劣等の魔法士〜魔法は使えないけど、魔力は使えるので十分です〜

月風レイ

文字の大きさ
上 下
1 / 9

第1話

しおりを挟む
 『———ざ、ざ、残念ながらご子息は魔法が使えません』

 白色に金糸が施された法衣を纏った神官がそう言い放った。
 言葉を詰まらせながらも口にした神官のその額には焦燥感からか汗と思われる湿り気が目に見える。
 

 そうして僕、マーク・アーカイルは5歳に執り行われる適性の義にて、適性なしという劣等者インフェリアの烙印を押されることになった。

 齢5歳の神童と呼ばれた少年に、劣等者インフェリアの烙印が押されたことに、少年の関係者である誰もが苦悶し、悲嘆に暮れた。

 ———ただ1人、本人を除いては。
 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 黒目黒髪、この世界では珍しい風貌で生まれてきた少年の名はマーク・アーカイル。ちょうどこの世界アーストラに産まれてから5年という月日が経った。

 マークが産まれたのはアーストラの中でもユートリア大陸の西部に位置するノーゼンハイム王国という国。
 さらに、その中でもノーゼンハイム王国の王侯貴族であるアーカイル辺境伯家の一員としてマークは産声を上げた。

 ノーゼンハイム王国のアーカイル家といえば武術の名家。先代の数々がその圧倒的強さによる武勇で大陸中に名を轟かせていた。

 そして現在、武の名家アーカイル家の当主であるダグラス・アーカイル。その実子にして長男、それが黒目黒髪の少年マーク・アーカイルだ。

 彼は産まれてから5年しか経っていないものの、先代にも負けじ劣らずの噂がもう既に数々存在した。

 生後2ヶ月にして二足歩行をしただの、その1週間後には屋敷内を縦横無尽に走り回っただの、さらには生後3か月にして、言葉を覚え会話ができるようになっただの、そんな噂だ。
   
 
 真偽を問わずその噂から辺境伯領内に住む領民達、及び辺境伯家で働く従者達からは『神童』と呼ばれるようになった。

 事実、世間に広まっている噂の殆どが真実であった。

 ただマークの成長を間近に見ている関係者達がその噂を聞いたらホッと安堵する事だろう。

 なぜなら世間の噂は華美に脚色されるどころか、控えめにされているから。

 というのも、実際はマークは1ヶ月という予想をも越えるスピードで掴まり立ちを覚え、その1週間後には二足歩行で歩いていた。

 さらにその1週間後には屋敷内を縦横無尽に走り回った。

 正真正銘にマークは『神童』であった。
 武勲により大陸中に名を轟かせたアーカイル家、その中でも比類しないほどの天才少年だった。

 ———そう、誰もがそう思っていた。

 その『神童』と呼ばれるようになったマークが、適性の儀にて、まさか無適性の能無し、劣等者インフェリアという烙印を押されるとは誰も思いもしなかった。

 ———突如、絶望的な宣告を受けて。


 父親であるダグラスは放心絶句。
 母親であるマリアナは膝を崩して号泣。
 執事長セバスは必死に溢れ出す感情を押し殺す。

 そして劣等者インフェリアと烙印を押された当本人の少年はというと、

「父さんも母さんもセバスもどうしてそんなに暗い顔をしてるの!? 元気を出しなよ! 魔法が使えないだけでしょ?」

 まるで魔法の適性など大した問題ではないかのように、いたっていつもと変わらない調子で3人に声を掛けた。

 大人達の彼らには少年マークの振る舞いが、まだ5歳の少年が自分達を励まそうと必死に強がっているように見えた。

 あまりにも出来た少年の優しさに大人達は胸を貫かれた。

「マーク………」ダグラス。
「マークちゃん……」マリアナ。
「マーク坊ちゃま……」セバス。

 マリアナは適性なしと診断されたマーク自身が一番辛いのにも関わらず、自分達の事を一番に思い、元気付けようと励ましてくれている愛しい息子を力一杯に抱き締めた。
 
 ダグラスもそれに続いて、マリアナとマークを一緒に強く抱き締めた。

「マークよ、ごめんなぁ。不甲斐ない父親で……。お前に辛い思いをさせてしまってぇぇぇ。だがマークよ、父親として約束しよう———例えマークが魔法が使えなくても、領民に愛される立派な領主にしてやる! 必ずだ———」

「マークちゃん、私も母親として約束するわ。たとえマークちゃんが魔法が使えなくても、好きになった女の子を射止められるような女の子を口説くようなテクニックを伝授するわ! 必ずよ———」

 そう、父親のダグラスと母親のマリアナは決心をした。

 ある種、絶望とも思える宣告から一転。
 一丸となったアーカイル家。

 その側で先程までは居た堪れない気持ちで一杯だった神官もアーカイル家の家族愛の在り方を見て、感動で大粒の涙を溢した。

 そして普段感情を表に出す事がない執事長のセバスは涙で目元を充血させている。
 そして胸元から白い布切れを取り出し、勢いよく鼻をかんで

「ズズズズッ! 坊ちゃまぁ、たとえマーク坊ちゃま魔法が使えなくても、このわたくしが何が何でも、坊ちゃまをお守りします! 必ず———」


 アーガイル家が抱き合う大聖堂には、アーストラの創造神が祝福してるがごとく、優しい光が煌びやかなステンドグラスから差し込んだ。

 各々がマークに対して強い決意を固め、その場一体が暖かな感動包まれる中。

 黒目黒髪の少年、当本人のマークはこんなことを考えていた。


 ———魔法が使えなくても、は使えるよね?



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 ご愛読頂きありがとうありがとうございます。

 続きが読みたいと思った方は、
 
 ☆お気に入り登録 をお願い致します。

 ☆お気に入り登録をして頂けると大変励みになり、続きを執筆するモチベーションになりますので、何卒宜しくお願い致します。




 2日に1話更新くらいの緩いペースで書いていこうと思います。

 ※多少なりとも更新が遅くなる可能性はございますのでご了承ください。

 感想は受け付けておりませんので、もし何か伝えたい事がありましたらTwitterで伝えていただける良いかなと思います。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!

クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』  自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。  最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

処理中です...