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第1話
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『———ざ、ざ、残念ながらご子息は魔法が使えません』
白色に金糸が施された法衣を纏った神官がそう言い放った。
言葉を詰まらせながらも口にした神官のその額には焦燥感からか汗と思われる湿り気が目に見える。
そうして僕、マーク・アーカイルは5歳に執り行われる適性の義にて、適性なしという劣等者の烙印を押されることになった。
齢5歳の神童と呼ばれた少年に、劣等者の烙印が押されたことに、少年の関係者である誰もが苦悶し、悲嘆に暮れた。
———ただ1人、本人を除いては。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
黒目黒髪、この世界では珍しい風貌で生まれてきた少年の名はマーク・アーカイル。ちょうどこの世界アーストラに産まれてから5年という月日が経った。
マークが産まれたのはアーストラの中でもユートリア大陸の西部に位置するノーゼンハイム王国という国。
さらに、その中でもノーゼンハイム王国の王侯貴族であるアーカイル辺境伯家の一員としてマークは産声を上げた。
ノーゼンハイム王国のアーカイル家といえば武術の名家。先代の数々がその圧倒的強さによる武勇で大陸中に名を轟かせていた。
そして現在、武の名家アーカイル家の当主であるダグラス・アーカイル。その実子にして長男、それが黒目黒髪の少年マーク・アーカイルだ。
彼は産まれてから5年しか経っていないものの、先代にも負けじ劣らずの噂がもう既に数々存在した。
生後2ヶ月にして二足歩行をしただの、その1週間後には屋敷内を縦横無尽に走り回っただの、さらには生後3か月にして、言葉を覚え会話ができるようになっただの、そんな噂だ。
真偽を問わずその噂から辺境伯領内に住む領民達、及び辺境伯家で働く従者達からは『神童』と呼ばれるようになった。
事実、世間に広まっている噂の殆どが真実であった。
ただマークの成長を間近に見ている関係者達がその噂を聞いたらホッと安堵する事だろう。
なぜなら世間の噂は華美に脚色されるどころか、控えめにされているから。
というのも、実際はマークは1ヶ月という予想をも越えるスピードで掴まり立ちを覚え、その1週間後には二足歩行で歩いていた。
さらにその1週間後には屋敷内を縦横無尽に走り回った。
正真正銘にマークは『神童』であった。
武勲により大陸中に名を轟かせたアーカイル家、その中でも比類しないほどの天才少年だった。
———そう、誰もがそう思っていた。
その『神童』と呼ばれるようになったマークが、適性の儀にて、まさか無適性の能無し、劣等者という烙印を押されるとは誰も思いもしなかった。
———突如、絶望的な宣告を受けて。
父親であるダグラスは放心絶句。
母親であるマリアナは膝を崩して号泣。
執事長セバスは必死に溢れ出す感情を押し殺す。
そして劣等者と烙印を押された当本人の少年はというと、
「父さんも母さんもセバスもどうしてそんなに暗い顔をしてるの!? 元気を出しなよ! 魔法が使えないだけでしょ?」
まるで魔法の適性など大した問題ではないかのように、いたっていつもと変わらない調子で3人に声を掛けた。
大人達の彼らには少年マークの振る舞いが、まだ5歳の少年が自分達を励まそうと必死に強がっているように見えた。
あまりにも出来た少年の優しさに大人達は胸を貫かれた。
「マーク………」ダグラス。
「マークちゃん……」マリアナ。
「マーク坊ちゃま……」セバス。
マリアナは適性なしと診断されたマーク自身が一番辛いのにも関わらず、自分達の事を一番に思い、元気付けようと励ましてくれている愛しい息子を力一杯に抱き締めた。
ダグラスもそれに続いて、マリアナとマークを一緒に強く抱き締めた。
「マークよ、ごめんなぁ。不甲斐ない父親で……。お前に辛い思いをさせてしまってぇぇぇ。だがマークよ、父親として約束しよう———例えマークが魔法が使えなくても、領民に愛される立派な領主にしてやる! 必ずだ———」
「マークちゃん、私も母親として約束するわ。たとえマークちゃんが魔法が使えなくても、好きになった女の子を射止められるような女の子を口説くようなテクニックを伝授するわ! 必ずよ———」
そう、父親のダグラスと母親のマリアナは決心をした。
ある種、絶望とも思える宣告から一転。
一丸となったアーカイル家。
その側で先程までは居た堪れない気持ちで一杯だった神官もアーカイル家の家族愛の在り方を見て、感動で大粒の涙を溢した。
そして普段感情を表に出す事がない執事長のセバスは涙で目元を充血させている。
そして胸元から白い布切れを取り出し、勢いよく鼻をかんで
「ズズズズッ! 坊ちゃまぁ、たとえマーク坊ちゃま魔法が使えなくても、このわたくしが何が何でも、坊ちゃまをお守りします! 必ず———」
アーガイル家が抱き合う大聖堂には、アーストラの創造神が祝福してるがごとく、優しい光が煌びやかなステンドグラスから差し込んだ。
各々がマークに対して強い決意を固め、その場一体が暖かな感動包まれる中。
黒目黒髪の少年、当本人のマークはこんなことを考えていた。
———魔法が使えなくても、魔力は使えるよね?
