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第二章 なぞの赤い宝石

(一)

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「ルリ、遅かったね」

 息を切らして、モーリスさまのお屋敷にたどり着く。大きな門の前で男の子が手をふった。ミナセだ。わたしもぶんぶん手をふる。

「ごめん、遅れた!」
「それは大丈夫だけど……、どうしたの? 土がついてる」

 ミナセは心配そうに眉をぎゅっと寄せて、わたしの服についた土を払ってくれる。小道でこけたときに、服にも土がついてしまっていたみたいだ。宝石のことばかり気にしていたから、気づかなかった。

 土だらけで走っていたことが恥ずかしくて、ぽっと頬が熱くなる。

「まったく、そんな土だらけだと、お屋敷には上げられないよ。はいできた」
「ありがとう、ミナセ~!」
「ルリってば、おてんばは直らないみたいだね」
「そ、そんなことないよ! これでも立派なレディになるべく修行中だし……!」
「レディは土だらけになりません」
「うっ」

 ぴしゃりと言われて、わたしはそそそっと目をそらす。でもたしかに、いまのわたしはレディには、ほど遠かったかもしれない。

「あーあ。宝石の似合う、立派な女のひとになりたいのになあ……」
「次から気をつけなよ。さ、モーリスさまがお待ちだから、入って」

 ミナセは苦笑してわたしの背を押し、大きなお屋敷に通してくれる。お屋敷は真っ白な壁につんつんと塔もついた、この街一番の建物だ。

 ミナセはわたしの近所に住む、二歳上の男の子。栗色の落ち着いた色の髪をしていて、すっと背が高い。ここ、モーリスさまのお屋敷で使用人をしているんだ。いつも皺のない白いシャツを、すてきに着こなしている。

 優しいから、近所のみんなのお兄さんとして信頼されているし、頭もよくて、魔法も得意。完ぺきでしょ?

 あと栗色の瞳がね、すごく澄んでて、でも深い色で、とってもきれいなんだ!

「モーリスさま、今日の宝石も楽しみにしていたよ。ジュエル・フェアリーの宝石はどれも最高だって」
「ほんと? ふふっ、まあ、そうだよね。うちの宝石は世界で一番だもん!」

 誇らしくなって胸を張ると、ミナセは「よかったね」と頭を撫でてくれた。これ、ミナセのくせなんだ。ちょっと子ども扱いされてるみたいでいやだけど、ミナセの手はあったかい。だから、わたしはなにも言えなくなってしまう。

 あ、そうそう。

「ミナセから頼まれてた指輪の修理、終わったよ」

 思い出して言うと、ミナセはパッと笑顔になった。

「ほんと?」
「うん。母さんが直したから、ばっちり!」

 実は数日前に、ミナセの大事な指輪の金具部分が壊れてしまったんだ。それで、うちに修理の依頼があったってわけ。

「おばさんの仕事なら、安心だよ。ありがとう」

 ミナセはほっと胸をなでおろした。それくらい、大事な指輪だったってことだ。ミナセの役に立てたことがうれしくて、わたしは心があったかくなった。

 ……まあ、直したのは母さんで、わたしはなにもしてないんだけどね。
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