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第25話 地龍の素材

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 フィンブルド伯爵当主カールストン・フォン・フィンブルドに有難い忠告を賜った俺は伯爵当主の応接室へと案内された。
 上等なソファへと案内されて、侍女が香りの良い紅茶を淹れてくれる。
 流石に色々な場面で紅茶を飲んだので、砂糖は淹れないようにお願いした。
 俺はせっかく淹れてもらった紅茶を頂く。

「先程は脅かす真似をして済まなかったねぇ。他意は無いんだけどねぇ。謙ることは確かに美徳だとは思うけど、やり過ぎると舐められることに繋がるからねぇ。けれど、あまりに謙らないことも良くないとは思うよ」

 フィンブルド伯爵は遠く見るようにして、溜息を吐く。
 それだけで何となくだが、フィンブルド伯爵が考えていることが分かった。

「はい、確かにある程度は必要だと思いますね。ある程度は」

 シーリアも決して悪い奴では無いのだが、それでも自分勝手で我儘、更には高慢な性格なお陰で色々と伯爵当主としてではなく、親としてシーリアには心配があるのだろう。
 確かにあのシーリアはかなり重症だと思う。
 けれど大事にならないのは、侍女のルミナのお陰というのがかなりあると思う。
 
 俺はシーリアとは口にしていなかったが、

「ソウタ殿も分かるかねぇ。本当に親の苦労を少しくらいは知ってほしいものだねぇ。本当に色々と面倒事を運んでくるものだからねぇ」

 フィンブルド伯爵当主は親として溜息を吐く。

「そうですね。私自身も王都アルバまでの護衛中は沢山我儘に振り回されましたよ。専属の料理担当をしろなんかね」

 まぁ我儘の一つだがあれは交渉と言えば交渉だな。
 
「そうだったのか。ソウタ殿も大変でしたねぇ。でもシーリアも誰にでも我儘を言う訳では無いんですよねぇ。そこが親としても憎めないところでしてねぇ」

「そうなんですね。てっきり、私自身はただ単に我儘で、自己中心的で、高慢な子だと思っていましたよ」

 俺は純粋にシーリアのイメージをフィンブルド伯爵に伝える。
 フィンブルド伯爵は俺のイメージを聞いて苦笑いするしかない。

「ソウタ殿、一応だがシーリアは私の娘なんだがねぇ。まぁそれは良いが、シーリアには差し迫った問題があるんだよねぇ」

「差し迫った問題ってのは?」

 フィンブルド伯爵は困り顔でこう告げる。

「その問題っていうのは婚約なんだよねぇ。普通の貴族の子女子息だったら、婚約は成人までにはしている状態なんだけれどねぇ。成人をとっくに迎えたはずのシーリアには未だに婚約者がいないんだねぇ」

「なるほど……」

 フィンブルド伯爵は困り顔で、髭を撫でる。

「娘のシーリアは別に人気がないという訳ではないんだよねぇ。あの容姿だから貴族からの縁談は昔からかなり来ていたし、それでいて婚約が成立しそうな時も確かにあったんだよねぇ。けど結局、シーリアは「この人は嫌だ!」って我儘を言って、縁談を破棄してしまうんだよねぇ」

 俺はその話を聞いて、何とも我儘のシーリアらしいなって思った。
 俺がそんな事を思っているとフィンブルド伯爵は話を続ける。

「そこでソウタ殿に提案があるのだがねぇ。貴族入りを果たしたのだし、シーリアを妻に貰ってはくれないかねぇ? けれどシーリアが結局了承しないといけないから貰うって表現は可笑しいか……シーリアを堕としてはくれないかねぇ? 自分で発言して、自分が可笑しなことを言っているのは重々承知の上なのだが……」

 フィンブルド伯爵が言う通り、あなたは可笑しな事を言っている。
 何故俺がシーリアを堕とさなければならないのか。
 前提として俺がシーリアに気持ちがあれば別だが、その気持ちを置いて、シーリアに嘘の感情で手を出すような事は自分には出来ない。
 それに先程、俺には婚約者が出来たばかりだ。
 それも一国の王女だ。

