宝石店の魔法使い~吸血鬼と赤い石~

橘花やよい

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第十章 空の戦い

(四)

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「ルリ、大丈夫だよ。そんなに心配しなくても」

 ミナセが困ったように、わたしの肩をたたく。

「ルリだって疲れただろう? 今日はもう部屋に戻って休むといい」
「……うん」
「どのみち、夜になれば、レオとはいっしょにいられないしね」

 夕陽が街をのみ込んでいくのを見ながら、ミナセは言った。

 ここは、ミナセの家だ。おばあちゃんとふたりで暮らしているミナセの家は、わたしの家よりも小さい。でも庭には小屋があったから、そこにレオを寝かせていた。

 ルークさんの使い魔に襲われたあと、わたしはどうにかレオに肩を貸して歩き、森を抜けた。そこで力尽きそうになったところで、ミナセが駆けつけてくれたんだ。

 ちょうどミナセのお仕事が休けいの時間だったみたいで、わたしの家をのぞきに来ていたらしい。わたしたちがいなかったから、心配になって街中を探してくれていたそうだ。

 ふたりでレオを小屋まで運び、ミナセが回復魔法をかけた。だけど、夕方になったいまも、レオは目を覚まさない。

「ルリの家にレオがいることは、きっとルーク殿にばれてる。今夜から、うちでレオの面倒を見るよ」

 眠るレオのそばにいたわたしを、ミナセはそっと小屋の外に導く。それでも心配な顔を隠せていないわたしの頭に、優しく手を置いた。

「大丈夫。レオもそのうち、目を覚ますだろうから」

 もうすぐ夜だ。これ以上はレオのそばにいられない。それはわかっているけど……。

「ルリ。大丈夫だから。ね?」
「……わかった。レオのこと、お願いね」

 困った顔のミナセに、迷惑はかけられなくて、そう言うしかなかった。とぼとぼと自分の家に戻る。といっても、ミナセとわたしの家は近いから、すぐ家にたどり着いた。

 シャワーを浴びて、自分のベッドに沈み込む。

 身体は、たしかに疲れていた。だけど頭はさえている。

(また、レオが襲われたらどうしよう)

 ルークさんにつかまったら、赤輝石ももたない状態で、レオは街に放り込まれる。そしたら、レオはひとを襲ってしまうんだ。そんなの、優しいレオは望まないのに、血を飲みたい気持ちには抗えなくて……。

「赤輝石があれば」

 わたしははっとして、ベッドから起き上がった。

 すばやく着替えて、夜の街に飛び出す。

 そうだ。赤輝石さえあれば、レオは暴走しない。

(吸血鬼のいる街に、行ってみよう)

 レオが嫌がるから、ルークさんの計画のことはだれにも言えない。だけど、わたしは宝石店の娘だ。「赤輝石をよく見てみたい」と言えば、数日貸してもらうことくらいはできるかもしれない。

 盗まれた赤輝石を探すより、新しい赤輝石を貸してもらったほうがはやいかも。
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