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第8章 すてきな夜会!

(4)とびっきりのプレゼント

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 連れていかれた庭には、だれもいない。音楽もかすかに聞こえてくるだけで、しんとした空気に包まれていた。

「今度は、ここで踊りましょう?」
「ここで?」
「ええ。あ、でもちょっと待ってね」

 ふり向いたロゼが、すうっと息を吸う。

「我、ロゼの名のもとに命ずる。花たちよ、我らの姿を隠せ」

 地面からぷくりぷくりと、芽が出る。みるみるバラのツルが伸びて、わたしたちのまわりを花が囲った。世界から、わたしたちだけを切り離すみたいに。バラのドームだ。きれい……!

「どうかな、リリイ。ふたりだけのダンスホールだよ」
「うわっ、ロゼ……!? いつのまに男の子バージョンに! 先生に怒られるよ?」

 ロゼは、いつのまにか男の子の姿になっていた。黒のタキシード、胸には赤いバラ。王子みたいな姿に、どきりとする。

 ロゼはぱちん、とウインクした。

「平気だよ。バラで隠れてるんだから」
「そういう問題?」
「うん。それから、リリイに魔法のプレゼントをあげるね」

 ロゼは、そっとわたしの手を取った。プレゼント?

「うわわ……!?」

 あたたかい光が、わたしを包んだ。なにこれ!? わたしの服が変化していく!?

 びしっとした男の子の服が、ライトブルーの、ふわっとしたミニドレスに……!

「うん、やっぱりリリイはスタイルいいから、似合うね。かわいいよ」
「か、かわっ……!?」
「うん。かわいい」

 微笑むロゼに、かああああっと顔が熱くなる。

「で、でも、キャラじゃないって、言われるし……」
「ここにはいま、ぼくとリリイしかいないよ。ほかのだれも見てないんだから、まわりの目なんて気にしなくていい。ぼくのことだけ見て?」

 そっと、ロゼが顔を寄せてくる。その赤いひとみから、目がそらせなくなる。

「リリイはたしかにかっこいいけど、かわいい子でもあるよ。ほめたらすぐ顔が真っ赤になるところとか、からかわれると泣いちゃいそうになるところとか」

 そ、それは恥ずかしいから言わないでほしい……。いまも絶対、顔真っ赤だし!

「ドレス、本当に似合ってる。信じて?」

 すっと髪に触れられたかと思うと、ユリの髪飾りがつけられていた。ロゼが満足そうな、やわらかい笑顔で、わたしに手を差し出す。

「踊ろうよ。今度は、ぼくがリードするから。お手をどうぞ。リリイお嬢さま」
「……うん!」

 ロゼの言うことなら、わたし、信じられるよ。素直になれる。かわいいドレスで、わたしも踊っていいんだ……!

 ロゼに導かれて、ダンスがはじまる。リードされるって、こんな感じなんだね。自分が特別なお嬢さまになった気分。心も体も、ふわっと軽い。これ、楽しい!

 ふわりと揺れるドレス。やわらかなほほ笑みのロゼ。わたしの心は、あったかい。
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