宝石店の魔法使い~吸血鬼と赤い石~

橘花やよい

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第九章 深まる疑惑とその先に

(八)

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 ふたりはコウモリのような翼を広げて、夜空に飛び上がる。でもルークさんのほうがすばやく夜空を駆けるから、レオが置いて行かれた。

『ちょっと、はやいって、ルーク兄さん!』
『がんばって~、レオ。飛ぶのが遅いとモテないよ』
『大丈夫だ、おれはかっこいいから、モテる!』
『……なんでそんなに自信満々なのかなあ。我が甥っ子ながら、心配になるよ』

 ふたりは言い合いをしながらも、楽しそうだった。つられて、こんなときだけど、わたしも笑ってしまう。

「ほんと、どこからくるの、そのレオの自信」
「だってかっこいいだろ、おれ」
「はいはい」

『まあ、自信がないよりは、いいかもね』

 まるで映像とわたしたちの会話がつながっているように、映像の中のルークさんが苦笑した。それからゆっくり飛んで、レオが追いつくのを待ってあげている。レオが追いつくと、ふたりは並んで夜空の散歩に向かっていった。

 そこで映像は終わる。

「ルーク兄さんは優しいんだ。罰なんて受けてほしくない」

 レオは、大事そうに魔法写真をポケットにしまった。

「だから、親父たちにもだれにも知られず、おれはブラッド・ムーンを乗り切る」

 ミナセがうなずいた。

「お父さまがこの事件のことを知れば、ルーク殿は必ず罰を受ける。そうさせないために、レオひとりで終わらせようとしているんだね」
「ああ。あと三日だ」

 レオは低い声で言う。

「ブラッド・ムーンまで、あと三日。それを乗り切ったら、ルーク兄さんの計画は失敗する。ぜんぶ終わったら、兄さんと話して、もうこんなこと起きないようにしてみせる」

 つぶやくレオの声は、まっすぐわたしの心に届いた。

 本当に、ルークさんのことが大好きなんだ。だからルークさんに罪を犯させないために、ひとりでがんばっている。

 わたしはミナセと顔を見合わせた。ふたりで、うなずく。

「わかった。そういうことなら、わたしたちも協力するよ」
「赤輝石を取り返して、ブラッド・ムーンの夜を無事に乗り切ればいいんだよね。なんとかしてみよう」
「え、協力してくれるのか?」

 レオはおどろいた顔をした。それから、困ったように頬をかく。

「うれしいけど、これ以上迷惑かけるわけにはいかねーよ」
「なに言ってるの。乗りかかった舟だもん、協力させてよ!」

 それに……。

「赤輝石取られちゃったのも、わたしの責任だし……。協力させてほしいな」
「ぼくも。最後まで付きあうよ。こんな話を聞いて放っておけないし」

 レオはきょとんとして、わたしたちを見つめる。

「……おまえら」

 もしかしたら、レオもひとりきりで抱え込んでいるのが苦しかったのかもしれない。そりゃあそうだ。ひとを襲ってしまうかもしれない恐怖や、家族から狙われる悲しさ。そういうものと向き合うのは、大変だったはず。

 ふっと、レオはうれしそうに微笑んだ。

「ありがとう。ルリ、ミナセ」

 どきっ。

 その笑顔がすてきで、わたしはぽっと頬が真っ赤になった。

 不意打ちのきらきら笑顔は、ずるいよ……!

「ルリ? どうした?」
「な、なんでもない! がんばろうね!」
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