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第九章 深まる疑惑とその先に
(六)
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「え。ルークさんに?」
わたしはおどろいた。
ルークさんは、レオの叔父さんだ。モーリスさまのお屋敷で話した、笑顔の男のひとが頭に浮かぶ。
彼に石をうばわれるって、どういうこと……?
「ルーク兄さんは、おれから石をうばって、おれをひとの街に放り出そうとしていた」
「え? なんでそんなこと……。昨日の夜みたいに暴れて、ひとを襲っちゃうかもしれないのに」
「それは……」
レオは悲しそうに、くちびるを噛んだ。
「ルーク兄さんは、おれの親父のことが嫌いなんだよ」
わたしは首をかしげる。まだまだ、どういうことなのか、飲み込めなかった。
「おまえたちは、吸血鬼の貴族の掟、知ってるか?」
「もしかして、弟は兄の使用人としてふる舞う、っていう掟のことかな?」
ミナセはなんでも知っているらしい。レオはすこしおどろきながらも、「そう。それ」とうなずいた。
「兄弟なのに、親父ばかり目立って、ルーク兄さんは損をしてる。そんなのかわいそうだって、おれは思ってたけど、掟だから仕方なくて」
くやしそうに、レオは目を伏せた。
「でもきっと、ルーク兄さんはずっとそれが不満だったんだ」
わたしは屋敷でのルークさんたちの姿を思い出す。兄弟なのに、主人と使用人みたいにふる舞っていた。わたしも、変だなって思ったんだ。兄弟だったら、もっと仲よくすればいいのにって。
「でも、それでどうして、ルークさんがレオにいじわるするの?」
「おれがひとを襲えば、おれはもちろん、親父も罰を受ける。それを望んでるんじゃないかな」
「レオはなにも悪いことしてないのに?」
「それくらい、ルーク兄さんは親父のことが憎いんだよ。親父を狙うより、子どものおれを狙ったほうが、確実だしな」
レオはまた悲しい顔をする。
屋敷で話したルークさんは、ちょっといじわるだったけど、優しいひとだった。そんなひとが、レオのことを苦しめようとしていたなんて、信じられなかった。
だけど、レオは真剣に語ってくれている。そこには、きっと、うそがない。
「あ、だけどルークさん、レオが赤輝石を盗んだって言ってたよ」
わたしが言うと、レオは目を見開いて。けげんな顔をする。
「はあ? 盗んでねーよ。ルリに拾われたのは、おれの石だ」
「ルリ。ルーク殿は、そのときなんて言ってたの?」
ミナセに聞かれて、わたしは思い出す。
「えっと……、レオが赤輝石を盗んだなら、家出を見過ごせない。居場所を教えてくれって」
「……なるほど。レオを見つけたくて、うそをついたのかもしれないね」
「え。それって、わたしをだまして、レオを襲おうとしたってこと?」
「おそらく」
ひんやりとお腹の底が冷たくなった。笑っていたルークさんの顔が、恐ろしいものに思えてくる。
それは、レオも同じだったのかもしれない。硬い表情でつぶやく。
「やっぱり、おれは逃げ続けないといけないらしいな。そのためにも、はやくおれの赤輝石を取り返して、安全な場所に逃げないと……」
「あっ、赤輝石!」
わたしは、ぽんと手を打って叫んだ。そうだ、大事なことを忘れていた!
「もうモーリスさまに返してもらってたんだった!」
「……はあ⁉ それ、いつの話だ!」
「き、昨日だけど」
「なんでおれに渡さなかったんだよ! 渡してくれれば、暴れることもなかったのに!」
「だって、レオが隠し事してるから、渡すに渡せなくて……!」
「渡せよ、そこは!」
「仕方ないでしょ、わたしだって不安だったんだよ!」
「おれ、夜の間、ほんとに苦しかったんだぞ!」
「それはごめん! でも、レオがあやしい態度とるから!」
お互い声を張り上げていると、見かねたミナセが「まあまあ」と割って入ってきた。わたしとレオはきゅっと口を結ぶ。目が合うと、おたがい「ふんっ」とそっぽを向いた。
「もう、ふたりとも、ケンカしないの。ルリ、赤輝石はいまどこに?」
「部屋の引き出しに、しまってあるけど」
「じゃあ、レオに返してあげようか。もう隠し事はなくなったんだから」
「……そうだね」
わたしがうなずくと、レオはほっとため息をついた。
「石があれば、おれも暴走しない。ブラッド・ムーンまであと数日、ルーク兄さんに見つからないようにすればいいだけだ」
――でも、そう簡単にはいかなかった。
わたしはおどろいた。
ルークさんは、レオの叔父さんだ。モーリスさまのお屋敷で話した、笑顔の男のひとが頭に浮かぶ。
彼に石をうばわれるって、どういうこと……?
