1 / 54
第一章 宝石店の娘と、きれいな少年
(一)
しおりを挟む
きらきら輝く宝石のアクセサリー。
バラみたいな、赤い宝石のブローチ。海みたいな、青色のイヤリング。森の木々みたいな、緑色の指輪。
「はぁ~、すごい。ずっと見ていたい」
母さんと父さんがつくるアクセサリーは、みんなすてきで、うっとり……。
「ちょっとルリ! はやく宝石届けに行ってきて!」
「わっ」
いきなり聞こえた母さんの声に、わたしはびくっと飛び跳ねる。
「モーリスさまがお待ちなんだから、ほら、さっさと行く!」
「は、はーい!」
あわてて宝石たちを専用の箱に詰めて、いってきまーす、と家を飛び出す。
……でも、その前に!
お店の奥にある、母さんの工房をのぞいた。
母さんは、桃色の宝石を机に置いて、両手をかざしている。宝石は採れたての、ごつごつした石の状態。でも母さんが力をこめると、ふわっと淡い光に包まれて、その姿が変わっていく。宝石は、あっという間に小さな花の形になった。
母さんは休むことなく、ビンに入っていた金色の液体を、宝石に巻きつけていく。それは宝石の縁を美しくかたどって、チェーンになって……。ネックレスの出来上がりだ。
「わあ、かわいい!」
思わず声を上げると、母さんはさっとふり向く。
(あ、まずい)
ひやっとした次の瞬間、母さんは目をつりあげて大声で怒鳴った。
「早く行きなさいって言ったでしょう、ルリ!」
「ご、ごめんなさい、いってきますーっ!」
*****
王都からちょっと離れた田舎町に、夏の風が吹く。レンガ作りのおしゃれな家やお店が並ぶ大通りを、太陽のまぶしい光が照らし出す。わたしの実家『ジュエル・フェアリー』も、そんな通りにあるお店のひとつ。
ジュエルは宝石、フェアリーは妖精。だから『妖精の宝石』って意味だ。
その名のとおり、母さんと父さんは、宝石のアクセサリーをつくって売っている。ふたりのつくるアクセサリーはみんな、かわいくて、街でも大評判。
そしてそして、『ジュエル・フェアリー』のひとり娘がわたし、ルリだ。今年十二歳になって、母さんたちに教えられながら魔法を勉強中! 青い宝石みたいな瞳が自慢の、ジュエル・フェアリーの看板娘なんだよ。
『いつか、わたしのつくったアクセサリーで、みんなを笑顔にしたい!』
それがわたしの夢。
(まあ、まだまだ、きれいなアクセサリーをつくることはできないんだけどね……)
わたしに任せられる仕事といえば、宝石をお客さまにお届けすることばかり。正直言えば、つまんない。めちゃくちゃ、つまんない!
でも、配達だって、立派なお仕事だ。しっかりやらなきゃね。
わたしは宝石のつまった箱を大切に抱え直して、石畳の道を小走りで進んだ。
そのときだ。
どさっ。
なにかが倒れる音がした。
「うっ……」
しかも、うめくような声まで!
(えええ、なになに⁉ もしかして、だれか倒れてる⁉)
「あ、あのー……、だれかいますかー?」
おそるおそる、大通りから一本入った小道に顔をつっこんだ。多分、声はこっちからしたと思うんだよね。するとやっぱり、暗くて細い道に、倒れているひとを発見!
「わ、ちょっと、大丈夫⁉」
あわてて近寄ってみると、わたしと同じ年くらいの男の子だった。その子が顔を上げる。
(わあ……)
赤い髪はちょっとくせがあって、つんつんしている。肌は真っ白、鼻筋は高いし、瞳はきりっとしたつり目。その瞳は、宝石みたいに赤くてきらきらだ。すごい、きれいな子……。
(って、ちがうちがう! 倒れてるんだから、見とれてる場合じゃない!)
