!
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる