上 下
45 / 60
第7章 二度目の実践授業は大ピンチ!

(8)逃げ……られる⁉

しおりを挟む
「ってそんなこと言ってる場合じゃない! 逃げましょう! ほら早く!」

 イエローさんの腕をつかんで、走り出す。その瞬間、近くの木が、バキバキッと、大きな音を立ててなぎ倒された。魔犬だ。

「あ、リリイさん待って、わたし、もう足が……あっ!」
「イエローさん!?」

 ずっとおとりになって走り回っていたから、体力の限界だったのかもしれない。イエローさんがつまずいて、転んでいた。まずい。ふり向いたわたしの視界に、血走った目が映る。

(まずいまずいまずい! このままじゃ、ふたりとも……!)

 とっさに、イエローさんをかばうように抱きしめる。すぐ近くでする、魔犬のうなり声。どうにかしなきゃ。

 にぎったままだった、笛に気づく。

(お願い、来て!)

 ピー――……っ!

 森に響く、高い笛の音。――そして、返事があった。すぐ近く、きれいな鳴き声が!

 ギャンッ

 苦しそうな声がして、魔犬が、わたしの視界から吹っ飛んだ。その代わりに見えたのは、きらきら輝く銀の色。

「……しーさんっ!」

 魔犬に体当たりした、シルバーフォックスのしーさんが駆けてくる。翼の生えた背中を見せて「きゅうっ」と鳴いた。「乗って」って、言っているみたいだ。怖さからじわっと浮かんだ涙をぬぐって、イエローさんを引っ張る。

「イエローさん、乗って!」
「え、な、なんですの、このシルバーフォックス!」
「友だちのしーさん! って、そんなこといいから、早く乗る! ……ってください!」
「リリイさん、敬語へたすぎません!?」
「ああ、もう、うるさいなあ、早くして!」

 わたしに押されて、イエローさんはしーさんの背中に乗った。わたしも、イエローさんの前にはいのぼって、銀色の毛をつかむ。

「お願い! 逃げて!」

 駆け出したしーさんは、びっくりするくらい速かった。ジェットコースターみたいだ。

(よかった、しーさんを呼んで大正解……!)

 魔界動物から逃げるためには、魔界動物の力を借りるのがいいかも、って思ったんだ。予想どおり! ありがとう、しーさん!

 だけど、魔犬も追ってくる。すると、しーさんは、ぐんっと翼を羽ばたかせた。うそ、飛んでる……!?

「そっか、空に逃げれば、犬は追ってこられないもんね! しーさんさすが!」
「いいえ! だめですわ!」

 感心したわたしに、イエローさんが叫んだ。

「だって、空は――!」

 言い終わらないうちに、まわりの木々がぐんぐん伸びて、行く手が邪魔されていく。そ、そうだった! この森、先生の魔法がかかってるんだ! この前の授業で、ロゼだって空に飛ぶのを邪魔されてたじゃん!

 しーさんは、あわてて地上に降りる。でも、そこには当然、魔犬がいて……。

「ど、どうするんですの、リリイさん!」
「ど、どうしよう……!?」
「まさかノープランですの!?」
「だってぇ!」

 迷っているうちにも、魔犬は迫ってくる。なんとかしなきゃ! でも、なにができる!?

「り、リリイさん! リリイさんってば!」

 がくがくがく、と体を揺さぶられる。

 もう、なに!? わたし、いま、必死に考えてるんだけど!

「あ、あそこ! ほら、見て! ロゼさんですわ!」

 え?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

男女比:1:450のおかしな世界で陽キャになることを夢見る

卯ノ花
恋愛
妙なことから男女比がおかしな世界に転生した主人公が、元いた世界でやりたかったことをやるお話。 〔お知らせ〕 ※この作品は、毎日更新です。 ※1 〜 3話まで初回投稿。次回から7時10分から更新 ※お気に入り登録してくれたら励みになりますのでよろしくお願いします。 ただいま作成中

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...