宝石店の魔法使い~吸血鬼と赤い石~

橘花やよい

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第六章 隠し事はなんですか?

(二)

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「ルリ、こんばんは」
「あ、ミナセ!」

 ふり向くと、ミナセが立っていた。モーリスさまのお屋敷からの帰り道らしい。

「この前の宝石の代金、もってきたよ」
「ありがとう」
「赤い石のペンダントのお金は、この中には入ってないからね」

 お金の入った包みを渡しながら、ミナセは静かに言った。

「事情があって売ることができない宝石だったようで、今度ルリが回収に来るそうですって、モーリスさまには伝えてある。事情は、自分で話せるね?」
「うん」

 わたしはしっかりとうなずいた。わたしが失敗したことを、ミナセの口から説明させるなんてダメだ。モーリスさまには、わたしから伝えて謝らなきゃ。

 そう思っていると、ミナセは、鍵をかけたばかりの小屋を見た。

「中に、あの吸血鬼の子がいるのかな?」
「そうだけど」
「……ルリ、ちょっとこっちに」

 ミナセは難しい顔をして、わたしを手招く。なんだろう?

 小屋から離れたところで、ミナセはつぶやいた。

「レオ、だっけ。大丈夫なの?」
「大丈夫って、なにが?」
「昼間のあの感じ、ひどくおびえていたようだったから、気になって」

 どくん。わたしの胸が鳴った。

 ミナセにも、レオの様子はおかしく見えていたんだ。わたしは緊張して、手を強く握る。

「レオね、家出してきたみたいなの」
「家出?」
「そう。モーリスさまのお屋敷にいた男のひとたちは、レオのお父さんと叔父さんみたいで、見つかりたくなかったんだって言ってた」
「そう。家出、ね……」

 ミナセの瞳がすっと細まる。

「ルリ、聞いて。ブラッド・ムーンが近いのに家出なんて、普通じゃないよ」
「え?」

 ミナセの瞳は真剣だった。

「大人なら吸血衝動をおさえられるみたいだけど、レオには無理だろう。だからこそ、ブラッド・ムーンの夜、子どもの吸血鬼は必ず人間とは離れた場所に身を隠す。それが絶対の掟だ」

 絶対の掟。

 その言葉が、どしんと心に落ちた。レオは、その掟を破っているんだ。

(でも、どうして?)
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