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第2章 悪魔って意味わかんない!

(2)美少女で美少年2

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 ロゼは深く息を吸い込む。ぽんっとロゼのまわりに煙が生まれた。もわもわと、全身をおおって見えなくなる。そうして煙は、ゆっくりと晴れていき――。

「ほら、こんな感じだよ」

 聞こえたのは、さっきまでのロゼの声とはちがう。きれいだけど、すこし低い声だった。そして、そこに立っていたのは、

「『王子』じゃん……!?」

 黒猫を追いかけていた、あの男の子! 白い肌に、きれいな黒髪。澄んだ赤いひとみ。やっぱり、きれいな子だ――、でも。

(これってつまり、そういうことだよね……)

「……きみは、ロゼなの?」
「うん。そうだよ」

 男の子――ロゼは、あっさりうなずいた。

 う、うそでしょ……! そんなことある!? え、だってさっきまで女の子だったのに! たしかに髪とか、ひとみの色は同じだし、きれいな子っていうのも同じだけど!

「えええっ!? 兄妹じゃないの!?」
「ちがうよ。同一人物。どっちも『ロゼ』。ぼくは、男の姿のほうが速く走れるから、この姿で使い魔を追いかけていたんだ」

 まあ、結局逃げられたんだけど、とロゼ(男の子バージョン)はため息をつく。

「あ、ぼくが男になったのは、内緒にしてね。勝手に姿を変えると先生に怒られるんだ」
「へ、へー……、そうなんダー……」

 ちらっとロゼを盗み見た。どこからどう見ても、男の子。しかもアイドル級の美少年。でも、ロゼ、なんだよね? う、頭パンクしそう……。

「リリイ、大丈夫?」
「大丈夫じゃないけど、だいじょーぶ……」
「どっち?」

 くすっとロゼは笑った。か、かっこいいんだけど、この子……!

(い、いやいや、だけど相手はロゼ、女の子じゃん)

 いや、女の子、なのかな? いまは完ぺきな男の子だけど……。あー、混乱するよ!

「本当に大丈夫? まあ、性別なんて、ただの器のちがいでしかないからさ」

 目がぐるぐる回っているわたしを見て、ロゼは苦笑した。

「深く考えずに『ロゼ』って相手と話してるって思ったら、いいんじゃないかな?」
「ロゼと話す……。な、なるほど……? わかった、そういう風に考えてみるよ……」
「うん。とはいえ、学園の制度的に、男女の区別は必要なんだけど」
「制度?」
「そういえば、リリイにはまだ説明してなかったっけ」

 ロゼは思い出したように手を叩いた。

「えっと、この学園では、一年生はお嬢さまと執事、二年生はお坊ちゃまとメイド、三年生は好きな性別を選んで通うんだ」

 そ、そんな制度が……。

「だから、リリイには執事になってもらわないと困るんだけど……、無理なの?」
「無理だよ! そういう大切な話は先にしておいてくれないと困るって!」
「んー、そっか……。想定外だな。人間って性別を変えられなかったんだ……」

 ロゼが眉を寄せて、「困ったなあ」とわたしを見た。

「……いや、でもリリイならいける気がする。ちょっと顔見せて」

 ふいに、ロゼがわたしの頬を手ではさんで、顔を近づけてきた。って、えええっ!? ち、近い……! つい、ぼぼぼっと、わたしの顔が熱くなる。

「あれ、リリイ、顔赤いね。どうしたの? ……あ、もしかして」

 不思議そうに首をかしげていたロゼのくちびるが、すっと三日月の形をつくった。

「照れた?」
「て、照れてない!」
「へー、照れてるんだ。リリイ、かっこいいのに、かわいいね」

 いたずらっぽい笑顔のロゼに、わたしの顔はもっと熱くなる。

(か、かわいい、とか、はじめて言われた……っ!)

 ほ、ほんとに? わたし、かわいいの……? ていうか、はずかしい! あー、もう、大混乱だよ!

「さて、入学式がはじまるし、いつまでもこうしているわけにはいかないね」

 ぽんっと、ロゼが煙に包まれる。

「仕方ないわ。リリイ、覚悟を決めてちょうだい。リリイならいけるから」

 一瞬で、女の子の姿にもどっていた。声も口調も、いつものロゼだ。ほんとに気軽な感じで性別を変えられちゃうんだね……。悪魔って、すごい。

「ていうか、いけるって、なにが……?」
「それはもちろん、決まってるでしょ?」

 ロゼはにっこりと花がほころぶような笑顔を浮かべた。あ、なんか、いやな予感……。
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