宝石店の魔法使い~吸血鬼と赤い石~

橘花やよい

文字の大きさ
上 下
33 / 54
第十章 空の戦い

(三)

しおりを挟む
「いった……!」

 コウモリの牙が、わたしたちの身体に傷をつけていく。視界はもうコウモリの黒一色。いろいろな方向から、飛んできて肌を切り裂いていく。そのたびに、肌に熱が走った。

(どうにかしなきゃ……!)

 だけど、ふっと、突然。

 感じていたレオの体温がなくなった。

「……え?」
「ルリっ!」

 あせったレオの声がする。

 わたしはコウモリたちの群れから、ひとり、飛び出していた。レオと離れてしまったわたしの身体が、すごい勢いで地面に向かっていくのがわかる。

 なんとかしないと、このままじゃ落ちて死んじゃう……!

(そ、そうだ、飛行魔法! でも、へたなうえに、ほうきもない。飛べるわけない)

 わたしにはレオみたいな翼はない。

 どうしよう。わたし、なにもできない……!

「ルリ! 腕!」

 声が、聞こえた。

「腕のばせ! はやく!」

 考える暇はなかった。わけもわからず、わたしは空に向かって、精いっぱい手を突き出す。

 レオが、ものすごいはやさで、わたしに向かって飛んでくるのが見えた。必死の顔で、わたしの手をつかもうとする。

「あと、もうちょい……! よっしゃ、つかまえた!」

 ぎゅっと、わたしの手が、レオに引っ張られる。

 その瞬間、わたしたちは森の木々にもみくちゃにされた。小枝が身体のあちこちをひっかいていく。ふたりで悲鳴を上げて、小枝の針山が終わると、次は、地面……!

 どん――っ!

 身体に衝撃がかかって、わたしは息をすることもできなかった。

 だけど、思ったほどの衝撃じゃなかった。だって、わたしの下にレオがいて、わたしの代わりに地面にぶつかっていたんだ。

「レオ! レオ!」
「うっ」

 肩を揺すると、小さなうめき声がする。

(よかった、生きてる)

 でもほっとしている時間はない。空からコウモリたちが追ってきている。小さなコウモリたちの群れだったものは、森の地面に降り立つと、ひとつの闇になった。そこから姿を変えて、黒い狼の姿になる。

 いつか見たことがあった。ルークさんの使い魔だ。

「こ、来ないで!」

 狼は低くうなり、牙をむく。

 わたしはレオの腰にあった剣を抜いて、狼に向けて構えた。剣なんて使ったことがない。手がふるえてしまう。それでも、わたしは狼をにらんだ。

「近づいたら、斬るからね!」

 必死の叫びも、狼は気に留めない。ひときわ大きくうなって、狼は飛びかかってきた。

 とっさに、剣をふるう。でも、狼はひらりとよけてしまう。

(ダメだ。どうしよう。どうすればいいの!)

 狼が来る。牙が光る。

「貸せ!」

 ふいに、わたしの手を、後ろからレオが握った。その手が、迷うことなく動く。向かってくる狼の身体めがけて、一直線に。ぐっと手に重い感覚があって、剣は狼の胸を貫いていた。レオは横に剣をすべらせる。

 胸を斬られた狼は、一度細く鳴いたけど、血を流すこともなく、闇となって霧のように消えてしまった。

(助かった……?)

 ほっとしたのもつかの間、後ろで、どさっと、重い音がする。ふり向けば、レオが倒れていた。

「れ、レオ! 大丈夫⁉」
「……悪いな、ルリ。また、おれのせいで、怪我させちまった……」
「いいよ、そんなの! レオのおかげで助かったもん!」

 自分も苦しいはずなのに、レオはわたしの傷を見て、もっと顔を歪める。わたしは必死に首をぶんぶんふった。レオが悪いわけじゃないって伝えたくて。

 それが伝わったのか、レオはふっと笑う。

「そっか、よかった――」

 そのまま、目を閉じて動かなくなった。

「レオ! レオ……!」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。 そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。 彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。 次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。 そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。

【完結】魔法道具の預かり銀行

六畳のえる
児童書・童話
昔は魔法に憧れていた小学5学生の大峰里琴(リンコ)、栗本彰(アッキ)と。二人が輝く光を追って最近閉店した店に入ると、魔女の住む世界へと繋がっていた。驚いた拍子に、二人は世界を繋ぐドアを壊してしまう。 彼らが訪れた「カンテラ」という店は、魔法道具の預り銀行。魔女が魔法道具を預けると、それに見合ったお金を貸してくれる店だ。 その店の店主、大魔女のジュラーネと、魔法で喋れるようになっている口の悪い猫のチャンプス。里琴と彰は、ドアの修理期間の間、修理代を稼ぐために店の手伝いをすることに。 「仕事がなくなったから道具を預けてお金を借りたい」「もう仕事を辞めることにしたから、預けないで売りたい」など、様々な理由から店にやってくる魔女たち。これは、魔法のある世界で働くことになった二人の、不思議なひと夏の物語。

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

【完結】アシュリンと魔法の絵本

秋月一花
児童書・童話
 田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。  地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。  ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。 「ほ、本がかってにうごいてるー!」 『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』  と、アシュリンを旅に誘う。  どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。  魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。  アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる! ※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。 ※この小説は7万字完結予定の中編です。 ※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。

処理中です...