劣等の魔法士〜魔法は使えないけど、魔力は使えるので十分です〜

月風レイ

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第5話

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 凄く長い間眠っていたような気がする。

 あれ!? 僕はさっきようやく念願のトイレへと辿り着いたんじゃなかったのか?

 扉を開け、あの神々しい光景が目に入った、というところまではきちんと覚えている。

 あれは現実だったよな?
 それなのにその後の記憶は一切ない。

 今僕がいるのはいつも寝かされている寝室のベッドの上だ。
 まだ0歳児の赤ちゃんだというのに、一応貴族の辺境伯家に産まれたからか、キングサイズのベッドが用意されている。

 大袈裟だなとつくづく思う。

 いつもと違う点を挙げるとすれば、ベッドの隣で母親のマリアナが臥せって寝ているという点だ。

 その光景はまるで息子が病気を患って、看病をしている母親そのものだ。

「あぅ……(これはどうしたものか、とりあえず起こしてみよう!)」

 マークは自分に丁寧に被せられていた毛布から這い出て、四つん這いで臥せって眠っている紅髪のマリアナのもとへと向かう。

 そしてこちらに伸びてきている腕をちょんちょんと小さい手で触る。

「あぅ……(起きて)」

 マークが触るとマリアナの閉じていた瞼がゆっくりと持ち上がり、眠そうに目を開ける。

 そしてマークとマリアナの目線があうや否や、マリアナは瞳には涙を浮かべながらマークを優しく抱きしめた。

「マークちゃん……。マークちゃん……心配したのよ! 急にマークちゃんが倒れたって聞いたから! もうほんとに馬鹿なんだからッ! お母さんを心配させないでちょうだい……でも、無事で本当に良かったわ!」

 マリアナはそう言って僕を優しく温かく抱きしめてくれる。

 どうやら僕は魔力操作と身体強化によって魔力を使い過ぎたようで『魔力枯渇』という状態になってしまったらしい。

 抱擁によってマリアナの熱がマークへと注ぎ込まれる。

 マークはこの瞬間どうしてか、物凄く暖かいナニカを感じた。

 マークには朧げながらも違う世界の記憶がある。
 だからマリアナ達が自分の親だという認識が非常に薄かった。

 だが今はマークは、自分が、今目の前にいるマリアナの息子であって、それ以外の何者でもない。
 そのことを改めて理解した。


 マークにとってはマリアナやダリウスは他人に見えても、母親や父親からしたら僕という存在は欠け替えのない可愛い息子なのだから。

 マークは母親のマリアナに要らぬ心配をかけさせてしまった事に純粋に反省した。

 そして反省を形にすべくマリアナの胸へと小さい腕でしがみつき、『ごめんなさい』と心の中で誤った。

 不思議なもので、どうやらその思いは伝わったみたいだった。

「いいのよ、マークちゃん。マークちゃんのお母さんなんだもの」

 マリアナはそう言ってマークのことをいっそう強く、それでいて優しく温かく抱きしめた。

 その時、マークはこの世界でいい家族を持てたんだなと自覚した。

 

 だが、それから暫くの間は暖かな雰囲気がマークの居室内を包み込んだ。

 それからマリアナはふと思い出したかのように

「そういえばマークちゃんの倒れたのは『魔力枯渇』だって神官が言ってたけれど、マークちゃんまだ0歳よね?」

 母親のマリアナはマークが倒れたという事実だけに目が行き過ぎて、その原因が何かなどは問題視していなかった。

 ただ愛する息子のマークが倒れたという一大事で頭が一杯だったのだ。
 
 そしてマークが無事に目を覚まし、ある程度落ち着きを取り戻したマリアナは息子が倒れた原因が『魔力枯渇』というのには色々と不可解な点が多かった。

 マリアナは懐疑心をその瞳に宿し、その瞳を自分の胸元に可愛くもしがみついているマークへと向ける。

「マークちゃんはまだ0歳だよね? 魔力を使用するなんて前に、魔力を感知なんて出来るのかしら?」

 まだ言葉を話せない息子に尋ねたところで、返答が返ってこないことはマリアナも重々承知だ。

 だがマリアナは尋ねずには居られなかった。

 胸の中にいるマークからは予想通り返答はない。

「まさかね! マークちゃんは私に似てとっても賢い子だけど、流石に0歳で魔力を使うなんてことはないはずだわ……きっと貧血だったに違いないわ!」

 マリアナは現実逃避するかのようにそう決めつけた。
 ただマリアナの頭の奥底では

『万が一、マークちゃんが魔力を使ったなんてなれば……我が子ながら恐ろしい子ね……まぁ、どうであれマークちゃんは私の可愛い息子よ!』

 マリアナが呟いた内容は全てマークの耳に聞こえていた。
 
 マークは魔力を使う際には人に見つからないようにすることを決めた。

 時は進み、マークが屋敷内を走り回り、魔力枯渇で倒れた事件から5年という月日が経過した。

 そしてマークは5歳になった。

 まさかマークが「適性の儀」にて劣等者インフェリアという烙印を押されることになるとは誰も思いもしなかった。




 
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