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第四章 レオ、どうしたの?
(二)
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吸血鬼ってお日さまが苦手だって聞いていたけど、そんなこともなかったみたいだ。レオは足取り軽くお日さまの中を歩いていく。赤髪がきらきらと日の光を浴びて輝いた。
きれいだなあと見ていると、ふいに、レオがわたしを見る。
「おれの顔、なんかついてるのか?」
「あっ、いや、なんでもないよ!」
あわてて手を胸の前でぶんぶんふる。見とれていたなんて、恥ずかしくて、言えないからね。
「あ、わかった。おれに見とれただろ?」
「え、ちが……、そんなんじゃない!」
「当たりだな」
レオがニヤッと笑う。
(ばれてるじゃん……!)
わたしは逃げるように視線をさまよわせた。その先で、ミナセの姿を見つける。モーリスさまのお屋敷の前を、ほうきで掃除しているみたいだ。
「ミナセー!」
わたしはわざとらしいくらい大きな声を出して、ミナセに手をふった。
「ルリ? どうかしたの? 今日は来る予定じゃ……」
掃除の手を止めてこちらを見たミナセが、おや、と首をかしげる。
「その子は?」
ミナセの視線は、レオに注がれていた。
「えっと、この子はレオって言って……」
「レオンハルト・ブラッド・シークだ」
ついつい略してしまったわたしに、レオがつんと言った。紹介くらいちゃんとしろ、とじとっとした目を向けてくるレオに、わたしは「ごめん」と手を合わせる。長くて覚えられないんだよ……。
わたしはレオから目をそらして、ミナセに向き直る。
「昨日、赤い宝石がうちの商品じゃないかもって言ったでしょ? あの宝石、レオのだったみたいで……」
「そうなのかい?」
「うん。だからモーリスさまには悪いんだけど、返してもらいたいんだ」
それまでの元気はどこへやら。わたしは緊張がぶり返してきて、ミナセを不安いっぱいに見つめた。お説教が長いミナセのことだ。また怒られるかも。そう思ったけど、ミナセはすこし考えたあと、うなずいた。
「わかった。モーリスさまに会わせてあげる」
「え、いいの?」
絶対怒られると思っていたわたしは、素っとん狂な声をあげた。
「ルリ。またお説教だ、って思ったかい?」
(うわっ、ばれてる!)
こくこくとうなずくわたしに、ミナセは笑う。
「ちゃんと反省しているみたいだから、今日は怒らないよ。顔色悪いね、眠れなかった?」
「うん……」
「それだけ反省してるなら、きっとモーリスさまもわかってくれるさ」
ミナセは優しく言って、わたしの頭を撫でた。あ、どうしよう、泣きそうだ。ミナセの優しさがじんわりしみた。ううっと思わず涙ぐんで、わたしは宣言する。
「次はこんな失敗しないように気をつけます!」
「うん。そうして」
よしよし、とミナセはわたしを撫でる。子ども扱い……というか、犬とか猫みたいに思われていそうかも。複雑。でもあったかくて、気持ちいい。
そこに、レオの声がした。
「そういうの後にしてくれない? いまは宝石返してもらうほうが先だろ」
つんとした物言いに、わたしとミナセはレオを見る。はやく宝石を取り返したいのか、ちょっとイライラしているレオがいた。
(そうだった、レオにとっては大事な宝石だもんね)
でも、あわてたわたしとはちがって、ミナセはじっとレオを見る。
「……きみ、もしかして吸血鬼?」
「あ? ああ、そうだけど」
「ブラッド・ムーンが近いのに、出歩いていていいのかい?」
「まだ数日あるし、昼間なら吸血衝動もすくないから、平気だよ」
ミナセの目が、瞬間、鋭くなった。
「吸血鬼は、ブラッド・ムーンが近くなると必ず、部屋に閉じこもる。そういう掟だったはずだけどな」
「あ? 掟なんて、関係ねーよ」
わたしはびくっと身体をこわばらせた。
(な、なんだろう。なんだか空気が重い……?)
