宝石店の魔法使い~吸血鬼と赤い石~

橘花やよい

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第八章 イケメン叔父さんと、盗みの疑惑

(二)

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 ルークさんはくすっと笑った。

「吸血鬼は、ひととは違うから、おもしろいだろう?」
「はい。びっくりしました」
「じゃ、これも知らないかな? わたしたちは日光が苦手なんだけど、魔法でつくった特製日焼け止めクリームを塗ると、昼でも外を歩けるんだよ」
「え、日焼け止めを塗ってるんですか?」
「そう。全身ベタベタになるくらい塗らないと、肌が赤くなってヒリヒリするんだ」

 うわぁ、それは面倒くさい!

「知らなかったです。吸血鬼って、いろいろ大変ですね」

 ルークさんはなにかを思い出すように、空を見上げて微笑んだ。

「小さいときのレオはね、面倒くさいからって、クリームを塗らずに外に出たことがあったんだ」
「えっ、それ大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないよ。つぎの日、『全身ひりひりする~!』って泣いちゃって。困ったものだった」
「あはは! なんですかそれ!」

 泣いてるちびっ子レオを想像して、わたしは笑ってしまう。

 と、ふいに。

「レディの肌は真っ白だね」

 ルークさんは、わたしの手を取った。

 って、えええっ⁉

「日焼けしたら、もったいないな」
「そ、そうですか?」

 これって、褒められたんだよね?

 ルークさんはにっこり微笑む。その瞳はきらきらしていて、レオと同じ輝きがあった。レオをぐんっと大人っぽくしたら、こんな感じになるのかな。紳士、みたいな。

(あ。なんか紳士なレオって、すごくかっこいいかもしれない……)

 自分の想像に、ぽっと赤くなる。

 ルークさんは、うんうん、とうなずいた。

「きれいな肌だ。噛みついて血を吸ったら、とてもおいしそうだよ」
「……へ⁉」
「ふふっ、冗談」

 さっと顔を青くしたわたしを見て、ルークさんはいたずらっぽく笑った。わたしの手を離して、軽やかに数歩下がる。

「ごめん、怖がらせちゃったかな?」

 わたしは言葉が出なくて、なんとか首を横にぶんぶんふって大丈夫って伝えた。まあ、うそだけどね! めちゃくちゃ怖かったし、びっくりした。ひとの肌を見て、おいしそう、なんて思ったことないし。

 もう、吸血鬼ってよくわからない!

「――そうそう、きみがさっき見ていた赤い石、赤輝石じゃないかな?」
「え?」

 ルークさんの目がすっと細くなった。顎に手を添えて、すこし考えてから、内緒話をするように言う。

「実は、うちにあった赤輝石が、ひとつ、行方知れずになっていてね」

 わたしはあわてていた気持ちも吹き飛んで、おどろいた。

「行方知れず、ですか……?」
「だれかが持ち出したんじゃないかなって、わたしは思っているんだけど。犯人が見つからなくて、困っているんだ」

 わたしは、まじまじと手もとの箱を見た。

 盗まれたって……、いやでも、これはレオのものだし。このペンダントとは、全然ちがう話のはずだ。

 だけどルークさんは続けた。

「同じタイミングで、レオまでいなくなってしまって」

 ルークさんは深くため息をつく。

「ブラッド・ムーンも近いのに出て行くなんて……。探しているのに、見つからないんだ」
「そう、なんですか」
「赤輝石は貴重な石だから、売ればお金になる。遊ぶことにも困らないだろう。わたしは、レオがそんなことをするとは思わないけれど……」

 ルークさんは、わたしの顔をのぞきこんだ。レオと同じ赤い瞳が、わたしを見る。

「レオの居場所、知らないかい?」

 ゆっくりと、ルークさんは聞いた。

「彼と話がしたい。悪いことをしているなら、このまま家出を許すわけにはいかなくてね」
「……えっと」

 それって、レオが、貴重な宝石を盗んだって思われてるってこと……? あのレオが?

「教えてほしいな、レディ」

(どうしよう)

 もしルークさんの言葉が本当なら、レオは家に帰らなきゃいけない。

 でも……、レオは、ルークさんやお父さんにおびえていた。あのときわたしは、レオを逃がしてあげなきゃって思ったんだ。

「……居場所は、わかりません」

 ゆっくり、そう言った。

「……そうか。じゃあ、もし、レオに会ったら、帰ってくるように伝えてくれるかな?」

 わたしは赤輝石のペンダントが入った箱を、ぎゅっと抱きしめる。

「わかりました」

 うなずくと、ルークさんはにっこり笑顔になった。

「ありがとう。それじゃあ、わたしはもう行くね。ごきげんよう、レディ」

 きれいに一礼すると、背を向けて歩いて行った。
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