29 / 54
29.テスト最終日、そして学校祭が始まる
しおりを挟む
キーンコーンカーンコーン
「よっしゃー!テスト終わったー!」
金曜四時間目。全てのテストの終了を告げるチャイムの音が鳴り響くと、途端に学校は賑やかになった。
昼休みをはさんですぐに学校祭作業解禁集会が開かれる。
「レディースアンドジェントルメン、お待たせしました!ただいまより、学校祭準備期間の開幕だー!」
体育館の壇上にたった学校祭作業解禁集会の司会者がマイクに向かって陽気に叫ぶ。
全校生徒の「イエーイ!」という声が怒号のように鳴り響く。
去年の集会では琴乃と一緒にチームカラーのタオルを振り回しながら一緒に叫んでいたけど、今回は騒いでいるみんなを一人で傍観していた。
「それではーっ、みんな大好き学校祭実行委員長、高杉君のお話しで―す!」
「たーかっすぎ!、たーかっすぎ!」
テンションの上がりきった男子たちが委員長登場に合わせてコールする。
「みなさん、待ちに待った学校祭シーズンがやってきました。クラスの仲間と絆を深め、この一大行事を成功させましょう!」
委員長も丁寧な言葉遣いを選んではいるが、その口調は爛々としたものだった。
集会が終わると部活動のない生徒は早速作業場に集まって、各クラスで作業が進められる。
私も三年七組の作業場に集まっていた。
「まず、脚本・監督の室井光咲さんと演者のチームは台本の作成に取り掛かってください。と、言ってもテスト期間前に結木さんと岡本君が大体のものを考えてくれたので、簡単な確認だけで済むと思います。今日は岡本君が部活動でいないので演技練習はなしにします。終わったら、大道具チームに合流してください」
岡本君が不在なので今回は女子の方のクラス委員の河野さんが仕切っている。
「次に、大道具チーム。今日からの三日間は馬車とお城のシャンデリアを作ってください。ペンキと段ボールは作業
場の左隅に置いてあるものを使ってください。どちらも細かい装飾があるので丁寧にやるように。BGMや照明などの裏方チームも加わってください」
私は大道具チームのみんなと一緒に作業場に移動した。
「次に小道具チームは……」
後ろの方で割り振りを続けている河野さんの声が小さくなっていく。
「一緒にペンキ塗りにいこー」
「えー、やだー。ペンキ汚れるじゃん。段ボールに折り紙張り付けようよー」
仲のいい子同士が仲良く並んで作業を始める。
「私もそれやろうかな」
ぼーっと突っ立ってるわけにもいかないので声をかけたが、女子たちは顔を引きつらせて
「あ……、うん」
と答えるとそそくさと別の作業工程に移った。
私と一緒に居たくないんだ。
私は彼女たちがほったらかしにしていったハサミやらテープやらを拾うと貼りかけの折り紙を丁寧に段ボールに張りつけ始めた。
「すげー!めっちゃ回る!」
「おい、これぶら下げようぜ!きっとよく乾くぜ」
「やめろ、俺の靴下だろ。返せ!」
少し遠くではシャンデリアの骨組みを作っている男子たちが悪ふざけをしていた。
友達同士でわいわいと楽しそうに作業するみんなの中で、私は独りぼっちだった。
手が空いた時には「手伝うよ」といって作業中の集団に声をかけてみたりもしたのだが、みんな気まずそうに一旦私を受け入れ、しばらく経つとその場を離れて行ってしまう。
遠回しについてこないでね、という意味を含めた「あと、よろしくね」というメッセージを残して。
寂しかった。悔しかった。情けなかった。
作業に没頭して騙し騙しに気を紛らわせながら孤独に耐えた。
「やっほー、助っ人にきたよー」
「え、早っ!もう台本終わったの⁉」
俯いて作業をしていたら光咲や彩夏のや笑美の声が聞こえてきた。顔をあげてみるともちろん、琴乃も一緒だった。
「うちの琴乃ちゃんは優秀なので」
「光咲のもんじゃないでしょ」
笑いが起こる。
「テスト前に岡本と二人でレンタルショップ回ったんだってー」
「えーっ、もうラブラブじゃん」
女子たちの間から黄色い声が聞こえる。
「しっ。ちょっと、桜に聞こえるでしょ。また、お門違いな嫉妬されたら困るよ。あっち行こ」
彩夏が私のことをチラッと横目で見てから一緒に話していた女子に目配せした。「しっ」と言っている割には明らかに私に聞こえる声量で話している。
私の周りは少し、静かになった。
泣くものか。
悔しい思いをぐっと拳で握り殺して、気を逸らせようと作業場の床を凝視する。
私は誰かが使いっぱなしにしているペンキを発見した。
このまま放っておくと筆先が固まってしまって使い物にならなくなる。洗っておこう。
作業場を出て、ペンキ類の洗い場に指定された水道へと向かった。
水道は少し混んでいて、ちょっとした行列が出来ていた。
待ち時間に周りの様子をうかがっていたら、琴乃たちがベンチで仲良くお菓子を食べているのが目に入った。
私がいつも腰掛けているベンチだ。
水道は運動場に近かった。左少し遠くを見れば学校祭とは関係なしに走り回っている運動部員たちがいる。
私は目を左右にせわしなく動かしてからため息をつく。
運動場の主役はこんな遠くからでは見つからなかった。
順番が来たので、筆にこびりついているしつこい汚れを丁寧に落としてすぐに作業場に戻る。
俯いて筆を洗っていた時、少し涙がこぼれた。
「よっしゃー!テスト終わったー!」
金曜四時間目。全てのテストの終了を告げるチャイムの音が鳴り響くと、途端に学校は賑やかになった。
昼休みをはさんですぐに学校祭作業解禁集会が開かれる。
「レディースアンドジェントルメン、お待たせしました!ただいまより、学校祭準備期間の開幕だー!」
