悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい

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第5章 執事の特訓!

(2)仲よし「しーさん」

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 ダンスホールを出て、迷いの森に向かった。この森には、いつだって人間を道に迷わせる魔法がかけてある。だけどソフィ先生が、わたしには魔法が効かないようにしてくれたんだ。おかげで自由に歩けるんだよ。

 よし、このあたりでいいかな。わたしはポケットから、小さな笛を取り出した。

 ピー――……。

 高く澄んだ笛の音を鳴らす。どこか遠くのほうで、同じような音がした。しばらく待っていると、銀色の光が目の端にちらついて――。

「しーさん、おはよー、いだっ!」

 銀色に輝くシルバーフォックスが一頭、ごんっとわたしにタックルをしてきた。倒れ込んだわたしに、「きゅっ」と鳴いて、ぐいぐい頭を押しつけてくる。

「ちょっと、しーさん、痛いよ! でも、もふもふ気持ちいい~!」

 わたしが笑っちゃうと、しーさんも銀色のひとみを細めた。うん、かわいいっ!

 しーさんは、実践授業のときに会った、あの迷子のシルバーフォックスだ。何度か会ううちに、抱きつけるくらい仲よくなったんだよ。シルバーフォックス、略してしーさん!

「聞いてよ。ダンス、ぜんぜんうまくならないんだ。どうしよう」

 しーさんの首元に顔をうずめると、日向の匂いがした。元気出して、って言うみたいに、しーさんのしっぽがわたしをなでる。もふもふだ。

「わあ、シルバーフォックスに抱きつくとか、リリイすごいね~」

 突然、木陰からした声に、しーさんの耳がぴくっと反応した。

「え、シトリン!? なんでここにいるの?」

 ひらひら~と手をふっているのは、イエローさんの執事のシトリンだった。長身のシトリンが木にもたれている姿は、雑誌の表紙みたいだ。美形だな……。

「リリイが森に行くのが見えたから、ついてきたんだ~。その子、元気になったんだね」
「うん。ソフィ先生が手当てしてくれたんだよ。あと耳も」
「そういえば、その子、耳が聞こえてなかったんだっけ?」
「『くらやみ虫』っていう虫のせいだったみたい」

 魔界にいる虫で、目を見えなくさせたり、耳を聞こえなくさせたりするらしい。ソフィ先生が『魔界生物大事典』ってぶ厚い本を片手に、教えてくれた。

「先生がくらやみ虫を取ったら、耳が聞こえるようになったんだよ。わたしが笛を鳴らせば、森のどこにいても音を頼りに会いにきてくれるくらい」
「へえ、そうなんだ、すごいね~。ところで、リリイはさっき、なにを落ち込んでたの?」
「……え」

 ま、まずい。弱気になってたとこ、見られてた? しーさんしかいないと思ってたから、恥ずかしい……、ごまかそう!

「わたしは、べつに、落ち込んでないけど。なに言ってるの、シトリン」
「うそだ~。ダンスできないって、泣き言こぼしてたじゃん」
「……聞いてたの!?」
「聞いてたんじゃなくて、聞こえただけ」
「同じじゃん!」

 シトリンはおかしそうに笑ってる。……あーもう、悪魔って、みんないじわるだ!

 だけど突然、いいことを思いついた、って感じでシトリンが手を叩いた。

「ね、ダンスの練習、つきあってあげるよ。そっち行っても大丈夫かな?」

 大丈夫って……? あ、しーさん、「ぐるる」って、ちょっと毛を逆立ててる。シトリンを警戒してるのかも。わたしは、しーさんの首元をなでた。

「シトリンは怖くないから、安心して、しーさん」

 すると、しーさんはふすっと鼻息を吹かせて、草の上に「待て」の姿勢になった。

「おお~、すっかりなついてるね。すごいすごい。じゃ、はじめよっか」

 本当に練習を手伝ってくれるみたいだ。ありがたい、けど。

「身長差がロゼとちがうから、変な感じ」

 シトリンを女の子と思って踊るのは……ちょっと、無理だよ。ロゼはわたしより身長が低い。でもシトリンは、わたしより高い。違和感ありまくり。

「うーん。じゃあ、特別サービスしてあげようかな~」

 シトリンは、「任せて」と、きれいにウインクをしてみせた。つぎの瞬間、ぽんっと、白い煙が、彼の姿を隠す。これって、もしかして……?
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