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第2章 悪魔って意味わかんない!
(3)使用人、改め、執事です……⁉
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真っ白い壁、空に伸びるつんつんした塔。飛び交う「ごきげんよう」のあいさつ(これがお嬢さまたちのあいさつなんだって)。
「リリイ、自信もって。すごくかっこいいから、大丈夫よ! なにも問題ないわ」
「あー、はは……、ありがと」
ロゼがにこやかに言う横を、わたしは身を縮めて歩く。……執事服を着て。
そう、わたし、男の子の格好で学校に通うことになったんだ。『リリイならきっと男装が似合う、いけるわ!』ってロゼに押し切られちゃった。でもまあ……、仕方ないか。ロゼの使用人になるって、約束したんだし。ここはもう、やるしかない! 腹をくくらなきゃ!
(今日からわたしは、執事になる! 頑張れ、わたし……っ!)
一年生の教室には、当たり前だけど、知らない子ばかりいて緊張する。それになんだか、じろじろと見られているような気がするのは……、なんでだろう。まさか、男装がやっぱりおかしい……!?
「みなさん、ごきげんよう。席に座ってください」
がらりとドアを開けて、黒いスーツ姿の、きびきびした女のひとが入ってきた。わたしとロゼは、となり同士の席に座る。
「みなさんのクラス担任の、ソフィです。厳しく指導していきますから、どうぞよろしく」
教卓の前に立ったソフィ先生が、眼鏡のつるをくいっと上げた。宣言どおり、厳しそうな雰囲気だ。クラスみんなが、嫌そうな顔になるのがわかった。担任の先生って、やさしいひとがいいじゃん? それは人間も悪魔も同じみたい。
「さて、今年は人間の生徒が入学していますが、みなさん仲よくするように」
先生がそう言ったとたん、クラスみんなの目がわたしに向いた。
『あら。本当に人間だわ。女の子……よね? でも、かっこいいじゃない』
『ほんとう、すてきな子ね』
『えー、だけど、人間なんて。わたしたちの授業についてこられるのかしら』
物めずらしそうな、試すような、そんな目。この子たち、みんな悪魔なんだよね……、ちょっと怖い。
「はいはい、みなさん、前を見て。それとリリイさん、怖がる必要はありませんよ」
え?
「悪魔は友好的ですからね。ロゼさん、説明をお願いします」
先生に呼ばれたロゼが、「はい」と立ち上がる。みんなの目が、今度はロゼに向いた。
「悪魔が人間をいじめていたのは、むかしの話です。最近では魔界の法律も厳しくなり、人間に過度な害をなせば罰せられるようになりました。悪魔と人間がうまく共存していくためにも、このアルカナ学園は魔界ではなく人間界に設立されており――」
悪魔って、普段は魔界ってところに住んでるらしい。人間界とはべつの場所なんだって。で、むかしは人間と仲が悪かったけど、いまは悪魔も心を入れ替えたみたい。
(っていうことは、意外と悪魔とも仲よくなれるっぽい? それなら、安心――)
「まあ、大切なのは、『過度な害をなせば罰せられる』ってところですけどね」
ふいに、わたしの前に座っている女の子が、ふり向いてささやいてきた。鮮やかな金髪がクルクルと巻かれていて、つり目のぱっちりしたひとみは猫みたい。うわあ、ロゼに負けず劣らず、人形みたいでかわいい……!
だけど、その子は、楽しそうに口の端を持ち上げる。
「軽くいじめるくらいなら、罰せられませんわ」
「……え」
「悪魔はもともと、人間をいじめることが好きですもの。せいぜい、お気をつけになって」
くすくすっと、彼女はからかうような笑い声を上げた。
(も、もしかして……、この学校、いじめっ子ばっかりってこと?)
「リリイ、自信もって。すごくかっこいいから、大丈夫よ! なにも問題ないわ」
「あー、はは……、ありがと」
ロゼがにこやかに言う横を、わたしは身を縮めて歩く。……執事服を着て。
そう、わたし、男の子の格好で学校に通うことになったんだ。『リリイならきっと男装が似合う、いけるわ!』ってロゼに押し切られちゃった。でもまあ……、仕方ないか。ロゼの使用人になるって、約束したんだし。ここはもう、やるしかない! 腹をくくらなきゃ!
(今日からわたしは、執事になる! 頑張れ、わたし……っ!)
一年生の教室には、当たり前だけど、知らない子ばかりいて緊張する。それになんだか、じろじろと見られているような気がするのは……、なんでだろう。まさか、男装がやっぱりおかしい……!?
「みなさん、ごきげんよう。席に座ってください」
がらりとドアを開けて、黒いスーツ姿の、きびきびした女のひとが入ってきた。わたしとロゼは、となり同士の席に座る。
「みなさんのクラス担任の、ソフィです。厳しく指導していきますから、どうぞよろしく」
教卓の前に立ったソフィ先生が、眼鏡のつるをくいっと上げた。宣言どおり、厳しそうな雰囲気だ。クラスみんなが、嫌そうな顔になるのがわかった。担任の先生って、やさしいひとがいいじゃん? それは人間も悪魔も同じみたい。
「さて、今年は人間の生徒が入学していますが、みなさん仲よくするように」
先生がそう言ったとたん、クラスみんなの目がわたしに向いた。
『あら。本当に人間だわ。女の子……よね? でも、かっこいいじゃない』
『ほんとう、すてきな子ね』
『えー、だけど、人間なんて。わたしたちの授業についてこられるのかしら』
物めずらしそうな、試すような、そんな目。この子たち、みんな悪魔なんだよね……、ちょっと怖い。
「はいはい、みなさん、前を見て。それとリリイさん、怖がる必要はありませんよ」
え?
「悪魔は友好的ですからね。ロゼさん、説明をお願いします」
先生に呼ばれたロゼが、「はい」と立ち上がる。みんなの目が、今度はロゼに向いた。
「悪魔が人間をいじめていたのは、むかしの話です。最近では魔界の法律も厳しくなり、人間に過度な害をなせば罰せられるようになりました。悪魔と人間がうまく共存していくためにも、このアルカナ学園は魔界ではなく人間界に設立されており――」
悪魔って、普段は魔界ってところに住んでるらしい。人間界とはべつの場所なんだって。で、むかしは人間と仲が悪かったけど、いまは悪魔も心を入れ替えたみたい。
(っていうことは、意外と悪魔とも仲よくなれるっぽい? それなら、安心――)
「まあ、大切なのは、『過度な害をなせば罰せられる』ってところですけどね」
ふいに、わたしの前に座っている女の子が、ふり向いてささやいてきた。鮮やかな金髪がクルクルと巻かれていて、つり目のぱっちりしたひとみは猫みたい。うわあ、ロゼに負けず劣らず、人形みたいでかわいい……!
だけど、その子は、楽しそうに口の端を持ち上げる。
「軽くいじめるくらいなら、罰せられませんわ」
「……え」
「悪魔はもともと、人間をいじめることが好きですもの。せいぜい、お気をつけになって」
くすくすっと、彼女はからかうような笑い声を上げた。
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