体育館の壇上にたった学校祭作業解禁集会の司会者がマイクに向かって陽気に叫ぶ。
全校生徒の「イエーイ!」という声が怒号のように鳴り響く。
去年の集会では琴乃と一緒にチームカラーのタオルを振り回しながら一緒に叫んでいたけど、今回は騒いでいるみんなを一人で傍観していた。
「それではーっ、みんな大好き学校祭実行委員長、高杉君のお話しで―す!」
「たーかっすぎ!、たーかっすぎ!」
テンションの上がりきった男子たちが委員長登場に合わせてコールする。
「みなさん、待ちに待った学校祭シーズンがやってきました。クラスの仲間と絆を深め、この一大行事を成功させましょう!」
委員長も丁寧な言葉遣いを選んではいるが、その口調は爛々としたものだった。
集会が終わると部活動のない生徒は早速作業場に集まって、各クラスで作業が進められる。
私も三年七組の作業場に集まっていた。
「まず、脚本・監督の室井光咲さんと演者のチームは台本の作成に取り掛かってください。と、言ってもテスト期間前に結木さんと岡本君が大体のものを考えてくれたので、簡単な確認だけで済むと思います。今日は岡本君が部活動でいないので演技練習はなしにします。終わったら、大道具チームに合流してください」
岡本君が不在なので今回は女子の方のクラス委員の河野さんが仕切っている。
「次に、大道具チーム。今日からの三日間は馬車とお城のシャンデリアを作ってください。ペンキと段ボールは作業
場の左隅に置いてあるものを使ってください。どちらも細かい装飾があるので丁寧にやるように。BGMや照明などの裏方チームも加わってください」
私は大道具チームのみんなと一緒に作業場に移動した。
「次に小道具チームは……」
後ろの方で割り振りを続けている河野さんの声が小さくなっていく。
「一緒にペンキ塗りにいこー」
「えー、やだー。ペンキ汚れるじゃん。段ボールに折り紙張り付けようよー」
仲のいい子同士が仲良く並んで作業を始める。
「私もそれやろうかな」
ぼーっと突っ立ってるわけにもいかないので声をかけたが、女子たちは顔を引きつらせて
「あ……、うん」
と答えるとそそくさと別の作業工程に移った。
私と一緒に居たくないんだ。
私は彼女たちがほったらかしにしていったハサミやらテープやらを拾うと貼りかけの折り紙を丁寧に段ボールに張りつけ始めた。
「すげー!めっちゃ回る!」
「おい、これぶら下げようぜ!きっとよく乾くぜ」
「やめろ、俺の靴下だろ。返せ!」
少し遠くではシャンデリアの骨組みを作っている男子たちが悪ふざけをしていた。
友達同士でわいわいと楽しそうに作業するみんなの中で、私は独りぼっちだった。
手が空いた時には「手伝うよ」といって作業中の集団に声をかけてみたりもしたのだが、みんな気まずそうに一旦私を受け入れ、しばらく経つとその場を離れて行ってしまう。
遠回しについてこないでね、という意味を含めた「あと、よろしくね」というメッセージを残して。
寂しかった。悔しかった。情けなかった。
作業に没頭して騙し騙しに気を紛らわせながら孤独に耐えた。
「やっほー、助っ人にきたよー」
「え、早っ!もう台本終わったの⁉」
俯いて作業をしていたら光咲や彩夏のや笑美の声が聞こえてきた。顔をあげてみるともちろん、琴乃も一緒だった。
「うちの琴乃ちゃんは優秀なので」
「光咲のもんじゃないでしょ」
笑いが起こる。
「テスト前に岡本と二人でレンタルショップ回ったんだってー」
「えーっ、もうラブラブじゃん」
女子たちの間から黄色い声が聞こえる。
「しっ。ちょっと、桜に聞こえるでしょ。また、お門違いな嫉妬されたら困るよ。あっち行こ」
彩夏が私のことをチラッと横目で見てから一緒に話していた女子に目配せした。「しっ」と言っている割には明らかに私に聞こえる声量で話している。
私の周りは少し、静かになった。
泣くものか。
悔しい思いをぐっと拳で握り殺して、気を逸らせようと作業場の床を凝視する。
私は誰かが使いっぱなしにしているペンキを発見した。
このまま放っておくと筆先が固まってしまって使い物にならなくなる。洗っておこう。
作業場を出て、ペンキ類の洗い場に指定された水道へと向かった。
水道は少し混んでいて、ちょっとした行列が出来ていた。
待ち時間に周りの様子をうかがっていたら、琴乃たちがベンチで仲良くお菓子を食べているのが目に入った。
私がいつも腰掛けているベンチだ。
水道は運動場に近かった。左少し遠くを見れば学校祭とは関係なしに走り回っている運動部員たちがいる。
私は目を左右にせわしなく動かしてからため息をつく。
運動場の主役はこんな遠くからでは見つからなかった。
順番が来たので、筆にこびりついているしつこい汚れを丁寧に落としてすぐに作業場に戻る。
俯いて筆を洗っていた時、少し涙がこぼれた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。
ねんごろ
恋愛
主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。
その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……
毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。
※他サイトで連載していた作品です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる