宝石店の魔法使い~吸血鬼と赤い石~

橘花やよい

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第五章 怪しい態度と宝石づくり

(二)

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「うまくいかないなあ……、なんでだろ」
「カットの仕方が変。宝石の持ち味がいかせてないな」

 うなだれるわたしの横で、レオがしげしげとイヤリングを眺める。わたしはおどろいて、レオを見た。

「土台部分も、もっとていねいにつくらないと。うすい色の石なんだから、きゃしゃな土台にしないと、石より土台が目立っちまうぞ」

 ほら、とイヤリングを返されて、わたしもじっくり見つめた。

 ……たしかに、レオの言うとおりかも。

「くわしいね、レオ」
「これでも貴族の息子だからな。宝石はたくさん見てきてる」

 レオはえっへんと胸を張って、それから、にやりと笑う。

「ルリはまだまだだな~」
「う、うるさいよ! これから、うまくなるはずだから!」
「へえ。ほんとかな?」

 にやにやと笑ってくるレオに、わたしはむっとした。こうなったら、うまくつくってやる!

 もう一度、宝石に手をかざした。

(えっと、まずはカットを変えて……)

 宝石はカットの仕方で、見え方が変わってくるんだ。磨かれたカット面がいくつか組み合わさることで、宝石の輝きを引き出すんだよ。カットの仕方は、たくさんある。どの宝石にどのカット方法を使うと、すてきに見せることができるのか。それを見極めるのも、わたしたちの大事なお仕事だ。

(よし。カットはこんな感じでいいかな。次は土台)

 いまよりも、もっと繊細に。集中しながら魔法をかけていく。

「これで、どう⁉」

 やがて、できあがったイヤリングをどーんと見せつけると、レオが笑った。

「おおっ。よくなってきたんじゃないか? やればできるじゃん」
「わっ、ほんと⁉ やった、ありがとう! ……いや、でも、なんで上から目線?」

 喜んでから、はっとする。レオは師匠でもなんでもないくせに。

「上達したの、おれのおかげだろ?」
「それは、そうかもしれないけどさ……」
「なら、もっと感謝しろよ」

 うっ。たしかに、わたしが最近つくった中で、このイヤリングは一番出来がいい。

(けど、なんでだろう。素直に感謝したくない、この感じ……!)

 ニヤッと笑うレオが、なんか、むかつく!

「ほらほら、『ありがとうございます、レオさま』って、言ってみろよ」
「なにそれ! ぜったい、やだ!」
「なんでだよ、おれ、貴族さまだぞ?」
「それでもやだ!」

 わたしは叫んだ。でも、そのあと、ついつい笑っていた。

(なんか、ちょっと楽しいかも)

 いままで宝石について話せるのは、父さんと母さんくらいだったし。歳の近い子と、こんなふうに宝石を囲んで話すのははじめてだ。……うん、貴族さまっていうのも、案外悪くないかもしれない。

 でも「レオさま」とは呼びたくないなあ。と思っていると、レオがわたしの手からイヤリングをつまんだ。

「ちょっと貸してみ」
「え?」

 それから、そっとわたしの耳にイヤリングをつけた。

「ほら、けっこう、いい感じになってる。おれのおかげでな!」

 壁にかけられた鏡を見るように言われて、わたしは視線を動かした。

(わ、あ……)

 鏡には、イヤリングをつけている、わたしの顔。
 レオが満足そうに微笑んだ。

「ルリの目はきれいな青色だから、水色の宝石が似合うよ」
「えっ……⁉」

(い、いま、きれいって言われた⁉)

 思わずぼっと頬が赤くなると、レオはくすくす笑う。

「ってなわけで、おれに感謝して、レオさまって呼べ」
「それはいや」

 すかさず断れば、レオは口をとがらせたけど、すぐおかしそうに笑い出した。
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