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第十章 空の戦い

(二)

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 わたしは固まって、動けなくなる。でも頬が熱くなるのはわかった。真っ赤になって、レオを見つめる。

 レオはわたしを待っている。この手を取って、と。いままでのふざけた態度じゃなくて、真剣な瞳で。

(なんなの、これ……! でも、レオの手を取らないと、へん、だよね……)

 わたしは迷って、そろそろーっとレオの手に、自分の手を重ねた。

 レオは優しく微笑み、かと思えば、急にいたずらっぽい笑顔になる。

「な? おれだって、ちゃんと貴族っぽいだろ!」
「うわあっ!」

 わたしの手を強引に引いて外に出ると、わたしを横抱きにして、強く地面を蹴った。

「ちょ、ちょっと、待ってえええっ!」
「大丈夫だって!」

 いつのまにかコウモリの翼を広げていたレオは、笑いながら空高く羽ばたく。されるがまま、わたしは目をぎゅっとつぶって、レオにしがみつく。

「落とさないから、平気だよ。ほら、いい景色だぞ!」

 レオの笑い声が耳もとでする。わたしは、ゆっくり目を開けた。

「わ、あ……っ!」

 真っ青な空が広がって、下にはレンガづくりの街がある。まるでおもちゃの街みたいだ。街を囲うように森があって、その中では泉の水がきらきらと輝いている。

「おれは夜空を飛ぶのが好きだけど、昼に飛ぶのもいいもんだな。遠くまで見渡せる」
「うん……、うん、そうだね!」

 わたしの住んでいた街って、こんなにきれいだったんだ。はじめて知った。地面を歩いているだけでは知ることができなかった、この街の景色。

(わたし、ぜったい、飛行魔法を練習する! いま決めた!)

「じゃ、このまま散歩してみるか。つかまってろよ!」

 レオはそう言って、大きく羽ばたく。

 はじめてレオに会ったときも、レオはわたしを担いで空を飛んでくれた。あのときは意味がわからなかったし、怖くて仕方がなかった。でもいまは、レオがわたしを落とすはずがないってわかるし、安心できる。不安なんてなくて、楽しさだけが胸にいっぱいあった。

「ルリ、どこまで飛びたい?」
「じゃあ、森まで!」
「おっけー!」

 わたしたちは高い笑い声を上げながら、空を駆ける。

 あっという間に、森の上。

「今度は、夜空にも連れて行ってやるよ」

 レオの声が、すぐ近くで聞こえる。その声が、真剣さを帯びた。

「ブラッド・ムーンが終わったら、な。あと二日だ」

 二日……。

「最悪、赤輝石せっきせきがなければ、おれは小屋に閉じこもる。前より暴れると思うから、縛り付けてくれ」
「――うん、わかった。乗り切ろう」

 ルークさんの思いどおりにはさせない。レオのためにも。

 と、そのときだ。

「あ」

 レオが声を上げた。すぐあとに、目が鋭くなって、前方一点を見つめる。

 空気が変わったのが、わかった。

「レオ? どうかしたの……?」
「見つかった」

 わたしは心がざわつくのを感じながら、レオの見ている方を見る。

 黒い点があった。

 その点が、どんどん大きくなる。いや、近づいてきているんだ。

 コウモリだった。たくさんのコウモリが、群れになって、近づいてくる。

「あれって、使い魔……?」
「ああ。ルーク兄さんのな」
「ど、どうするの?」
「あいつらにルーク兄さんの居場所を聞けたらいいけど、そんな余裕なさそうだ。つかまってろ、ルリ!」

 レオが急に止まって、いま飛んできたばかりの道を引き返す。

(うわわ……!)

 レオははやい。でもダメだ。コウモリたちも、はやい。

 わたしたちは一気に、コウモリの群れに襲われた。
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