「ルーク兄さんは、おれから石をうばって、おれをひとの街に放り出そうとしていた」
「え? なんでそんなこと……。昨日の夜みたいに暴れて、ひとを襲っちゃうかもしれないのに」
「それは……」
レオは悲しそうに、くちびるを噛んだ。
「ルーク兄さんは、おれの親父のことが嫌いなんだよ」
わたしは首をかしげる。まだまだ、どういうことなのか、飲み込めなかった。
「おまえたちは、吸血鬼の貴族の掟、知ってるか?」
「もしかして、弟は兄の使用人としてふる舞う、っていう掟のことかな?」
ミナセはなんでも知っているらしい。レオはすこしおどろきながらも、「そう。それ」とうなずいた。
「兄弟なのに、親父ばかり目立って、ルーク兄さんは損をしてる。そんなのかわいそうだって、おれは思ってたけど、掟だから仕方なくて」
くやしそうに、レオは目を伏せた。
「でもきっと、ルーク兄さんはずっとそれが不満だったんだ」
わたしは屋敷でのルークさんたちの姿を思い出す。兄弟なのに、主人と使用人みたいにふる舞っていた。わたしも、変だなって思ったんだ。兄弟だったら、もっと仲よくすればいいのにって。
「でも、それでどうして、ルークさんがレオにいじわるするの?」
「おれがひとを襲えば、おれはもちろん、親父も罰を受ける。それを望んでるんじゃないかな」
「レオはなにも悪いことしてないのに?」
「それくらい、ルーク兄さんは親父のことが憎いんだよ。親父を狙うより、子どものおれを狙ったほうが、確実だしな」
レオはまた悲しい顔をする。
屋敷で話したルークさんは、ちょっといじわるだったけど、優しいひとだった。そんなひとが、レオのことを苦しめようとしていたなんて、信じられなかった。
だけど、レオは真剣に語ってくれている。そこには、きっと、うそがない。
「あ、だけどルークさん、レオが赤輝石を盗んだって言ってたよ」
わたしが言うと、レオは目を見開いて。けげんな顔をする。
「はあ? 盗んでねーよ。ルリに拾われたのは、おれの石だ」
「ルリ。ルーク殿は、そのときなんて言ってたの?」
ミナセに聞かれて、わたしは思い出す。
「えっと……、レオが赤輝石を盗んだなら、家出を見過ごせない。居場所を教えてくれって」
「……なるほど。レオを見つけたくて、うそをついたのかもしれないね」
「え。それって、わたしをだまして、レオを襲おうとしたってこと?」
「おそらく」
ひんやりとお腹の底が冷たくなった。笑っていたルークさんの顔が、恐ろしいものに思えてくる。
それは、レオも同じだったのかもしれない。硬い表情でつぶやく。
「やっぱり、おれは逃げ続けないといけないらしいな。そのためにも、はやくおれの赤輝石を取り返して、安全な場所に逃げないと……」
「あっ、赤輝石!」
わたしは、ぽんと手を打って叫んだ。そうだ、大事なことを忘れていた!
「もうモーリスさまに返してもらってたんだった!」
「……はあ⁉ それ、いつの話だ!」
「き、昨日だけど」
「なんでおれに渡さなかったんだよ! 渡してくれれば、暴れることもなかったのに!」
「だって、レオが隠し事してるから、渡すに渡せなくて……!」
「渡せよ、そこは!」
「仕方ないでしょ、わたしだって不安だったんだよ!」
「おれ、夜の間、ほんとに苦しかったんだぞ!」
「それはごめん! でも、レオがあやしい態度とるから!」
お互い声を張り上げていると、見かねたミナセが「まあまあ」と割って入ってきた。わたしとレオはきゅっと口を結ぶ。目が合うと、おたがい「ふんっ」とそっぽを向いた。
「もう、ふたりとも、ケンカしないの。ルリ、赤輝石はいまどこに?」
「部屋の引き出しに、しまってあるけど」
「じゃあ、レオに返してあげようか。もう隠し事はなくなったんだから」
「……そうだね」
わたしがうなずくと、レオはほっとため息をついた。
「石があれば、おれも暴走しない。ブラッド・ムーンまであと数日、ルーク兄さんに見つからないようにすればいいだけだ」
――でも、そう簡単にはいかなかった。
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