執愛の誓い

皇 英利

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終章 愛し愛されて

(一)

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アベルが購入したという屋敷は、たしかにグランジェ子爵家の屋敷に比べれば小さいが、それでも十分立派な邸宅だった。

高級住宅地にあるため辺りは静かで治安もいい。庭園は広々としていて、屋敷の外観も美しかった。とても住みやすそうで、フィアンは馬車の中から一目見ただけで気に入った。けれど二人きりで暮らすには広すぎるため、アベルはあとで使用人か家政婦を雇うつもりなのだろうか。もちろんフィアンは毎日の家事を頑張るつもりだが、一人では限界がある。

屋敷に到着し、フィアンが馬車を降りるなり、アベルは彼女を横抱きに持ち上げた。いきなりのことに驚くフィアンを気にするでもなく、彼は一直線に寝室へと足を運ぶ。

まだ日が高いうちからまさかとは思うが、アベルの行動の意味するところがそれ以外に思い浮かばず、フィアンは焦った。

「ちょ、ちょっとアベル、到着早々なにをするつもりなの?」

「なにって、寝室で夫婦が一緒にすることといえばひとつしかないでしょう」

「……まだ正式な夫婦ではないし、日も高いわ……」

「なにを今さら。僕たちはすでに一度結ばれた身でしょう。それに、馬車に乗る前に僕を煽ったのは貴女ですよ」

もしかして、『愛してる』と言ってアベルの頬に口づけたことを言っているのだろうか。

「あ、あれはそんなつもりじゃ……っ」

「貴女がどういうつもりであろうと、僕はもう我慢の限界です」

ふわりと真新しい寝台に降ろされ、すぐにアベルが覆い被さってくる。

嫌なわけではないが、明るいからやっぱり恥ずかしい。

「なにも今すぐしなくても、これからは毎日一緒に暮らすのに……」

だからせめて夜まで待って欲しい、というフィアンの言葉は、アベルの口づけによって掻き消された。

すぐに唇を離したアベルは、劣情を灯した眼差しでフィアンを見下ろす。

「初めて身体を重ねたときから、またすぐに貴女と繋がりたくてしかたがなかった……っ。あれからずっと貴女を襲いたい衝動を必死に抑え込んできたんです、自分を誉めてやりたいくらいだ。やっと手に入れられたんです、これ以上我慢なんてできない」

フィアンがアベルの情熱に気圧されているうちに、彼は次々とフィアンの衣服を剥ぎ取っていく。

抵抗する間もなく、あっという間に生まれたままの姿にされてしまった。

恥ずかしくて両手で自分の身体を隠そうとするが、もちろんアベルがそれを許さない。両腕を捕らえられ、寝台に縫い止められてしまう。

「あぁ……やっぱり、何度見ても綺麗だ……」

うっとりと感嘆のため息を吐いたあと、アベルは自身の上半身の服も一気に脱ぎ捨てた。

『血の汗を流しながら努力を積み重ねた』という言葉に違わず、アベルの身体は逞しかった。

鍛えられた胸板や腹筋、腕にフィアンは思わず釘付けになる。

アベルはフィアンのしなやかな首筋にキスを落とし、甘く妖艶にささやいた。

「もちろん今だけでなく、これからは毎日貴女を抱きますよ」

「ま、毎日……!?」

「ええ。昼といわず夜といわず、たっぷり貴女を愛して差し上げます。ですから──覚悟してくださいね」

色気を纏ったアベルの声に耳がとろけそうになる。

恐ろしいことを言われている気がするのに、なぜか胸の奥がきゅんとした。

(ああ……私は本当に、アベルのことを心から愛してしまっているんだわ。……もう決して引き返せないほどに、アベルの檻に囚われてしまっている)

