悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい

文字の大きさ
上 下
26 / 60
第5章 執事の特訓!

(2)仲よし「しーさん」

しおりを挟む
 ダンスホールを出て、迷いの森に向かった。この森には、いつだって人間を道に迷わせる魔法がかけてある。だけどソフィ先生が、わたしには魔法が効かないようにしてくれたんだ。おかげで自由に歩けるんだよ。

 よし、このあたりでいいかな。わたしはポケットから、小さな笛を取り出した。

 ピー――……。

 高く澄んだ笛の音を鳴らす。どこか遠くのほうで、同じような音がした。しばらく待っていると、銀色の光が目の端にちらついて――。

「しーさん、おはよー、いだっ!」

 銀色に輝くシルバーフォックスが一頭、ごんっとわたしにタックルをしてきた。倒れ込んだわたしに、「きゅっ」と鳴いて、ぐいぐい頭を押しつけてくる。

「ちょっと、しーさん、痛いよ! でも、もふもふ気持ちいい~!」

 わたしが笑っちゃうと、しーさんも銀色のひとみを細めた。うん、かわいいっ!

 しーさんは、実践授業のときに会った、あの迷子のシルバーフォックスだ。何度か会ううちに、抱きつけるくらい仲よくなったんだよ。シルバーフォックス、略してしーさん!

「聞いてよ。ダンス、ぜんぜんうまくならないんだ。どうしよう」

 しーさんの首元に顔をうずめると、日向の匂いがした。元気出して、って言うみたいに、しーさんのしっぽがわたしをなでる。もふもふだ。

「わあ、シルバーフォックスに抱きつくとか、リリイすごいね~」

 突然、木陰からした声に、しーさんの耳がぴくっと反応した。

「え、シトリン!? なんでここにいるの?」

 ひらひら~と手をふっているのは、イエローさんの執事のシトリンだった。長身のシトリンが木にもたれている姿は、雑誌の表紙みたいだ。美形だな……。

「リリイが森に行くのが見えたから、ついてきたんだ~。その子、元気になったんだね」
「うん。ソフィ先生が手当てしてくれたんだよ。あと耳も」
「そういえば、その子、耳が聞こえてなかったんだっけ?」
「『くらやみ虫』っていう虫のせいだったみたい」

 魔界にいる虫で、目を見えなくさせたり、耳を聞こえなくさせたりするらしい。ソフィ先生が『魔界生物大事典』ってぶ厚い本を片手に、教えてくれた。

「先生がくらやみ虫を取ったら、耳が聞こえるようになったんだよ。わたしが笛を鳴らせば、森のどこにいても音を頼りに会いにきてくれるくらい」
「へえ、そうなんだ、すごいね~。ところで、リリイはさっき、なにを落ち込んでたの?」
「……え」

 ま、まずい。弱気になってたとこ、見られてた? しーさんしかいないと思ってたから、恥ずかしい……、ごまかそう!

「わたしは、べつに、落ち込んでないけど。なに言ってるの、シトリン」
「うそだ~。ダンスできないって、泣き言こぼしてたじゃん」
「……聞いてたの!?」
「聞いてたんじゃなくて、聞こえただけ」
「同じじゃん!」

 シトリンはおかしそうに笑ってる。……あーもう、悪魔って、みんないじわるだ!

 だけど突然、いいことを思いついた、って感じでシトリンが手を叩いた。

「ね、ダンスの練習、つきあってあげるよ。そっち行っても大丈夫かな?」

 大丈夫って……? あ、しーさん、「ぐるる」って、ちょっと毛を逆立ててる。シトリンを警戒してるのかも。わたしは、しーさんの首元をなでた。

「シトリンは怖くないから、安心して、しーさん」

 すると、しーさんはふすっと鼻息を吹かせて、草の上に「待て」の姿勢になった。

「おお~、すっかりなついてるね。すごいすごい。じゃ、はじめよっか」

 本当に練習を手伝ってくれるみたいだ。ありがたい、けど。

「身長差がロゼとちがうから、変な感じ」

 シトリンを女の子と思って踊るのは……ちょっと、無理だよ。ロゼはわたしより身長が低い。でもシトリンは、わたしより高い。違和感ありまくり。

「うーん。じゃあ、特別サービスしてあげようかな~」

 シトリンは、「任せて」と、きれいにウインクをしてみせた。つぎの瞬間、ぽんっと、白い煙が、彼の姿を隠す。これって、もしかして……?
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

コボンとニャンコ

魔界の風リーテ
児童書・童話
吸血コウモリのコボンは、リンゴの森で暮らしていた。 その日常は、木枯らしの秋に倒壊し、冬が厳粛に咲き誇る。 放浪の最中、箱入りニャンコと出会ったのだ。 「お前は、バン。オレが…気まぐれに決めた」 三日月の霞が晴れるとき、黒き羽衣に火が灯る。 そばにはいつも、夜空と暦十二神。 『コボンの愛称以外のなにかを探して……』 眠りの先には、イルカのエクアルが待っていた。 残酷で美しい自然を描いた、物悲しくも心温まる物語。 ※縦書き推奨  アルファポリス、ノベルデイズにて掲載 【文章が長く、読みにくいので、修正します】(2/23) 【話を分割。文字数、表現などを整えました】(2/24) 【規定数を超えたので、長編に変更。20話前後で完結予定】(2/25) 【描写を追加、変更。整えました】(2/26) 筆者の体調を破壊()3/

【完】ノラ・ジョイ シリーズ

丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴* ▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー ▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!? ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐️して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

宝石店の魔法使い~吸血鬼と赤い石~

橘花やよい
児童書・童話
宝石店の娘・ルリは、赤い瞳の少年が持っていた赤い宝石を、間違えてお客様に売ってしまった。 しかも、その少年は吸血鬼。石がないと人を襲う「吸血衝動」を抑えられないらしく、「石を返せ」と迫られる。お仕事史上、最大の大ピンチ! だけどレオは、なにかを隠しているようで……? そのうえ、宝石が盗まれたり、襲われたりと、騒動に巻き込まれていく。 魔法ファンタジー×ときめき×お仕事小説! 「第1回きずな児童書大賞」特別賞をいただきました。

世にも奇妙な日本昔話

佐野絹恵(サノキヌエ)
児童書・童話
昔々ある所に お爺さんと お婆さんが住んでいました お婆さんは川に洗濯物へ お爺さんは山へ竹取りへ 竹取り? お婆さんが川で 洗濯物をしていると 巨大な亀が泳いで来ました ??? ━━━━━━━━━━━━━━━ 貴方の知っている日本昔話とは 異なる話 ミステリーコメディ小説

処理中です...