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スティックがない! 破滅に向かう王国
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婚約者ジリーナとともに王宮に戻った王太子アステールは、王国宰相のリシュルールを呼びつけて、最新情報を報告させた。
「リシュルール、情勢はどうなっておるのだ?」
「王太子殿下、申し訳もございません。実は王国内各地で、魔族軍の攻勢が始まっており、わが王国軍は苦戦を強いられております」
「なんだと! リシュルール、この情けないありさまは何事だ!」
アステールは激怒し、宰相を叱りつけた。老獪な老宰相は、王太子の怒りを静めるために、謝罪から切り出した。
「はい、誠にこのふがいない戦況、すべてわたくしの責任でございます。ただ……」
「ただ……」
「ただ、どうした?」
宰相は一旦口ごもった。が意を決したかのように王太子に告げた。
「やはり、リリアン様の不在が大きいかと思われます」
「うーむ、リリアンか」
王太子は苦虫を噛んだような表情になった。リリアンは聖女として、変身魔法を使って、魔族の侵攻を退けていただけではない。辺境の都市まで遠征して、兵たちに、魔族との戦いかたを指南したり、作戦を立案したり、その影響力は計り知れなかった。
彼女一人で、兵数万にも匹敵する力を持っていたと言ってもよい。もちろん、アステールとて、それを知らないわけではなかった。だが、いくらなんでも、シュペール軍がここまで弱いとは。
だが、追い詰められたはずのアステールはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「待て、まだ策はある。リシュルール、例の計画を発動するぞ」
「ジリーナ、君もきてくれ」
王太子アステールの前に、呼びつけられた3人の女性が並んでいる。一人は婚約者のジリーナ、あとの2人は、まだ10歳をわずかに超えただけの、幼さの残る貴族階級の娘たちだった。アステールが話し始めた。
「今、わが王国は魔族の侵攻を受け、これまで類例のない大きな危機を迎えている。君たちに来てもらったのは、他でもない。魔族への反撃のためだ」
「我が軍が苦戦している大きな理由の一つが聖女の不在だ。わけあって我が王国には今聖女が不在だ。君たち三人には聖女たる素質が秘められていることがわかっている。
ぜひ変身魔法を使って我が国を守ってもらいたい」
聖女だったリリアンの代わりに、この聖女候補3人を急場しのぎの聖女に仕立てあげ、魔族と戦わせようというのだ。
あまりにも突然で重大な通告に、幼い2人は顔を見合わせて不安そうな表情を浮かべた。年長のジリーナは、食ってかかった。
「お待ちください王太子殿下。わたしに聖女としての素質があるとは知りませんでした。しかし、わたしはリリアンと違い、魔法戦士として戦う訓練など受けておりません。わたしに魔獣と戦えなど、無理を申されないでください。お断りします」
だが、王太子は、このような抗議を受け付けるつもりはなかった。婚約者といえど、利用できるものには容赦はない。
「何を言うのだジリーナ。魔獣を倒す力を持つのは、やはり聖女だ。訓練不足は確かだが、我が軍がバックアップする。逃げるのは許さんぞ。それにこの事態になったのは、君の責任もあるだろう」
邪魔になったリリアンを処刑するように献策したのは、他ならぬジリーナだった。しぶしぶながら、侯爵令嬢は他の2人ともども、魔法戦士として戦うことを約束させられてしまった。
王宮の奥から、大金庫を運ばせた。この中にリリアンから取り上げたものも含めて、魔法スティックが3本入っているはずだ。
「よし、開けろ」
アステールの命で、大金庫の扉が開けられた。
「リシュルール、スティックを取り出せ」
だが、金庫の中を覗き込んだ宰相の顔は青ざめていた。
「殿下、何も入っておりません」
「なんだと!」
王太子アステールは、自ら金庫の中を改めた。やはり3本あるはずの魔法スティックは1本もなかった。
「莫迦な! なぜないのだ!」
まさか神が持ち去ったとは知らないアステールだった。いくら憤っても返ってはこなかった。王国の運命を握る魔法スティックは失われたのだった。
更に、伝令から更なる凶報が伝えられた。
「王国第2の都市、キエルフベルクが陥落いたしました。そこから王都までは指呼の距離でございます」
宰相がアステールに進言した。
