上 下
9 / 54
第四章 レオ、どうしたの?

(二)

しおりを挟む
 吸血鬼ってお日さまが苦手だって聞いていたけど、そんなこともなかったみたいだ。レオは足取り軽くお日さまの中を歩いていく。赤髪がきらきらと日の光を浴びて輝いた。

 きれいだなあと見ていると、ふいに、レオがわたしを見る。

「おれの顔、なんかついてるのか?」
「あっ、いや、なんでもないよ!」

 あわてて手を胸の前でぶんぶんふる。見とれていたなんて、恥ずかしくて、言えないからね。

「あ、わかった。おれに見とれただろ?」
「え、ちが……、そんなんじゃない!」
「当たりだな」

 レオがニヤッと笑う。

(ばれてるじゃん……!)

 わたしは逃げるように視線をさまよわせた。その先で、ミナセの姿を見つける。モーリスさまのお屋敷の前を、ほうきで掃除しているみたいだ。

「ミナセー!」

 わたしはわざとらしいくらい大きな声を出して、ミナセに手をふった。

「ルリ? どうかしたの? 今日は来る予定じゃ……」

 掃除の手を止めてこちらを見たミナセが、おや、と首をかしげる。

「その子は?」

 ミナセの視線は、レオに注がれていた。

「えっと、この子はレオって言って……」
「レオンハルト・ブラッド・シークだ」

 ついつい略してしまったわたしに、レオがつんと言った。紹介くらいちゃんとしろ、とじとっとした目を向けてくるレオに、わたしは「ごめん」と手を合わせる。長くて覚えられないんだよ……。

 わたしはレオから目をそらして、ミナセに向き直る。

「昨日、赤い宝石がうちの商品じゃないかもって言ったでしょ? あの宝石、レオのだったみたいで……」
「そうなのかい?」
「うん。だからモーリスさまには悪いんだけど、返してもらいたいんだ」

 それまでの元気はどこへやら。わたしは緊張がぶり返してきて、ミナセを不安いっぱいに見つめた。お説教が長いミナセのことだ。また怒られるかも。そう思ったけど、ミナセはすこし考えたあと、うなずいた。

「わかった。モーリスさまに会わせてあげる」
「え、いいの?」

 絶対怒られると思っていたわたしは、素っとん狂な声をあげた。

「ルリ。またお説教だ、って思ったかい?」

(うわっ、ばれてる!)

 こくこくとうなずくわたしに、ミナセは笑う。

「ちゃんと反省しているみたいだから、今日は怒らないよ。顔色悪いね、眠れなかった?」
「うん……」
「それだけ反省してるなら、きっとモーリスさまもわかってくれるさ」

 ミナセは優しく言って、わたしの頭を撫でた。あ、どうしよう、泣きそうだ。ミナセの優しさがじんわりしみた。ううっと思わず涙ぐんで、わたしは宣言する。

「次はこんな失敗しないように気をつけます!」
「うん。そうして」

 よしよし、とミナセはわたしを撫でる。子ども扱い……というか、犬とか猫みたいに思われていそうかも。複雑。でもあったかくて、気持ちいい。

 そこに、レオの声がした。

「そういうの後にしてくれない? いまは宝石返してもらうほうが先だろ」

 つんとした物言いに、わたしとミナセはレオを見る。はやく宝石を取り返したいのか、ちょっとイライラしているレオがいた。

(そうだった、レオにとっては大事な宝石だもんね)

 でも、あわてたわたしとはちがって、ミナセはじっとレオを見る。

「……きみ、もしかして吸血鬼?」
「あ? ああ、そうだけど」
「ブラッド・ムーンが近いのに、出歩いていていいのかい?」
「まだ数日あるし、昼間なら吸血衝動もすくないから、平気だよ」

 ミナセの目が、瞬間、鋭くなった。

「吸血鬼は、ブラッド・ムーンが近くなると必ず、部屋に閉じこもる。そういう掟だったはずだけどな」
「あ? 掟なんて、関係ねーよ」

 わたしはびくっと身体をこわばらせた。

(な、なんだろう。なんだか空気が重い……?)