ミナセは探るようにレオを見ているし、レオも眉を寄せてミナセをにらんでいる。ミナセって、ルールを破ることが苦手な真面目さんなんだ。だから、レオのことをお説教したくて、たまらなくなっているのかも? レオは掟を破って、家出してきているわけだからね。
でもここでお説教タイムがはじまったら、長くなっちゃう。
「ひ、ひとまず、モーリスさまに会わせてもらえるかな?」
わたしは冷や汗だらだら、ふたりの間に割って入った。
「……そうだね。わかった。どうぞ」
必死の祈りが通じたのか、ミナセはため息をついて、わたしたちを中に招いた。でもやっぱり、レオを見る目は鋭かった。
きれいだなあと見ていると、ふいに、レオがわたしを見る。
「おれの顔、なんかついてるのか?」
「あっ、いや、なんでもないよ!」
あわてて手を胸の前でぶんぶんふる。見とれていたなんて、恥ずかしくて、言えないからね。
「あ、わかった。おれに見とれただろ?」
「え、ちが……、そんなんじゃない!」
「当たりだな」
レオがニヤッと笑う。
(ばれてるじゃん……!)
わたしは逃げるように視線をさまよわせた。その先で、ミナセの姿を見つける。モーリスさまのお屋敷の前を、ほうきで掃除しているみたいだ。
「ミナセー!」
わたしはわざとらしいくらい大きな声を出して、ミナセに手をふった。
「ルリ? どうかしたの? 今日は来る予定じゃ……」
掃除の手を止めてこちらを見たミナセが、おや、と首をかしげる。
「その子は?」
ミナセの視線は、レオに注がれていた。
「えっと、この子はレオって言って……」
「レオンハルト・ブラッド・シークだ」
ついつい略してしまったわたしに、レオがつんと言った。紹介くらいちゃんとしろ、とじとっとした目を向けてくるレオに、わたしは「ごめん」と手を合わせる。長くて覚えられないんだよ……。
わたしはレオから目をそらして、ミナセに向き直る。
「昨日、赤い宝石がうちの商品じゃないかもって言ったでしょ? あの宝石、レオのだったみたいで……」
「そうなのかい?」
「うん。だからモーリスさまには悪いんだけど、返してもらいたいんだ」
それまでの元気はどこへやら。わたしは緊張がぶり返してきて、ミナセを不安いっぱいに見つめた。お説教が長いミナセのことだ。また怒られるかも。そう思ったけど、ミナセはすこし考えたあと、うなずいた。
「わかった。モーリスさまに会わせてあげる」
「え、いいの?」
絶対怒られると思っていたわたしは、素っとん狂な声をあげた。
「ルリ。またお説教だ、って思ったかい?」
(うわっ、ばれてる!)
こくこくとうなずくわたしに、ミナセは笑う。
「ちゃんと反省しているみたいだから、今日は怒らないよ。顔色悪いね、眠れなかった?」
「うん……」
「それだけ反省してるなら、きっとモーリスさまもわかってくれるさ」
ミナセは優しく言って、わたしの頭を撫でた。あ、どうしよう、泣きそうだ。ミナセの優しさがじんわりしみた。ううっと思わず涙ぐんで、わたしは宣言する。
「次はこんな失敗しないように気をつけます!」
「うん。そうして」
よしよし、とミナセはわたしを撫でる。子ども扱い……というか、犬とか猫みたいに思われていそうかも。複雑。でもあったかくて、気持ちいい。
そこに、レオの声がした。
「そういうの後にしてくれない? いまは宝石返してもらうほうが先だろ」
つんとした物言いに、わたしとミナセはレオを見る。はやく宝石を取り返したいのか、ちょっとイライラしているレオがいた。
(そうだった、レオにとっては大事な宝石だもんね)
でも、あわてたわたしとはちがって、ミナセはじっとレオを見る。
「……きみ、もしかして吸血鬼?」
「あ? ああ、そうだけど」
「ブラッド・ムーンが近いのに、出歩いていていいのかい?」
「まだ数日あるし、昼間なら吸血衝動もすくないから、平気だよ」
ミナセの目が、瞬間、鋭くなった。
「吸血鬼は、ブラッド・ムーンが近くなると必ず、部屋に閉じこもる。そういう掟だったはずだけどな」
「あ? 掟なんて、関係ねーよ」
わたしはびくっと身体をこわばらせた。
(な、なんだろう。なんだか空気が重い……?)
ミナセは探るようにレオを見ているし、レオも眉を寄せてミナセをにらんでいる。ミナセって、ルールを破ることが苦手な真面目さんなんだ。だから、レオのことをお説教したくて、たまらなくなっているのかも? レオは掟を破って、家出してきているわけだからね。
でもここでお説教タイムがはじまったら、長くなっちゃう。
「ひ、ひとまず、モーリスさまに会わせてもらえるかな?」
わたしは冷や汗だらだら、ふたりの間に割って入った。
「……そうだね。わかった。どうぞ」
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