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26話 蓮side

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あれからずっとあいつのあの姿が頭に浮かぶ。忘れようとしても忘れられない。そのせいで花と2人でいれる貴重な昼食の時間も全然楽しめず、何も手がつけられなくて俺は早退した。1人ぶらぶら寄り道しながら帰宅していると、花の母親に会った。花の両親は俗に言うキャリアウーマンであまり家にはいない。そうだからと言って子供に関心がない親と言うのではなく、花はいつも母の事を楽しそうによく話している。

俺は花の母親に声をかけた。

「花のお母さん。お久しぶりです。」
「お!蓮くん!久しぶり!あれまた大きくなってる??少しぐらい悠に分けてやってよ!!」

そう言って笑いながら俺の背中をバシバシ叩く。花の母親は竹を割ったような性格で俺にも小さい頃からよくしてくれた。しかし力の強さは昔からで,花の母親に叩かれた俺の背中はじんじんと痛み、きっと赤くなっているだろう……俺は心の中で苦笑した。花の力の強さは絶対この人譲りだと思う。

「そういえば今日は帰りが早いんですね。」

「そうなの!今日は仕事がすぐ終っちゃってさ!今日は花と悠とみんなで一緒に夕飯食べれるから楽しみなんだあ!」

「それはよかったですね!花,料理得意だし、夕飯もやっぱり花が作るんですか?」

花の作った料理は本当に美味しい。風邪で寝込んだ時、花の料理の優しい味に俺は救われた。毎日作ってくれるお弁当も本当に美味しくて俺の好きなやつばっかり入っててそれがまた俺を嬉しくさせる。俺は花に胃袋まで掴まれてしまった。

しかし俺がそう聞いた瞬間、花の母親はブハッとはきだし、笑い転げる。

「ぎゃははは!蓮くん笑わせないでよ!!花の料理なんて食べれるものじゃないでしょ!もうほんとにもう!!悠に決まってるでしょ!!」

「…え?」
それを聞いて俺の心臓はドクン、と周りの音が遮断されたように自分の心臓の音だけが響いた。

まさか……じゃああの弁当は……??

動揺している俺の様子を見て花の母親は話を続ける。

「え?蓮くん知らないの??ご飯は全部悠が担当だよ?花は私と似て料理が苦手でさ。花が台所に立ったもんならそれはもう悲惨だわ。悠は誰に似たんだか。本当にあの子はすごいわ。」

「…そ、そうなんですね。」

「…?蓮くん顔色悪いよ?大丈夫??」

大丈夫なわけない。状況が理解できない。花が料理できない??…じゃあ俺が風邪で寝込んだ時に作り置きしてくれていたあの料理は?弁当は?…悠…なの、か?…そんなわけない。でも…

今はなにも考えられない。


「…大丈夫です。…あのちょっと用事思い出したんで失礼します。」


「あ、うん。気をつけて帰るんだよ!」


俺を心配そうに気遣ってくれる花の母親。しかし申し訳ないが、笑顔で対応する余裕は俺には持ち合わせてなかった。



「はい。さようなら。」






早く
確かめなくては。
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