なぜだろう、そのことがたまらなく嬉しい。

恋とは不思議なものだ。

けれど相手のことが好きになればなるほど、甘く騒ぐ心とは裏腹に、不安になることもある。

「……ねえアベル、本当に私でいいの?」

「どういうことです?」

「私って貴方より年上だし、……普通は年下の可愛い女の子のほうがいいんじゃないの?」

不安そうに訊けば、アベルはなんだそんなことかと憮然としてフィアンを見つめた。

「年齢なんて関係ありません。僕は貴女のことが好きなのですから。僕にとっては貴女が世界で一番可愛いですよ。籠の中に閉じ込めて、一生外に出したくなくなるくらい」

「アベル……」

「それとも貴女は、年下で子供っぽい僕なんて嫌ですか? 年上で、もっと頼りがいのある男のほうが好きですか? 醜い赤毛の僕なんて……」

「そんなことないわ! 私にとっては世界中の誰よりもアベルが一番よ! アベルじゃなきゃ嫌!」

思わずアベルの言葉を遮って叫んでしまってから、顔面がカーっと熱くなる。

くすりとアベルに笑われてしまい、余計にフィアンは消えたくなった。

「そういうことです」

アベルがフィアンの胸の膨らみに優しく触れる。

「あっ……!」

たったそれだけでフィアンの身体は反応し、腰が浮いてしまう。

「前に抱いたときも思いましたが、義姉上は感じやすいですよね」

「言わないで……。それと、義姉上って呼ぶのももうやめて」

両胸を弄られ羞恥心に乱されながら言えば、アベルは嬉しそうに微笑んだ。

「そうですね。……フィアン」

ただ名前を呼ばれただけでフィアンの心は甘くときめく。それに反応するように下腹部が痺れ、秘所が潤んだのが自分でもわかった。

主張し始めた頂を何度もさすられ、フィアンは嬌声を噛み殺す。

「声を聞かせてください。貴女の、可愛い声を……」

恥ずかしくて首をふるふると横に振ると、アベルは頂を口に含んだ。思いきり吸われながら舌で強く刺激され、堪えられずフィアンの口が開く。

「あぁっ……! ん……っ」

アベルの手が身体のラインをなぞるようにゆっくりと下へ降りていき、淡い茂みに隠された場所へと到達する。

「……もう濡れてる」

指で蜜を掬い全体に塗りつけるように擦られると、たまらない快感が全身に広がった。

「ふ……ああぁ……っ」

いやらしい水音がするなか、ときどき陰核にも刺激を与えられ、そのたびに短い嬌声が上がってしまう。

ぷっくりと立ち上がった女芯をクルクルと撫でられ、ガクガクと身体を震わせるフィアンの白い胸元に、アベルが唇で触れる。その途端、そこにちりっとした痛みがわずかに走った。続いて鎖骨、首筋、肩と唇をずらしながら同じようにしていく。その間もアベルはフィアンの秘所を愛でる手は休めない。

フィアンの肌から唇を離したアベルが、自らがつけた口づけの痕を眺め、陶然と目を細めた。

「ああ……貴女の象牙のような白い肌には、やっぱり赤い花が似合いますね」

満足そうにつぶやいたあと、アベルは蜜の滴るフィアンの秘裂を指で下から上に大きくこすり上げた。何度も指を往復させ、鮮烈な快感を与え続ける。とめどなく溢れてくる蜜が、アベルのその動きを手助けする。

指を中に入れられたわけでもないのに、フィアンはあっけなく昇り詰めてしまった。

陸に上がった魚のように全身を波打たせ、荒い息を繰り返す。

「はあっ……はあ……、ふ……」

「もうイッてしまわれたのですか? まだ軽く触っただけなのに。本当に貴女は感度がいいのですね。ついこの間まで処女だったとは、とても思えないくらいだ」

なんだか今日のアベルは意地悪だ。フィアンの羞恥を煽るようなことばかり言って攻めてくる。

フィアンはなんだか仕返しがしたくなり、絶頂の余韻に震える身体を半分起こす。そしてアベルの下衣に手を伸ばした。

「……?」

なにをしているのかと、アベルは不思議そうにフィアンを見つめている。

フィアンはアベルの下衣の前をくつろげ、固くそそり立ったものを取り出した。

「っ……」

アベルの身体が一瞬ぴくりと揺れる。

この前は初めてだったということもありアベルに翻弄されるばかりでよく見ていなかったが、力をみなぎらせた男の象徴は、きれいに整った顔のアベルには似合わない凶悪な形をしていた。

けれどフィアンは怯むどころか、それに魅入られてしまう。

どんな形でも、それがアベルの身体の一部なら愛おしさしか感じなかった。

四つん這いになって竿の部分を両手で包み込み、切っ先を口に咥える。

「フィ、フィアン……!?」

フィアンの突然の意趣返しにアベルが狼狽する。

意表をつけたことで勝ち誇った気分になったフィアンは、熱棒をさらに奥に咥えこみ、そっと舌を這わせた。

「くっ……」

アベルがぶるっと背中を震わせ、なにかに堪えるようにぎゅっときつく眉根を寄せた。今まで余裕そうだった彼の息が上がり、わずかに頬を赤らめている。

その表情を見ていると、フィアンの胸に喜びのようなものが広がった。

(アベルも、私に触れられると気持ちいいのかしら)

もっと自分の愛撫で感じて欲しくて、やり方がわからないながらも必死にアベルの分身を愛する。

指戯も加えながら、舌を何度も前後に動かした。

しだいにアベルの余裕がなくなってくる。

「は……っ、フィアン……もう、離してください」

アベルがフィアンの頭を掴み離させようとするけれど、フィアンはアベルのものをまだ離したくなくて、奉仕を続ける。

「っ……本当に、もう無理です……っ。──あぁっ、そんなに強く吸ったら……! でる……ッ!」

アベルが背中を丸め、無意識にフィアンの頭を自身に押し付けた。

瞬間、フィアンの口の中のものがいっそう大きく膨らみ、勢いよく爆ぜた。

「っ!」

喉の奥に大量の白濁が流れ込む。びっくりしてすべてを上手く嚥下することができず、むせてしまう。

アベルは絶頂に身体を震わせていたが、フィアンがごほごほと咳き込んでいると、背中を労るように何度もさすってくれた。
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