「王太子殿下、このままでは守りきれませぬ。ここは、一旦王都をお立ち退きなさいませ」
「うぬぬ。王都を放棄せよというのか」
聖女のいないシュペール王国に危機が迫っていた。
「リシュルール、情勢はどうなっておるのだ?」
「王太子殿下、申し訳もございません。実は王国内各地で、魔族軍の攻勢が始まっており、わが王国軍は苦戦を強いられております」
「なんだと! リシュルール、この情けないありさまは何事だ!」
アステールは激怒し、宰相を叱りつけた。老獪な老宰相は、王太子の怒りを静めるために、謝罪から切り出した。
「はい、誠にこのふがいない戦況、すべてわたくしの責任でございます。ただ……」
「ただ……」
「ただ、どうした?」
宰相は一旦口ごもった。が意を決したかのように王太子に告げた。
「やはり、リリアン様の不在が大きいかと思われます」
「うーむ、リリアンか」
王太子は苦虫を噛んだような表情になった。リリアンは聖女として、変身魔法を使って、魔族の侵攻を退けていただけではない。辺境の都市まで遠征して、兵たちに、魔族との戦いかたを指南したり、作戦を立案したり、その影響力は計り知れなかった。
彼女一人で、兵数万にも匹敵する力を持っていたと言ってもよい。もちろん、アステールとて、それを知らないわけではなかった。だが、いくらなんでも、シュペール軍がここまで弱いとは。
だが、追い詰められたはずのアステールはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「待て、まだ策はある。リシュルール、例の計画を発動するぞ」
「ジリーナ、君もきてくれ」
王太子アステールの前に、呼びつけられた3人の女性が並んでいる。一人は婚約者のジリーナ、あとの2人は、まだ10歳をわずかに超えただけの、幼さの残る貴族階級の娘たちだった。アステールが話し始めた。
「今、わが王国は魔族の侵攻を受け、これまで類例のない大きな危機を迎えている。君たちに来てもらったのは、他でもない。魔族への反撃のためだ」
「我が軍が苦戦している大きな理由の一つが聖女の不在だ。わけあって我が王国には今聖女が不在だ。君たち三人には聖女たる素質が秘められていることがわかっている。
ぜひ変身魔法を使って我が国を守ってもらいたい」
聖女だったリリアンの代わりに、この聖女候補3人を急場しのぎの聖女に仕立てあげ、魔族と戦わせようというのだ。
あまりにも突然で重大な通告に、幼い2人は顔を見合わせて不安そうな表情を浮かべた。年長のジリーナは、食ってかかった。
「お待ちください王太子殿下。わたしに聖女としての素質があるとは知りませんでした。しかし、わたしはリリアンと違い、魔法戦士として戦う訓練など受けておりません。わたしに魔獣と戦えなど、無理を申されないでください。お断りします」
だが、王太子は、このような抗議を受け付けるつもりはなかった。婚約者といえど、利用できるものには容赦はない。
「何を言うのだジリーナ。魔獣を倒す力を持つのは、やはり聖女だ。訓練不足は確かだが、我が軍がバックアップする。逃げるのは許さんぞ。それにこの事態になったのは、君の責任もあるだろう」
邪魔になったリリアンを処刑するように献策したのは、他ならぬジリーナだった。しぶしぶながら、侯爵令嬢は他の2人ともども、魔法戦士として戦うことを約束させられてしまった。
王宮の奥から、大金庫を運ばせた。この中にリリアンから取り上げたものも含めて、魔法スティックが3本入っているはずだ。
「よし、開けろ」
アステールの命で、大金庫の扉が開けられた。
「リシュルール、スティックを取り出せ」
だが、金庫の中を覗き込んだ宰相の顔は青ざめていた。
「殿下、何も入っておりません」
「なんだと!」
王太子アステールは、自ら金庫の中を改めた。やはり3本あるはずの魔法スティックは1本もなかった。
「莫迦な! なぜないのだ!」
まさか神が持ち去ったとは知らないアステールだった。いくら憤っても返ってはこなかった。王国の運命を握る魔法スティックは失われたのだった。
更に、伝令から更なる凶報が伝えられた。
「王国第2の都市、キエルフベルクが陥落いたしました。そこから王都までは指呼の距離でございます」
宰相がアステールに進言した。
「王太子殿下、このままでは守りきれませぬ。ここは、一旦王都をお立ち退きなさいませ」
「うぬぬ。王都を放棄せよというのか」
聖女のいないシュペール王国に危機が迫っていた。
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