 ミナセは探るようにレオを見ているし、レオも眉を寄せてミナセをにらんでいる。ミナセって、ルールを破ることが苦手な真面目さんなんだ。だから、レオのことをお説教したくて、たまらなくなっているのかも? レオは掟を破って、家出してきているわけだからね。

 でもここでお説教タイムがはじまったら、長くなっちゃう。

「ひ、ひとまず、モーリスさまに会わせてもらえるかな?」

 わたしは冷や汗だらだら、ふたりの間に割って入った。

「……そうだね。わかった。どうぞ」

 必死の祈りが通じたのか、ミナセはため息をついて、わたしたちを中に招いた。でもやっぱり、レオを見る目は鋭かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

幻魔少女物語〜神様の失敗で人間から異界人になった8人の話〜

campanella
児童書・童話
 これは、神の失敗に巻き込まれて生まれた、8人の少女の物語________    名古屋の小さい町の中学校に通うごく普通の少女・矢代加奈。親友の近衛由紀や幼馴染みである澤田浩介等に取り巻かれ、平穏に生きていた。しかし、ひょんなことからこの世界で3番目に偉い神だという松ノ殿と出会い、予想もしなかった人生を送ることになる。 「お前達は人間じゃない。この世界の想像力の塊、幻魔だ」  人間の想像力によって生まれた幻魔の血を、神の管理ミスによって受け継いでしまった8人の少女の1人だった!  更に、負の感情から生まれた生物・怪魔が加奈達を含む全ての幻魔の命を狙う!もし幻魔が絶滅したら、現実世界の人々は考えることを止め、文明は滅びてしまう緊急事態!  自らの命と2つの世界を救うため、加奈達8人はそれぞれの生き方や価値観を理解しながら、さまざまな世界を冒険し、共に戦い成長していく!  冒険、バトル、友情、グルメ、笑い、感動、そして青春!何でもありの全く新しいファンタジー超大作!順次投稿中です!

ひかりにふれたねこ

1000
児童書・童話
遠い昔、深い森の奥に、ふわふわ浮かぶ、ひかるさかなが住んでいました。 ひかるさかなは、いつも そこにいて、周りを照らしています。 そこに 暗い目をした黒猫:やみねこがやってきました。 やみねこが、ひかるさかなに望んだこととは……? 登場人物 ・やみねこ ・ひかるさかな ※ひかりにふれたねこ、完結しました! 宜しくお願いします<(_ _)>

農民だからと冤罪をかけられパーティを追放されましたが、働かないと死ぬし自分は冒険者の仕事が好きなのでのんびり頑張りたいと思います。 

一樹
ファンタジー
タイトル通りの内容です。 のんびり更新です。 小説家になろうでも投稿しています。

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

ゲームの《裏技》マスター、裏技をフル暗記したゲームの世界に転生したので裏技使って無双する

鬼来 菊
ファンタジー
 飯島 小夜田(イイジマ サヨダ)は大人気VRMMORPGである、『インフィニア・ワールド』の発見されている裏技を全てフル暗記した唯一の人物である。  彼が発見した裏技は1000を優に超え、いつしか裏技(バグ)マスター、などと呼ばれていた。  ある日、飯島が目覚めるといつもなら暗い天井が視界に入るはずなのに、綺麗な青空が広がっていた。  周りを見ると、どうやら草原に寝っ転がっていたようで、髪とかを見てみると自分の使っていたアバターのものだった。  飯島は、VRを付けっぱなしで寝てしまったのだと思い、ログアウトをしようとするが……ログアウトボタンがあるはずの場所がポッカリと空いている。  まさか、バグった? と思った飯島は、急いでアイテムを使用して街に行こうとしたが、所持品が無いと出てくる。  即行ステータスなんかを見てみると、レベルが、1になっていた。  かつては裏技でレベル10000とかだったのに……と、うなだれていると、ある事に気付く。  毎日新しいプレイヤーが来るゲームなのに、人が、いないという事に。  そして飯島は瞬時に察した。  これ、『インフィニア・ワールド』の世界に転生したんじゃね?  と。  取り敢えず何か行動しなければと思い、辺りを見回すと近くに大きな石があるのに気付いた。  確かこれで出来る裏技あったなーと思ったその時、飯島に電流走る!  もしもこの世界がゲームの世界ならば、裏技も使えるんじゃね!?  そう思った飯島は即行その大きな岩に向かって走るのだった――。 ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています。

死神×少女

桜咲かな
児童書・童話
■『ポプラキミノベル小説大賞』最終候補作品 ■ 春野亜矢(はるのあや)、16歳。 マンションで一人暮らしをする、ごく普通の女子高校生。 亜矢の住むマンションの隣に、『死神グリア』と名乗る少年が引っ越して来た。 その直後、亜矢は事故で命を失うが、グリアに『仮の心臓』を与えられて生き返る。 だが、その心臓にグリアが24時間に1回『命の力』を注ぎ込まなければ、命を持続できない体になってしまった。 しかも、その方法が『口移し』。 少女は抵抗しながらも、毎日、死神と口移し(キス)しなければならない。 【表紙イラストは自分で描いています】

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

処理中です...