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第十一章 ルリとミナセ、ピンチ!

(一)

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 次の日の朝、わたしはさっそくミナセと待ち合わせをした。わたしたちの街を抜けて、森をひとつ越えた場所に、吸血鬼たちは住んでいる。

 森の中は、夏なのにひんやりとしていた。風が吹くたび、さわさわと木の葉が揺れる。日の光が木の葉のすきまからこぼれ落ちて、まだらに地面を照らしていた。

 わたしは、すこし不機嫌な声でミナセに聞く。

「レオは平気なんだよね?」
「今朝はもう起きてたよ。元気だったから心配しないで」
「じゃあ、なんで会わせてくれないの?」

 そう、なぜだかミナセは、わたしが小屋に行くのを止めてきたんだ。おかげで今朝、レオには会えなかった。

 いくら「心配するな」って言われても、直接顔を見ないとモヤモヤするのに……。

「ごめんね。でもレオには別の仕事を頼んでいたから、今朝はもう小屋にいなかったんだよ」
「え、そうなの⁉」

 わたしは目を白黒させる。てっきりあの小屋にいるんだと思ったのに、いなかったなんて!

 でもなんで、そんなこと……。

「いまはそれよりも、吸血鬼の街に急ごう」

 ミナセはわたしが聞きたいことがあることに気づいている様子だけど、質問する暇を与えてはくれなかった。

 納得いかない。だけど、わたしは歩くことに集中する。たしかに、はやく赤輝石せっきせきをもらわないといけないからね。ブラッド・ムーンまで、あと一日しかない。

 つまり、明日だ。もう時間がない。

「……ルリは、レオのことになると一生懸命だね」

 ふいに、ミナセが言った。

「そうかな?」
「うん。こんなに必死になってるルリを見るのは、久しぶりだよ」
「だって、もともとレオの赤輝石を、わたしが拾ったのがはじまりだったから。どうしても、気になっちゃうよ」

 思い出して、ははは、と乾いた笑い声が出た。わたしのお仕事史上最大の失敗は、あんまり思い出したくない。いまでも、胸が苦しくなって、冷たい汗が出る。次こそ気をつけないと……。

 そんなわたしを見て、ミナセはぽつりとつぶやいた。

「ちょっと、さびしいな」
「え?」
「レオに、ルリを取られちゃったみたいだ」

 わたしは立ち止まった。ミナセも歩みを止めて、わたしを見る。その顔は「さびしい」って言葉がうそじゃないことを伝えてくれた。

(めずらしい。ミナセっていつも大人っぽいのに)

 いまのミナセはしょんぼりして、普段よりもかわいらしく見えた。

「わたし、ミナセがピンチのときも、いまと同じくらい必死になるよ」

 わたしはミナセをまっすぐ見て、言った。

「ミナセを助けるためなら、たくさんがんばれるから。心配しないで。ミナセも苦しいってときは、わたしに言ってね!」

 ぐっと拳を握る。

 ミナセも、わたしにとっては大事な友だちだ。そりゃあもう、必死になって助けるよ!

 うそじゃないよってことを伝えるために、わたしはミナセをじっと見る。じっと。じーっと。栗色の、深くて、落ち着いた瞳……。

「ミナセって、きれいな目をしてるよね」
「へっ?」

 つぶやくと、ミナセは素っとん狂な声を上げた。

「深い色だけど、暗くなくて、透き通ってるの。きらきらがいっぱい」
「そ、そうかな?」
「うん。前からきれいだなーと思ってたけど、改めて見たら、びっくりしちゃった」

 レオの赤い瞳もすてきだけど、ミナセの瞳も宝石みたいだ。うんうん、とわたしはひとりでうなずいた。

 それが恥ずかしかったのか、ミナセの頬がちょっと赤くなる。

「……そっか。ありがとう。そんなこと言われたの、はじめてだよ」
「あ、照れた?」
「うん」

 ミナセは素直にうなずいて、赤い頬で笑った。

 ……なんか、かわいいぞ、ミナセ。きゅんとしちゃったよ!

 ミナセの熱がわたしにもうつったのか、かあっと頬が熱くなった。だって、こんなミナセを見るのはじめてなんだもん。ふたりで赤くなって、ごまかすみたいに森を進む。

 な、なんだろう、この恥ずかしさ……!
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