「大丈夫? 体調悪いの? 平気?」
とにかく彼を起こそうと、わたしは手を伸ばした……んだけど、
「さわるな!」
男の子は動物みたいにすばやい動きで跳ね起きて、わたしを突き飛ばした。そのせいで、わたしは地面に倒れこみ、手から箱が落ちる。さらにはフタが開いて、宝石のいくつかが転がり出した。
「あああっ、うそ! 大事な商品なのに!」
商品に傷がついてしまったら、大変だ! せっかく、お客さまが楽しみに待ってくれているんだから。それに、母さんたちがていねいにつくったものを、壊すなんて、いや。真っ青になって宝石を拾うわたしを見て、男の子は「あ」と眉を寄せた。
「悪い、つい……」
そう言って落ちた宝石に手を伸ばす。だけど、拾い上げる前に、はっと顔をあげた。キョロキョロとあたりを見ている。まるで、なにかにおびえているように。思わずわたしも手を止めて、男の子を見た。
「なに? どうかした?」
「いや……、ほんと悪かったな! じゃ!」
言い終わらないうちに、男の子はすばやく走っていってしまった。あまりにもあっという間に、小道の奥に消えてしまう。
(なに、あれ)
「って、ダメだ、いまは仕事!」
ぶんっと首をふって、宝石を拾い集める。ひとつひとつ傷がないことを確認して、土やほこりをスカートで払っては、箱にしまい直す。
「よかった、宝石は無事みたい……」
ほっとして、今度こそしっかりと箱を抱きかかえて、大通りにもどる。
(でもあの子、本当にきれいな赤い瞳だったな)
もしかしたら、宝石より、もっときれいだったかも。その赤色を忘れられないまま、わたしはモーリスさまのお屋敷に向かった。
――宝石の数が合わないことに、気づかないまま。
バラみたいな、赤い宝石のブローチ。海みたいな、青色のイヤリング。森の木々みたいな、緑色の指輪。
「はぁ~、すごい。ずっと見ていたい」
母さんと父さんがつくるアクセサリーは、みんなすてきで、うっとり……。
「ちょっとルリ! はやく宝石届けに行ってきて!」
「わっ」
いきなり聞こえた母さんの声に、わたしはびくっと飛び跳ねる。
「モーリスさまがお待ちなんだから、ほら、さっさと行く!」
「は、はーい!」
あわてて宝石たちを専用の箱に詰めて、いってきまーす、と家を飛び出す。
……でも、その前に!
お店の奥にある、母さんの工房をのぞいた。
母さんは、桃色の宝石を机に置いて、両手をかざしている。宝石は採れたての、ごつごつした石の状態。でも母さんが力をこめると、ふわっと淡い光に包まれて、その姿が変わっていく。宝石は、あっという間に小さな花の形になった。
母さんは休むことなく、ビンに入っていた金色の液体を、宝石に巻きつけていく。それは宝石の縁を美しくかたどって、チェーンになって……。ネックレスの出来上がりだ。
「わあ、かわいい!」
思わず声を上げると、母さんはさっとふり向く。
(あ、まずい)
ひやっとした次の瞬間、母さんは目をつりあげて大声で怒鳴った。
「早く行きなさいって言ったでしょう、ルリ!」
「ご、ごめんなさい、いってきますーっ!」
*****
王都からちょっと離れた田舎町に、夏の風が吹く。レンガ作りのおしゃれな家やお店が並ぶ大通りを、太陽のまぶしい光が照らし出す。わたしの実家『ジュエル・フェアリー』も、そんな通りにあるお店のひとつ。
ジュエルは宝石、フェアリーは妖精。だから『妖精の宝石』って意味だ。
その名のとおり、母さんと父さんは、宝石のアクセサリーをつくって売っている。ふたりのつくるアクセサリーはみんな、かわいくて、街でも大評判。
そしてそして、『ジュエル・フェアリー』のひとり娘がわたし、ルリだ。今年十二歳になって、母さんたちに教えられながら魔法を勉強中! 青い宝石みたいな瞳が自慢の、ジュエル・フェアリーの看板娘なんだよ。
『いつか、わたしのつくったアクセサリーで、みんなを笑顔にしたい!』
それがわたしの夢。
(まあ、まだまだ、きれいなアクセサリーをつくることはできないんだけどね……)
わたしに任せられる仕事といえば、宝石をお客さまにお届けすることばかり。正直言えば、つまんない。めちゃくちゃ、つまんない!
でも、配達だって、立派なお仕事だ。しっかりやらなきゃね。
わたしは宝石のつまった箱を大切に抱え直して、石畳の道を小走りで進んだ。
そのときだ。
どさっ。
なにかが倒れる音がした。
「うっ……」
しかも、うめくような声まで!
