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第4章 物語と、ひとつの色(上)
(3)進む道
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ちょいちょいと手招きをされた。なんだろう……、彩乃が楽しそうだから、悪いことではないと思うけど。とにかく、呼ばれているのだから彩乃につづいて一階におりた。一色から逃げられるのも好都合だ。そそくさと退散させていただく。
レジ横に、段ボール箱が置かれていた。お雪さんも待ち構えている。段ボール、ということは。
「新刊の棚だし手伝ってってこと?」
目星をつけて言ってみたけれど、彩乃は首をふった。
「ううん。これは本じゃありません。実は……、じゃじゃーん! これを見よ!」
ぱかっと段ボールを開かれる。中を見るなり、絵莉も「あっ」と声を上げる。
「ブックカバー! もう届いたんだ!」
「そ。デザインお疲れさまでした、絵莉」
わあっと目を輝かせて、ブックカバーを受け取った。落ち着いた色合いに、ワンポイントでイラストが飾られた、兎ノ書房オリジナルグッズだ。絵莉が一から手がけたグッズ。デザインは何度も見たものだけど、実際手にすると胸がドキドキするのを止められない。
――これが、わたしの……!
「いやー、絵莉も印刷所も仕事が早いね。さくさく進んじゃった」
彩乃が満足そうにうなずき、ブックカバーを照明にかざした。レトロな色味が、兎ノ書房の店内になじんでいる。我ながらいいセンスだ、と胸を張りたくなった。
「さっそくネット通販のページつくらないと。あとSNSで宣伝も。店にも並べるから、スペース確保しなきゃだし。あー、やだやだ、忙しい!」
言葉とは裏腹に、彩乃は心から楽しそうだった。ポニーテールがゆらゆら揺れて、瞳は明るい色に満ちている。そんな彼女を見ていると、デザインした身としてうれしさもひとしおだ。
「いい出来ですね、絵莉さん」
「うん。よかった、きれいにできて。あとは売れるかどうかだけど……」
「売れますよ」
お雪さんは力強く言い切った。
「ありがとう」
もふもふの背をなでてやる。お雪さんがそう言うなら、きっと大丈夫だろうと自信がわいてくる。
「さっすが絵莉だよね。商品説明のPOPに、うちの絵莉先生がデザインしました、って書いちゃお」
「え、やめてよ、恥ずかしい!」
「なんでよ。名前が知れ渡れば、お絵かき講座するとき、申し込み者増えるかもよ?」
「いや、しないからね、お絵かき講座」
彩乃が口をとがらせる。
「もー、せっかく絵莉の財布があたたかくなるようにしようと思ったのに。受講代もらえたら、多少は足しになるでしょ」
「うっ、それは……、そうなんだけど……」
正社員時代に貯めたお金はまだある。けれど、いまの生活では貯金がなくなる一方だ。兎ノ書房の手伝いをしているとはいえ、ボランティア程度だし。そういえば昨日、通帳を眺めてため息をついているところを、彩乃に見られたのだった。
そろそろ、身の振り方を考えなければいけないのかもしれない。
「楽しかったなあ。デザインするの」
絵莉の声は、鼻歌まじりに店内の売り場をつくりにいった彩乃には聞こえていないだろう。となりにいるお雪さんが、耳をぴくりと立てた。
ブックカバーを手に取る。自分の子どもみたいなものだ。笑みがこぼれる。
「やっぱり好きだな、絵を描くことが」
絵を描きたい。その思いは、たしかなものだった。
「絵莉さんの道ですから。納得いくまで、お考えなさい」
やさしい美声を響かせるお雪さんに、絵莉は「うん」とうなずいた。
レジ横に、段ボール箱が置かれていた。お雪さんも待ち構えている。段ボール、ということは。
「新刊の棚だし手伝ってってこと?」
目星をつけて言ってみたけれど、彩乃は首をふった。
「ううん。これは本じゃありません。実は……、じゃじゃーん! これを見よ!」
ぱかっと段ボールを開かれる。中を見るなり、絵莉も「あっ」と声を上げる。
「ブックカバー! もう届いたんだ!」
「そ。デザインお疲れさまでした、絵莉」
わあっと目を輝かせて、ブックカバーを受け取った。落ち着いた色合いに、ワンポイントでイラストが飾られた、兎ノ書房オリジナルグッズだ。絵莉が一から手がけたグッズ。デザインは何度も見たものだけど、実際手にすると胸がドキドキするのを止められない。
――これが、わたしの……!
「いやー、絵莉も印刷所も仕事が早いね。さくさく進んじゃった」
彩乃が満足そうにうなずき、ブックカバーを照明にかざした。レトロな色味が、兎ノ書房の店内になじんでいる。我ながらいいセンスだ、と胸を張りたくなった。
「さっそくネット通販のページつくらないと。あとSNSで宣伝も。店にも並べるから、スペース確保しなきゃだし。あー、やだやだ、忙しい!」
言葉とは裏腹に、彩乃は心から楽しそうだった。ポニーテールがゆらゆら揺れて、瞳は明るい色に満ちている。そんな彼女を見ていると、デザインした身としてうれしさもひとしおだ。
「いい出来ですね、絵莉さん」
「うん。よかった、きれいにできて。あとは売れるかどうかだけど……」
「売れますよ」
お雪さんは力強く言い切った。
「ありがとう」
もふもふの背をなでてやる。お雪さんがそう言うなら、きっと大丈夫だろうと自信がわいてくる。
「さっすが絵莉だよね。商品説明のPOPに、うちの絵莉先生がデザインしました、って書いちゃお」
「え、やめてよ、恥ずかしい!」
「なんでよ。名前が知れ渡れば、お絵かき講座するとき、申し込み者増えるかもよ?」
「いや、しないからね、お絵かき講座」
彩乃が口をとがらせる。
「もー、せっかく絵莉の財布があたたかくなるようにしようと思ったのに。受講代もらえたら、多少は足しになるでしょ」
「うっ、それは……、そうなんだけど……」
正社員時代に貯めたお金はまだある。けれど、いまの生活では貯金がなくなる一方だ。兎ノ書房の手伝いをしているとはいえ、ボランティア程度だし。そういえば昨日、通帳を眺めてため息をついているところを、彩乃に見られたのだった。
そろそろ、身の振り方を考えなければいけないのかもしれない。
「楽しかったなあ。デザインするの」
絵莉の声は、鼻歌まじりに店内の売り場をつくりにいった彩乃には聞こえていないだろう。となりにいるお雪さんが、耳をぴくりと立てた。
ブックカバーを手に取る。自分の子どもみたいなものだ。笑みがこぼれる。
「やっぱり好きだな、絵を描くことが」
絵を描きたい。その思いは、たしかなものだった。
「絵莉さんの道ですから。納得いくまで、お考えなさい」
やさしい美声を響かせるお雪さんに、絵莉は「うん」とうなずいた。
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