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
ご愛読頂きありがとうありがとうございます。
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2日に1話更新くらいの緩いペースで書いていこうと思います。
※多少なりとも更新が遅くなる可能性はございますのでご了承ください。
感想は受け付けておりませんので、もし何か伝えたい事がありましたらTwitterで伝えていただける良いかなと思います。
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言葉を詰まらせながらも口にした神官のその額には焦燥感からか汗と思われる湿り気が目に見える。
そうして僕、マーク・アーカイルは5歳に執り行われる適性の義にて、適性なしという劣等者の烙印を押されることになった。
齢5歳の神童と呼ばれた少年に、劣等者の烙印が押されたことに、少年の関係者である誰もが苦悶し、悲嘆に暮れた。
———ただ1人、本人を除いては。
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黒目黒髪、この世界では珍しい風貌で生まれてきた少年の名はマーク・アーカイル。ちょうどこの世界アーストラに産まれてから5年という月日が経った。
マークが産まれたのはアーストラの中でもユートリア大陸の西部に位置するノーゼンハイム王国という国。
さらに、その中でもノーゼンハイム王国の王侯貴族であるアーカイル辺境伯家の一員としてマークは産声を上げた。
ノーゼンハイム王国のアーカイル家といえば武術の名家。先代の数々がその圧倒的強さによる武勇で大陸中に名を轟かせていた。
そして現在、武の名家アーカイル家の当主であるダグラス・アーカイル。その実子にして長男、それが黒目黒髪の少年マーク・アーカイルだ。
彼は産まれてから5年しか経っていないものの、先代にも負けじ劣らずの噂がもう既に数々存在した。
生後2ヶ月にして二足歩行をしただの、その1週間後には屋敷内を縦横無尽に走り回っただの、さらには生後3か月にして、言葉を覚え会話ができるようになっただの、そんな噂だ。
真偽を問わずその噂から辺境伯領内に住む領民達、及び辺境伯家で働く従者達からは『神童』と呼ばれるようになった。
事実、世間に広まっている噂の殆どが真実であった。
ただマークの成長を間近に見ている関係者達がその噂を聞いたらホッと安堵する事だろう。
なぜなら世間の噂は華美に脚色されるどころか、控えめにされているから。
というのも、実際はマークは1ヶ月という予想をも越えるスピードで掴まり立ちを覚え、その1週間後には二足歩行で歩いていた。
さらにその1週間後には屋敷内を縦横無尽に走り回った。
正真正銘にマークは『神童』であった。
武勲により大陸中に名を轟かせたアーカイル家、その中でも比類しないほどの天才少年だった。
———そう、誰もがそう思っていた。
その『神童』と呼ばれるようになったマークが、適性の儀にて、まさか無適性の能無し、劣等者という烙印を押されるとは誰も思いもしなかった。
———突如、絶望的な宣告を受けて。
父親であるダグラスは放心絶句。
母親であるマリアナは膝を崩して号泣。
執事長セバスは必死に溢れ出す感情を押し殺す。
そして劣等者と烙印を押された当本人の少年はというと、
「父さんも母さんもセバスもどうしてそんなに暗い顔をしてるの!? 元気を出しなよ! 魔法が使えないだけでしょ?」
まるで魔法の適性など大した問題ではないかのように、いたっていつもと変わらない調子で3人に声を掛けた。
大人達の彼らには少年マークの振る舞いが、まだ5歳の少年が自分達を励まそうと必死に強がっているように見えた。
あまりにも出来た少年の優しさに大人達は胸を貫かれた。
「マーク………」ダグラス。
「マークちゃん……」マリアナ。
「マーク坊ちゃま……」セバス。
マリアナは適性なしと診断されたマーク自身が一番辛いのにも関わらず、自分達の事を一番に思い、元気付けようと励ましてくれている愛しい息子を力一杯に抱き締めた。
ダグラスもそれに続いて、マリアナとマークを一緒に強く抱き締めた。
「マークよ、ごめんなぁ。不甲斐ない父親で……。お前に辛い思いをさせてしまってぇぇぇ。だがマークよ、父親として約束しよう———例えマークが魔法が使えなくても、領民に愛される立派な領主にしてやる! 必ずだ———」
「マークちゃん、私も母親として約束するわ。たとえマークちゃんが魔法が使えなくても、好きになった女の子を射止められるような女の子を口説くようなテクニックを伝授するわ! 必ずよ———」
そう、父親のダグラスと母親のマリアナは決心をした。
ある種、絶望とも思える宣告から一転。
一丸となったアーカイル家。
その側で先程までは居た堪れない気持ちで一杯だった神官もアーカイル家の家族愛の在り方を見て、感動で大粒の涙を溢した。
そして普段感情を表に出す事がない執事長のセバスは涙で目元を充血させている。
そして胸元から白い布切れを取り出し、勢いよく鼻をかんで
「ズズズズッ! 坊ちゃまぁ、たとえマーク坊ちゃま魔法が使えなくても、このわたくしが何が何でも、坊ちゃまをお守りします! 必ず———」
アーガイル家が抱き合う大聖堂には、アーストラの創造神が祝福してるがごとく、優しい光が煌びやかなステンドグラスから差し込んだ。
各々がマークに対して強い決意を固め、その場一体が暖かな感動包まれる中。
黒目黒髪の少年、当本人のマークはこんなことを考えていた。
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