「確かに貴族として成人をしているのに婚約すらしていないとなると心配な部分があるでしょう。ですが、私にはそれを受けることが出来ません。シーリアの為にもですけど、それにこれは他言無用でお願いしたいんですが——————」

 俺はフィンブルド伯爵にフィリナ王女殿下と婚約した事を教えた。
 あまり言わないようにと言うことだったが、この人なら話しても良いかと思ったので話す事にした。

 すると、話を聞いたフィンブルド伯爵は紅茶を一口喉を通す。

「そうでしたか。何ともう既にソウタ殿には婚約者がいらしたのですねぇ。それもこの国の王女様とは。英雄色を好むと昔からよく言われる言葉ですが、既に王女様の御心まで掌握していたんですねぇ。私も陛下に先を越されたって訳ですかねぇ」

 驚きのあまりかフィンブルド伯爵の声が少し大きくなっていったので静かにするように注意した。
 
 すると扉から誰かが倒れたようなと音が鳴った。
  
 フィンブルド伯爵は微笑ましい笑みを浮かべて、残っていた紅茶をグッと飲み干す。
 そして何かを悟るように呟いた。

「これから色々と面白いことが起きそうですねぇ」

 フィンブルド伯爵とは、その後王都で行われる王国建国祭についてだったり、貴族の職務に関する事を色々と聞いた。
 自分が一番興味を持ったのは王国建国祭で行われるオークションの話だった。

「ソウタ殿はアイテムボックス持ちと聞いたけど、そのアイテムボックスの中に討伐した地龍を入れて運んでいるとか」

 飲み干したはずの紅茶は再び入室してきた侍女によって淹れられた。

「はい、地龍のお肉がもしかしたら超絶に美味かもしれなかったので持って帰ってきました」

 俺の発言に溜息を吐くフィンブルド伯爵。

「先程から話していて君の為人はわかってきたんだけどねぇ。恐らくだけど君はかなりの常識知らずだよねぇ。SSS級の地龍を単騎で討伐するだけではなく、全長50メートル級の地龍をアイテムボックスに入れて持って帰ってくるなんてねぇ。それも地龍の肉が美味しそうだからってねぇ。なんだか地龍も気の毒だろうに」

 確かにフィンブルド伯爵の言う通り常識を知らないというのは正しいと思う。
 なんたって異世界の住人なのだから。
 まぁそんな言い訳は置いといて、きちんと常識は身につけていかないといけないのはわかっている。

「ソウタ殿、君の行動理由に呆れることはあれど、叱責したり落胆することは無いよ。それで地龍の死体だけど、これの所有権に関しては陛下に何か言われなかったのかな?」

「いいえ、国王陛下と話した時には、地龍の所有権に関しての言及はありませんでした」

 フィンブルド伯爵は俺の返答を聞き、

「そうか。となると所有権に関しては『翼竜の翼』、いや単騎で討伐したとなると所有権は地龍を討伐した君にあるね」

 地龍の所有権は国に没収されるのかと思っていたがどうやら違うらしい。
 
「そこで君に提案があるのだがねぇ。SSS級の地龍を王国建国祭のオークションに出品してみないか? SSS級の地龍の素材なんて中々手に入らないし、それに地龍丸々となるとどんな値段が付くのか正直想像も付かない。王国建国祭オークションのメインになるだろうねぇ。こんな品があれば王国建国祭も盛り上がること間違いないねぇ」

 フィンブルド伯爵は地龍をオークションに出す事を提案してくる。
 俺も地龍の所有権が俺にあるとわかってからは、もしかしたらオークションに出品出来るかもという期待を抱いていた。
 オークションによってどれだけ高値で売れるのかも気になるが、オークションに出品される商品がどんなものなのかにも興味がある。

「是非、地龍をオークションに出品したいと思います」
 
 地龍をオークションに出品するという意思を表明すると、手続きに関しては伯爵の方でしてくれるとの事だった。

 その後は、貴族に関する事を話だったり、シーリアの昔話などを聞かされたりして時間を過ごした。

 応接室を出てシーリアを見かけたが、見た瞬間に何処かへと逃げてしまった。



 
 





 


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