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第四章 レオ、どうしたの?

(三)

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「ミナセってやつ、あの歳で屋敷勤めなんだな」

すこし待っていて、とミナセはわたしたちを部屋に案内してから、ひとりで出て行ってしまった。レオはソファに座って、足をぶらぶらさせながら言う。

「ミナセはしっかり者だからね」

 なんて言おうか迷って、わたしはあいまいに笑った。

 たしかに実家のお手伝いならみんなしているけど、どこかに働きに出ている子どもって、あんまりいない。

 ミナセのお家は、お父さんとお母さんが事故で亡くなっているんだ。いまは、おばあちゃんとふたりで暮らしている。おばあちゃんは針ものをしてお金を稼いでくれているけど、それだけじゃお金が足りない。だから、ミナセがモーリスさまのお屋敷で働いているんだよ。

 でも、ひとのことをペラペラしゃべっちゃうのはいけない気がして、ごまかした。

 ミナセがしっかり者だから、モーリスさまに気に入られているってのは、たしかだしね。

「ミナセはすごいんだよ。なんでもできちゃうんだから。優しいし、かっこいいし!」
「へえ」

 レオはつまらなさそうな声で返事をした。

「おれだって、優しいし、かっこいいけどな」
「え」
「なんだよ」
「いや、べつに……、自分で言っちゃうんだ、と思って」

 すごい自信だ。でも事実、レオはかっこいいし、きっと優しくもあるんだと思う。自信たっぷりなのも、なんだかまぶしく見えた。

 レオがきらきらして見えるのは、もちろん容姿もかっこいいんだけど、自信にあふれているからかもしれない。すごいなあと思っていると、レオは突然、立ち上がる。

「レオ? どうかした?」
「ちょっと様子見てくる」
「え」

 レオはそのまま部屋を出て行こうとする。わたしは、あわてて腕をつかんだ。

「ダメだよ、待っててって言われてるのに!」
赤輝石せっきせきがちゃんとあるのかどうか、見ておかないと安心できない」
「お屋敷を勝手に歩くのは、マナー違反だよ!」
「バレなきゃ大丈夫だって」

 えええ……!

 わたしは、じとっとレオを見る。

「昨日は、貴族たるものマナー違反はできない~、とか言ってたのに?」
「そうだけどさ……」

 すっと、レオの瞳が真剣な色を灯した。

「赤輝石は、本当に大事なものなんだ。じっとなんてしていられない」

(……なんで、そんな真面目な顔なの)

 わたしは、なにも言えなくなってしまった。レオの力が強くて、ずるずると引きずられていく。

 ……ダメだと思うんだよ、こんなの。でもそんな真剣な顔をされると、なんだかなあ。

 本当に、大事な石みたいだ。大人しく待っていよう、なんて言えなくなっちゃうよ。

 やがて、大きな扉の前にたどり着く。モーリスさまのお部屋だ。レオはしっと指で合図して、扉に耳を当てた。

「……だれかいるな。客か」

 つられて、わたしもぴとっと扉に耳を当てる。話し声が聞こえた。なるほど、お客さまが来ているから、待っててって、ミナセはわたしたちに言ったんだ。レオはすこし迷ってから、小さく扉を開けた。

「ちょ、ちょっと!」
「しーっ! 静かにしろって」

 止めようとするわたしを無視して、レオは扉のすきまから中をのぞく。ソファに座ったモーリスさまと、その前に男のひとがひとり、座っている。その後ろにも、ひとり立っていた。

「あ」

 レオはつぶやいて、急に顔を引っ込める。

「どうしたの?」
「……親父と、ルーク兄さんだ」
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