劣等の魔法士〜魔法は使えないけど、魔力は使えるので十分です〜

月風レイ

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第4話

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 マークが屋敷内を生後1ヶ月にして歩き回った事件が起きてから一週間後。

 黒目黒髪の少年マークは専用の居室にて新たな企みを始めようとしていた。

 この世界アーストラに生まれてから、約1ヶ月間が経過したが、その間筋トレ以外で暇な時は独自の瞑想を毎日繰り返してきた。

 そのおかげもあって、副産物的なもので体内にある未知のエネルギーの存在にも気付くことが出来た。
 
 さらに継続的な努力の成果もあってか、最近では少しずつだが体内に感じた魔力を動かせるようになってきた。

 まだまだ拙いところの方が多い。
 魔力を動かせるようになるにはかなり大変だった。

 簡単にいうと魔力を動かすというのは普段使わない身体の部分をいきなり使おうとするようなもの。

 もっと簡単にいうと足の指を手のように動かせと言われてもすぐは出来ないけれど、訓練すれば簡単なものくらいは掴めるようになる、とそんな感じだ。

 魔力を体内に動かせるようになってからマークの身体には多くの変化が見られた。

 身体がふっと軽くなった感覚があるのと視覚、聴覚などの五感の全てが鋭敏になったそんな感覚だ。

「あぅ! あぅ!(これは凄い! ドーピングしたような感じだ! ものすごく楽しいぞ!)」

 僕はこのように体内の魔力を操作して、身体能力を一時的に高める事を——魔力操作、並びに、身体強化と名付けることにした。

 物凄く安直的なネーミングだが、意味に齟齬はないので大丈夫だろう。

 そして体内の魔力操作と、微弱ながらの身体強化によって僕はとうとうある事に成功した。

「あぅ!あぅ!(やっほーい! ようやく走れるようになったぞ! 風が凄く気持ちいいぞ!)」

 マークは歩き回る事に成功してから1週間後、遂に走り回る事に成功した。

 この世界に魔力があって本当に良かったな。そのおかげもあってか、魔力を使った身体強化ドーピングによって今僕はこうやって生後間もなくして走り回れている。

「あぅ……(やっぱり僕は異常な赤ちゃんなんだろうな?)」

 最近、自分の成長スピードが可笑しい点で両親や従者を驚かせてばっかりいるが、それに関しては些細な問題だと割り切る事にした。

 いちいち気にしていたら、自力でトイレが出来るようになるまでに物凄く長い時間を要してしまう。
 
 それはどうしても避けたい最優先事項だ。

「あぅ!(今度こそ! 自分でトイレに向かうぞ!)」

 そしてマークは半開きになっている居室のドアから勢いよく飛び出した。

 侍女のサラシャも気付いていないようで追ってくる気配はない!
 
「あぅ!(いいぞ! この調子だ! ようやくこの時がきたぞ! あと十数メートルくらいだ! ようやく念願の独り立ちだ!)」

 魔力の体内循環スピードを加速させる。
 すると身体の奥底から熱いものが込み上げてくる。

 空気を斬って前へと進む。
 走る爽快感が全身を包みこむ。

「あぅ! あぅ!(待ち望んだ時がようやく! これで僕も解放されるんだ!)」

 何だか感動で涙が出てきそうだ。

 もう既に目の前にトイレの扉が見えてきた。
 あと数歩!

 さらに僕は推進力を上げる。

「あぅ!(フルスロットル全開!)」

 僕はさらに体内の魔力を高速で循環させる。
 魔力の循環は行えば行うほど効率的になっていく。まだまだ僕はスピードは上げられるぞ!
 

 そしてようやく——————到着。

「あぅ!(とうとう到着したぞ、極楽の地へ!)」

 運良くもトイレの扉が開いていて、上手く扉を開ける事に成功した。

 ようやく待ち焦がれていた安息の地へのゲートがが開く。
 そして、扉を開けた途端に神々しく眩しい光がマークの瞳を刺した。

 そして、余りの神々しさのせいかマークの視界が一挙、真っ白になった。

「あぅ……(これが待ちにまった、天上の風景か。なんとも神々しい。まさか、これがトイレの神様ってやつか!………ってあれ、なんだか……)」

 
 バタンッ!

 そして小さいナニカが倒れるような音が不思議にも屋敷内全体に響き渡った。

 発見されたのはマークが夢見心地の満足の笑みを浮かべてトイレで倒れている姿だった。

 そのあとマークは丸一日、目を覚まさなかった。

 すぐに呼びつけた神官の診断によって、マークが倒れた原因として『魔力枯渇』との診断が下された。

 結局、丸一日寝ていたマークはサラシャによって綺麗にされていた。

 ———次こそは…………必ず。
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