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第四章 レオ、どうしたの?
(一)
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ちゅんちゅん、と小鳥の声で目が覚めた。だけどわたしは朝なのに疲れ切った顔をしている。なぜって、ほとんど眠れなかったんだ。
昨日、間違ってレオの宝石を、モーリスさまに売ってしまった。それをどう謝って、宝石を返してもらうのか……。ずっと、ぐるぐる考えていたんだ。
「うわ、ひどい顔」
鏡を見て、ため息。ゾンビみたいな顔してるよ、わたし。
急いで支度をして、家を出た。夜の間にたくさん悩んだんだから、もうモーリスさまのもとに行ってみるしかない。当たって砕けろ!
と思ったところで、急に声をかけられた。
「おはよ、ルリ」
「レオ!」
吸血鬼の貴族、レオが「よっ」と手を上げた。さわやかな朝の風に、レオの赤髪が揺れる。
「どうしたの、こんなところで」
「いまから宝石を返しにもらいに行くんだろ? おれもいっしょに行こうと思って」
「え、なんで?」
「ルリひとりに任せるのは不安だから」
ちょっと怒った顔をして、レオが言う。うっ、とわたしは胸を押さえた。素直な言葉が突き刺さるよ……。そりゃ、昨日の大失態があるわけだから、信用されていないのはわかるけど。
うなだれていたら、レオがふっと笑った。
「ってのは、冗談で」
「へ?」
「ほんとは、おれもちょっと反省したから、いっしょに行くってだけだ」
わたしは首をかしげた。反省って、なんの?
「たしかに、宝石を売っちゃったのは、ルリだけどさ」
「ご、ごめん」
「いや責めてるわけじゃなくて。なんつーか、もともと宝石を落としたおれも、まあ、ちょっとは悪かったかな、って思ったわけだよ」
わたしは目をぱちくり瞬いた。レオは気まずそうに、頬をかく。
「だから、おれもいっしょに行って説明してやる。……とはいえ、売り払ったルリも悪いんだけどな!」
ほら行くぞ、とレオは歩いていく。
(なんか、けっこう、いい子なのかも?)
ひとりだと心細かったから、いっしょに行くって言ってくれるのは、うれしかった。身体がふっと軽くなる。
「ありがとう、レオ」
「おう」
わたしは笑った。でもそのあと、「だけどね……」と声を上げる。
「モーリスさまのお屋敷、そっちじゃないよ」
「え」
「あっち」
わたしはレオが進むほうと、真逆の道を指さした。
「……わかってるよ、それくらい。わざとだ、わざと!」
レオはふんっと鼻を鳴らして引き返してくる。その耳が真っ赤だ。わたしは思わずくすっと笑ってしまった。なんか、かわいいかも。
「おい、笑うな! 行くぞ!」
「はーい」
「だから、笑うなってば!」
昨日、間違ってレオの宝石を、モーリスさまに売ってしまった。それをどう謝って、宝石を返してもらうのか……。ずっと、ぐるぐる考えていたんだ。
「うわ、ひどい顔」
鏡を見て、ため息。ゾンビみたいな顔してるよ、わたし。
急いで支度をして、家を出た。夜の間にたくさん悩んだんだから、もうモーリスさまのもとに行ってみるしかない。当たって砕けろ!
と思ったところで、急に声をかけられた。
「おはよ、ルリ」
「レオ!」
吸血鬼の貴族、レオが「よっ」と手を上げた。さわやかな朝の風に、レオの赤髪が揺れる。
「どうしたの、こんなところで」
「いまから宝石を返しにもらいに行くんだろ? おれもいっしょに行こうと思って」
「え、なんで?」
「ルリひとりに任せるのは不安だから」
ちょっと怒った顔をして、レオが言う。うっ、とわたしは胸を押さえた。素直な言葉が突き刺さるよ……。そりゃ、昨日の大失態があるわけだから、信用されていないのはわかるけど。
うなだれていたら、レオがふっと笑った。
「ってのは、冗談で」
「へ?」
「ほんとは、おれもちょっと反省したから、いっしょに行くってだけだ」
わたしは首をかしげた。反省って、なんの?
「たしかに、宝石を売っちゃったのは、ルリだけどさ」
「ご、ごめん」
「いや責めてるわけじゃなくて。なんつーか、もともと宝石を落としたおれも、まあ、ちょっとは悪かったかな、って思ったわけだよ」
わたしは目をぱちくり瞬いた。レオは気まずそうに、頬をかく。
「だから、おれもいっしょに行って説明してやる。……とはいえ、売り払ったルリも悪いんだけどな!」
ほら行くぞ、とレオは歩いていく。
(なんか、けっこう、いい子なのかも?)
ひとりだと心細かったから、いっしょに行くって言ってくれるのは、うれしかった。身体がふっと軽くなる。
「ありがとう、レオ」
「おう」
わたしは笑った。でもそのあと、「だけどね……」と声を上げる。
「モーリスさまのお屋敷、そっちじゃないよ」
「え」
「あっち」
わたしはレオが進むほうと、真逆の道を指さした。
「……わかってるよ、それくらい。わざとだ、わざと!」
レオはふんっと鼻を鳴らして引き返してくる。その耳が真っ赤だ。わたしは思わずくすっと笑ってしまった。なんか、かわいいかも。
「おい、笑うな! 行くぞ!」
「はーい」
「だから、笑うなってば!」
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