(えええ、なになに⁉ もしかして、だれか倒れてる⁉)
「あ、あのー……、だれかいますかー?」
おそるおそる、大通りから一本入った小道に顔をつっこんだ。多分、声はこっちからしたと思うんだよね。するとやっぱり、暗くて細い道に、倒れているひとを発見!
「わ、ちょっと、大丈夫⁉」
あわてて近寄ってみると、わたしと同じ年くらいの男の子だった。その子が顔を上げる。
(わあ……)
赤い髪はちょっとくせがあって、つんつんしている。肌は真っ白、鼻筋は高いし、瞳はきりっとしたつり目。その瞳は、宝石みたいに赤くてきらきらだ。すごい、きれいな子……。
(って、ちがうちがう! 倒れてるんだから、見とれてる場合じゃない!)
「大丈夫? 体調悪いの? 平気?」
とにかく彼を起こそうと、わたしは手を伸ばした……んだけど、
「さわるな!」
男の子は動物みたいにすばやい動きで跳ね起きて、わたしを突き飛ばした。そのせいで、わたしは地面に倒れこみ、手から箱が落ちる。さらにはフタが開いて、宝石のいくつかが転がり出した。
「あああっ、うそ! 大事な商品なのに!」
商品に傷がついてしまったら、大変だ! せっかく、お客さまが楽しみに待ってくれているんだから。それに、母さんたちがていねいにつくったものを、壊すなんて、いや。真っ青になって宝石を拾うわたしを見て、男の子は「あ」と眉を寄せた。
「悪い、つい……」
そう言って落ちた宝石に手を伸ばす。だけど、拾い上げる前に、はっと顔をあげた。キョロキョロとあたりを見ている。まるで、なにかにおびえているように。思わずわたしも手を止めて、男の子を見た。
「なに? どうかした?」
「いや……、ほんと悪かったな! じゃ!」
言い終わらないうちに、男の子はすばやく走っていってしまった。あまりにもあっという間に、小道の奥に消えてしまう。
(なに、あれ)
「って、ダメだ、いまは仕事!」
ぶんっと首をふって、宝石を拾い集める。ひとつひとつ傷がないことを確認して、土やほこりをスカートで払っては、箱にしまい直す。
「よかった、宝石は無事みたい……」
ほっとして、今度こそしっかりと箱を抱きかかえて、大通りにもどる。
(でもあの子、本当にきれいな赤い瞳だったな)
もしかしたら、宝石より、もっときれいだったかも。その赤色を忘れられないまま、わたしはモーリスさまのお屋敷に向かった。
――宝石の数が合わないことに、気づかないまま。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
霊能者、はじめます!
島崎 紗都子
児童書・童話
小学六年生の神埜菜月(こうのなつき)は、ひょんなことから同じクラスで学校一のイケメン鴻巣翔流(こうのすかける)が、霊が視えて祓えて成仏させることができる霊能者だと知る。
最初は冷たい性格の翔流を嫌う菜月であったが、少しずつ翔流の優しさを知り次第に親しくなっていく。だが、翔流と親しくなった途端、菜月の周りで不可思議なことが起こるように。さらに翔流の能力の影響を受け菜月も視える体質に…!
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!
克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。
夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~
世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。
友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。
ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。
だが、彼らはまだ知らなかった。
ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。
敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。
果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか?
8月中、ほぼ毎日更新予定です。
(※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?六本目っ!不帰の嶮、禁忌の台地からの呼び声。
月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。
国内外を飛び回っては騒動に巻き込まれつつ、次第に時代の奔流に呑み込まれてゆく。
そんなある日のこと。
チヨコは不思議な夢をみた。
「北へ」と懸命に訴える少女の声。
ナゾの声に導かれるようにして、チヨコは北方域を目指す。
だがしかし、その場所は数多の挑戦者たちを退けてきた、過酷な場所であった。
天剣と少女の冒険譚。
剣の母シリーズ第六部、ここに開幕!
お次の舞台は前人未踏の北方域。
まるで世界から切り離されたような最果ての地にて、チヨコは何を見るのか。
その裏ではいよいよ帝国の軍勢が……。
※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部~第五部。
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?四本目っ!海だ、水着だ、ポロリは……するほど中身がねえ!」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?五本目っ!黄金のランプと毒の華。」
からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。
あわせてどうぞ、ご賞味あれ。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる