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第十章 空の戦い
(三)
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「いった……!」
コウモリの牙が、わたしたちの身体に傷をつけていく。視界はもうコウモリの黒一色。いろいろな方向から、飛んできて肌を切り裂いていく。そのたびに、肌に熱が走った。
(どうにかしなきゃ……!)
だけど、ふっと、突然。
感じていたレオの体温がなくなった。
「……え?」
「ルリっ!」
あせったレオの声がする。
わたしはコウモリたちの群れから、ひとり、飛び出していた。レオと離れてしまったわたしの身体が、すごい勢いで地面に向かっていくのがわかる。
なんとかしないと、このままじゃ落ちて死んじゃう……!
(そ、そうだ、飛行魔法! でも、へたなうえに、ほうきもない。飛べるわけない)
わたしにはレオみたいな翼はない。
どうしよう。わたし、なにもできない……!
「ルリ! 腕!」
声が、聞こえた。
「腕のばせ! はやく!」
考える暇はなかった。わけもわからず、わたしは空に向かって、精いっぱい手を突き出す。
レオが、ものすごいはやさで、わたしに向かって飛んでくるのが見えた。必死の顔で、わたしの手をつかもうとする。
「あと、もうちょい……! よっしゃ、つかまえた!」
ぎゅっと、わたしの手が、レオに引っ張られる。
その瞬間、わたしたちは森の木々にもみくちゃにされた。小枝が身体のあちこちをひっかいていく。ふたりで悲鳴を上げて、小枝の針山が終わると、次は、地面……!
どん――っ!
身体に衝撃がかかって、わたしは息をすることもできなかった。
だけど、思ったほどの衝撃じゃなかった。だって、わたしの下にレオがいて、わたしの代わりに地面にぶつかっていたんだ。
「レオ! レオ!」
「うっ」
肩を揺すると、小さなうめき声がする。
(よかった、生きてる)
でもほっとしている時間はない。空からコウモリたちが追ってきている。小さなコウモリたちの群れだったものは、森の地面に降り立つと、ひとつの闇になった。そこから姿を変えて、黒い狼の姿になる。
いつか見たことがあった。ルークさんの使い魔だ。
「こ、来ないで!」
狼は低くうなり、牙をむく。
わたしはレオの腰にあった剣を抜いて、狼に向けて構えた。剣なんて使ったことがない。手がふるえてしまう。それでも、わたしは狼をにらんだ。
「近づいたら、斬るからね!」
必死の叫びも、狼は気に留めない。ひときわ大きくうなって、狼は飛びかかってきた。
とっさに、剣をふるう。でも、狼はひらりとよけてしまう。
(ダメだ。どうしよう。どうすればいいの!)
狼が来る。牙が光る。
「貸せ!」
ふいに、わたしの手を、後ろからレオが握った。その手が、迷うことなく動く。向かってくる狼の身体めがけて、一直線に。ぐっと手に重い感覚があって、剣は狼の胸を貫いていた。レオは横に剣をすべらせる。
胸を斬られた狼は、一度細く鳴いたけど、血を流すこともなく、闇となって霧のように消えてしまった。
(助かった……?)
ほっとしたのもつかの間、後ろで、どさっと、重い音がする。ふり向けば、レオが倒れていた。
「れ、レオ! 大丈夫⁉」
「……悪いな、ルリ。また、おれのせいで、怪我させちまった……」
「いいよ、そんなの! レオのおかげで助かったもん!」
自分も苦しいはずなのに、レオはわたしの傷を見て、もっと顔を歪める。わたしは必死に首をぶんぶんふった。レオが悪いわけじゃないって伝えたくて。
それが伝わったのか、レオはふっと笑う。
「そっか、よかった――」
そのまま、目を閉じて動かなくなった。
「レオ! レオ……!」
コウモリの牙が、わたしたちの身体に傷をつけていく。視界はもうコウモリの黒一色。いろいろな方向から、飛んできて肌を切り裂いていく。そのたびに、肌に熱が走った。
(どうにかしなきゃ……!)
だけど、ふっと、突然。
感じていたレオの体温がなくなった。
「……え?」
「ルリっ!」
あせったレオの声がする。
わたしはコウモリたちの群れから、ひとり、飛び出していた。レオと離れてしまったわたしの身体が、すごい勢いで地面に向かっていくのがわかる。
なんとかしないと、このままじゃ落ちて死んじゃう……!
(そ、そうだ、飛行魔法! でも、へたなうえに、ほうきもない。飛べるわけない)
わたしにはレオみたいな翼はない。
どうしよう。わたし、なにもできない……!
「ルリ! 腕!」
声が、聞こえた。
「腕のばせ! はやく!」
考える暇はなかった。わけもわからず、わたしは空に向かって、精いっぱい手を突き出す。
レオが、ものすごいはやさで、わたしに向かって飛んでくるのが見えた。必死の顔で、わたしの手をつかもうとする。
「あと、もうちょい……! よっしゃ、つかまえた!」
ぎゅっと、わたしの手が、レオに引っ張られる。
その瞬間、わたしたちは森の木々にもみくちゃにされた。小枝が身体のあちこちをひっかいていく。ふたりで悲鳴を上げて、小枝の針山が終わると、次は、地面……!
どん――っ!
身体に衝撃がかかって、わたしは息をすることもできなかった。
だけど、思ったほどの衝撃じゃなかった。だって、わたしの下にレオがいて、わたしの代わりに地面にぶつかっていたんだ。
「レオ! レオ!」
「うっ」
肩を揺すると、小さなうめき声がする。
(よかった、生きてる)
でもほっとしている時間はない。空からコウモリたちが追ってきている。小さなコウモリたちの群れだったものは、森の地面に降り立つと、ひとつの闇になった。そこから姿を変えて、黒い狼の姿になる。
いつか見たことがあった。ルークさんの使い魔だ。
「こ、来ないで!」
狼は低くうなり、牙をむく。
わたしはレオの腰にあった剣を抜いて、狼に向けて構えた。剣なんて使ったことがない。手がふるえてしまう。それでも、わたしは狼をにらんだ。
「近づいたら、斬るからね!」
必死の叫びも、狼は気に留めない。ひときわ大きくうなって、狼は飛びかかってきた。
とっさに、剣をふるう。でも、狼はひらりとよけてしまう。
(ダメだ。どうしよう。どうすればいいの!)
狼が来る。牙が光る。
「貸せ!」
ふいに、わたしの手を、後ろからレオが握った。その手が、迷うことなく動く。向かってくる狼の身体めがけて、一直線に。ぐっと手に重い感覚があって、剣は狼の胸を貫いていた。レオは横に剣をすべらせる。
胸を斬られた狼は、一度細く鳴いたけど、血を流すこともなく、闇となって霧のように消えてしまった。
(助かった……?)
ほっとしたのもつかの間、後ろで、どさっと、重い音がする。ふり向けば、レオが倒れていた。
「れ、レオ! 大丈夫⁉」
「……悪いな、ルリ。また、おれのせいで、怪我させちまった……」
「いいよ、そんなの! レオのおかげで助かったもん!」
自分も苦しいはずなのに、レオはわたしの傷を見て、もっと顔を歪める。わたしは必死に首をぶんぶんふった。レオが悪いわけじゃないって伝えたくて。
それが伝わったのか、レオはふっと笑う。
「そっか、よかった――」
そのまま、目を閉じて動かなくなった。
「レオ! レオ……!」
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