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第8章 すてきな夜会!

(1)かわいいドレス、いいな

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 月末の、金曜日。あたりが暗くなったころ。待ちに待った夜会が、もうすぐはじまろうとしていた。

 長い道のりだったよ。ダンスの練習とか、魔犬のトラブルとか、いろいろあったもんね。ここまでこれて、本当によかった!

「リリイ。このドレス、どうかしら? 変じゃない……?」

 がちゃっと、寮のドアが開いて、ロゼが出てきた。

「うわあ、ロゼ似合ってるよ! すごくかわいい!」

 ロゼは真っ赤なドレスを、ふわりとなびかせて、はずかしそうにほほ笑んでいた。ロゼのひとみと同じ、バラ色のドレスだ。それから、まとめた髪にはバラの花かざり。

「すごいねロゼは。天使みたいに、かわいいよ」

 まあ、悪魔だけどね!

「もう、また王子みたいなこと言うんだから。でもリリイもすてきよ。かっこいいわ!」
「……ありがとう」

 ドレス姿のロゼに対して、わたしはピシッとした黒のタキシード。光沢のある赤いリボンを首に結んでいるから、いつもの執事服より華やかだ。わたしも照れくさくて、笑っちゃった。

 最近、かっこいいって言われるのも、なんだか嫌じゃなくなってきた気がする。ロゼの執事としてかっこよくいられたら、うれしいかな、って。うん、わたしは執事! ロゼのために、今日はとびっきりかっこよくいこう!

「あ、でもリリイ。最後の仕上げをしなきゃ。よいしょっと……、はい、これで完成よ!」

 ロゼは、わたしの胸ポケットにユリの花かざりをさした。

「わたしとおそろい! すてきよ、リリイ!」

 にこっとほほ笑むロゼの髪で揺れる、バラの髪かざり。わたしは自分のユリの花を見て、なんだか、こそばゆい感じがした。

「さあ、行きましょう! 今日は思いきり楽しまなくちゃ!」

 目指すのは、ガラス張りのダンスホール。月明かりとキャンドルの光に照らされて、ぱっと明るく幻想的な雰囲気に包まれていた。

「すごい、きらきらだ……。しかもみんなドレス! かわいい! いいなあ!」

 集まっているお嬢さまたちは、それぞれ色鮮やかなドレスを着ていた。

「リリイも、ドレスがよかった?」

 あ、やば! 声に出してた!?

「う、ううん! わたしは男役だし、タキシードで十分だよ!」
「そう……? でもリリイって、かわいいものが好きよね?」

 ……へ? ば、ばれてる!?

「い、いやそんなことないよ!」
「うそね。リリイ、わかりやすいもの」

 ……言い訳は通用しないっぽい。

 ずっと、かわいいものが好きだってことは、隠してた。キャラじゃないって言われるし。

(でもロゼは、そんなこと、言わないのかもなあ……)

「……うん、かわいいもの、いいなあって思うよ」

 小さな声で言うと、ロゼは首をかしげた。

「どうして隠そうとするの?」
「わたし、王子っぽいってよく言われるから。かわいいもの好きだと、みんな、がっかりしたり、似合わないって言ったりするんだよね」
「たしかにリリイはかっこいいけれど……、あっ! もしかして、執事って嫌だった?」

 ロゼがしゅん、と眉を下げた。うーん……、たしかに、かわいい制服を着たかったなあ、ってがっかりした。でも。

「わたしは、ロゼの執事になれてよかったよ。これは本当!」

 いまなら、胸を張って言える。執事として、ここにいられてよかったって!

「そう……、ありがとう、リリイ!」
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