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公爵令嬢と女騎士の涙
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「姫、お待ちください!」
背後から声をかけてきたのは、わたしの後を追いかけてきた公爵家の女騎士団の団長シルビアだった。わたしと同じ17歳で、わたしが最も信頼する側近で、親友でもあった。彼女は常日頃からわたしの事を、姫と呼んでいた。わたしは立ち止まると、追いついて来た彼女の胸に飛び込んだ。そして大粒の涙を流して泣いた。
「シルビア、わたし悔しい、悔しいわ!」
「姫……」
幼いころからわたしのことを理解している長身で美貌の女騎士は、何も言わず、わたしの体をしっかりと抱きしめてくれた。
そして、いつの間にか、シルビアを含め、わたしの親衛隊をもって任ずる4人の女騎士たちが、わたしの周りに集まっていた。全員がわたしとほぼ同じ年代だが、わたしに深い忠誠を誓っている。そして、わたし自身も姫騎士として、彼女たちとともに戦う戦士でもあった。ルビー王国の5騎士として名前が知れ渡っているわたしの自慢の仲間たちだ。
時間が経って少しだけ冷静さを取り戻して、ようやくわたしは話ができるようになった。
「これは罠よ。わたしは罠に嵌められたんだわ」
「罠? 誰でしょうか?」
いつも明るい、わたしと1つ年下の女騎士クラリスが尋ねてきた。
「ドロテアよ、子爵令嬢の。あの女が、王太子妃の地位をわたしから奪い取るために、わたしを陥れたんだわ」
「子爵令嬢⁉ おのれ、許せない!」
クラリスと同じ16歳で、高い戦闘力を持つ優秀な戦士のアデルが怒りを露わにした。今からでもドロテアのところに殴りこまんばかりの勢いだったが、リーダーのシルビアは彼女を制した。そして、そのシルビアが大事な事を尋ねてきた。
「姫、これからどうなさるおつもりですか?」
「どうしたらいいかわからないわ。わたしはもうダメだわ。王室から婚約を破棄された上に、公衆の面前で、あんな風に嘘を並べて公然と罵られて……。もうキズモノという訳よ。どこにも行くところはない。何も希望はなくなってしまったわ。いっその事、ここで皆で抗議の集団自決を……」
その場に緊張感が走った。わたしが動揺のあまり、あらぬことを口走ってしまったからだ。わたしが死を持ち出したことで、ただならぬ雰囲気になったのだった。だが、そこで15歳で最年少の女騎士シモーヌが、表情一つ変えず、片膝を地面につける臣従礼の姿勢を取って、恭しく語り出した。
「わかりました。姫が我らに、ここで死ねとお命じになるなら、よろこんでわが命を……」
わたしはシモーヌに最後まで言わせず遮った。彼女が本気で言っていることはわかっていた。彼女のわたしへの一途な忠誠心は知り抜いているつもりだ。このような忠実な者を死なせてはならない。
「わたし、どうかしてるわね。ごめんなさい。こんなこと口走るなんて恥ずかしいわ。でも、あなたたちの気持ちは充分わかったわ、ありがとう。あなたたちの命を無駄に捨てさせるなんて事は絶対にしないから」
「姫……」
わたしの言葉を聞いたその場にいる全員の目に涙が浮かんで、皆で思い切り泣きじゃくったのだった。
背後から声をかけてきたのは、わたしの後を追いかけてきた公爵家の女騎士団の団長シルビアだった。わたしと同じ17歳で、わたしが最も信頼する側近で、親友でもあった。彼女は常日頃からわたしの事を、姫と呼んでいた。わたしは立ち止まると、追いついて来た彼女の胸に飛び込んだ。そして大粒の涙を流して泣いた。
「シルビア、わたし悔しい、悔しいわ!」
「姫……」
幼いころからわたしのことを理解している長身で美貌の女騎士は、何も言わず、わたしの体をしっかりと抱きしめてくれた。
そして、いつの間にか、シルビアを含め、わたしの親衛隊をもって任ずる4人の女騎士たちが、わたしの周りに集まっていた。全員がわたしとほぼ同じ年代だが、わたしに深い忠誠を誓っている。そして、わたし自身も姫騎士として、彼女たちとともに戦う戦士でもあった。ルビー王国の5騎士として名前が知れ渡っているわたしの自慢の仲間たちだ。
時間が経って少しだけ冷静さを取り戻して、ようやくわたしは話ができるようになった。
「これは罠よ。わたしは罠に嵌められたんだわ」
「罠? 誰でしょうか?」
いつも明るい、わたしと1つ年下の女騎士クラリスが尋ねてきた。
「ドロテアよ、子爵令嬢の。あの女が、王太子妃の地位をわたしから奪い取るために、わたしを陥れたんだわ」
「子爵令嬢⁉ おのれ、許せない!」
クラリスと同じ16歳で、高い戦闘力を持つ優秀な戦士のアデルが怒りを露わにした。今からでもドロテアのところに殴りこまんばかりの勢いだったが、リーダーのシルビアは彼女を制した。そして、そのシルビアが大事な事を尋ねてきた。
「姫、これからどうなさるおつもりですか?」
「どうしたらいいかわからないわ。わたしはもうダメだわ。王室から婚約を破棄された上に、公衆の面前で、あんな風に嘘を並べて公然と罵られて……。もうキズモノという訳よ。どこにも行くところはない。何も希望はなくなってしまったわ。いっその事、ここで皆で抗議の集団自決を……」
その場に緊張感が走った。わたしが動揺のあまり、あらぬことを口走ってしまったからだ。わたしが死を持ち出したことで、ただならぬ雰囲気になったのだった。だが、そこで15歳で最年少の女騎士シモーヌが、表情一つ変えず、片膝を地面につける臣従礼の姿勢を取って、恭しく語り出した。
「わかりました。姫が我らに、ここで死ねとお命じになるなら、よろこんでわが命を……」
わたしはシモーヌに最後まで言わせず遮った。彼女が本気で言っていることはわかっていた。彼女のわたしへの一途な忠誠心は知り抜いているつもりだ。このような忠実な者を死なせてはならない。
「わたし、どうかしてるわね。ごめんなさい。こんなこと口走るなんて恥ずかしいわ。でも、あなたたちの気持ちは充分わかったわ、ありがとう。あなたたちの命を無駄に捨てさせるなんて事は絶対にしないから」
「姫……」
わたしの言葉を聞いたその場にいる全員の目に涙が浮かんで、皆で思い切り泣きじゃくったのだった。
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