上 下
8 / 54
第四章 レオ、どうしたの?

(一)

しおりを挟む
 ちゅんちゅん、と小鳥の声で目が覚めた。だけどわたしは朝なのに疲れ切った顔をしている。なぜって、ほとんど眠れなかったんだ。

 昨日、間違ってレオの宝石を、モーリスさまに売ってしまった。それをどう謝って、宝石を返してもらうのか……。ずっと、ぐるぐる考えていたんだ。

「うわ、ひどい顔」

 鏡を見て、ため息。ゾンビみたいな顔してるよ、わたし。

 急いで支度をして、家を出た。夜の間にたくさん悩んだんだから、もうモーリスさまのもとに行ってみるしかない。当たって砕けろ!

 と思ったところで、急に声をかけられた。

「おはよ、ルリ」
「レオ!」

 吸血鬼の貴族、レオが「よっ」と手を上げた。さわやかな朝の風に、レオの赤髪が揺れる。

「どうしたの、こんなところで」
「いまから宝石を返しにもらいに行くんだろ? おれもいっしょに行こうと思って」
「え、なんで?」
「ルリひとりに任せるのは不安だから」

 ちょっと怒った顔をして、レオが言う。うっ、とわたしは胸を押さえた。素直な言葉が突き刺さるよ……。そりゃ、昨日の大失態があるわけだから、信用されていないのはわかるけど。

 うなだれていたら、レオがふっと笑った。

「ってのは、冗談で」
「へ?」
「ほんとは、おれもちょっと反省したから、いっしょに行くってだけだ」

 わたしは首をかしげた。反省って、なんの?

「たしかに、宝石を売っちゃったのは、ルリだけどさ」
「ご、ごめん」
「いや責めてるわけじゃなくて。なんつーか、もともと宝石を落としたおれも、まあ、ちょっとは悪かったかな、って思ったわけだよ」

 わたしは目をぱちくり瞬いた。レオは気まずそうに、頬をかく。

「だから、おれもいっしょに行って説明してやる。……とはいえ、売り払ったルリも悪いんだけどな!」

 ほら行くぞ、とレオは歩いていく。

(なんか、けっこう、いい子なのかも?)

 ひとりだと心細かったから、いっしょに行くって言ってくれるのは、うれしかった。身体がふっと軽くなる。

「ありがとう、レオ」
「おう」

 わたしは笑った。でもそのあと、「だけどね……」と声を上げる。

「モーリスさまのお屋敷、そっちじゃないよ」
「え」
「あっち」

 わたしはレオが進むほうと、真逆の道を指さした。

「……わかってるよ、それくらい。わざとだ、わざと!」

 レオはふんっと鼻を鳴らして引き返してくる。その耳が真っ赤だ。わたしは思わずくすっと笑ってしまった。なんか、かわいいかも。

「おい、笑うな! 行くぞ!」
「はーい」
「だから、笑うなってば!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

ゲームの《裏技》マスター、裏技をフル暗記したゲームの世界に転生したので裏技使って無双する

鬼来 菊
ファンタジー
 飯島 小夜田(イイジマ サヨダ)は大人気VRMMORPGである、『インフィニア・ワールド』の発見されている裏技を全てフル暗記した唯一の人物である。  彼が発見した裏技は1000を優に超え、いつしか裏技(バグ)マスター、などと呼ばれていた。  ある日、飯島が目覚めるといつもなら暗い天井が視界に入るはずなのに、綺麗な青空が広がっていた。  周りを見ると、どうやら草原に寝っ転がっていたようで、髪とかを見てみると自分の使っていたアバターのものだった。  飯島は、VRを付けっぱなしで寝てしまったのだと思い、ログアウトをしようとするが……ログアウトボタンがあるはずの場所がポッカリと空いている。  まさか、バグった? と思った飯島は、急いでアイテムを使用して街に行こうとしたが、所持品が無いと出てくる。  即行ステータスなんかを見てみると、レベルが、1になっていた。  かつては裏技でレベル10000とかだったのに……と、うなだれていると、ある事に気付く。  毎日新しいプレイヤーが来るゲームなのに、人が、いないという事に。  そして飯島は瞬時に察した。  これ、『インフィニア・ワールド』の世界に転生したんじゃね?  と。  取り敢えず何か行動しなければと思い、辺りを見回すと近くに大きな石があるのに気付いた。  確かこれで出来る裏技あったなーと思ったその時、飯島に電流走る!  もしもこの世界がゲームの世界ならば、裏技も使えるんじゃね!?  そう思った飯島は即行その大きな岩に向かって走るのだった――。 ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています。

ひかりにふれたねこ

1000
児童書・童話
遠い昔、深い森の奥に、ふわふわ浮かぶ、ひかるさかなが住んでいました。 ひかるさかなは、いつも そこにいて、周りを照らしています。 そこに 暗い目をした黒猫:やみねこがやってきました。 やみねこが、ひかるさかなに望んだこととは……? 登場人物 ・やみねこ ・ひかるさかな ※ひかりにふれたねこ、完結しました! 宜しくお願いします<(_ _)>

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

わけありのイケメン捜査官は英国名家の御曹司、潜入先のロンドンで絶縁していた家族が事件に

川喜多アンヌ
ミステリー
あのイケメンが捜査官? 話せば長~いわけありで。 もしあなたの同僚が、潜入捜査官だったら? こんな人がいるんです。 ホークは十四歳で家出した。名門の家も学校も捨てた。以来ずっと偽名で生きている。だから他人に化ける演技は超一流。証券会社に潜入するのは問題ない……のはずだったんだけど――。 なりきり過ぎる捜査官の、どっちが本業かわからない潜入捜査。怒涛のような業務と客に振り回されて、任務を遂行できるのか? そんな中、家族を巻き込む事件に遭遇し……。 リアルなオフィスのあるあるに笑ってください。 主人公は4話目から登場します。表紙は自作です。 主な登場人物 ホーク……米国歳入庁(IRS)特別捜査官である主人公の暗号名。今回潜入中の名前はアラン・キャンベル。恋人の前ではデイヴィッド・コリンズ。 トニー・リナルディ……米国歳入庁の主任特別捜査官。ホークの上司。 メイリード・コリンズ……ワシントンでホークが同棲する恋人。 カルロ・バルディーニ……米国歳入庁捜査局ロンドン支部のリーダー。ホークのロンドンでの上司。 アダム・グリーンバーグ……LB証券でのホークの同僚。欧州株式営業部。 イーサン、ライアン、ルパート、ジョルジオ……同。 パメラ……同。営業アシスタント。 レイチェル・ハリー……同。審査部次長。 エディ・ミケルソン……同。株式部COO。 ハル・タキガワ……同。人事部スタッフ。東京支店のリストラでロンドンに転勤中。 ジェイミー・トールマン……LB証券でのホークの上司。株式営業本部長。 トマシュ・レコフ……ロマネスク海運の社長。ホークの客。 アンドレ・ブルラク……ロマネスク海運の財務担当者。 マリー・ラクロワ……トマシュ・レコフの愛人。ホークの客。 マーク・スチュアート……資産運用会社『セブンオークス』の社長。ホークの叔父。 グレン・スチュアート……マークの息子。

農民だからと冤罪をかけられパーティを追放されましたが、働かないと死ぬし自分は冒険者の仕事が好きなのでのんびり頑張りたいと思います。 

一樹
ファンタジー
タイトル通りの内容です。 のんびり更新です。 小説家になろうでも投稿しています。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

処理中です...