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エルフの里

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 新作

『極悪奴隷商の悪役息子に転生したので、奴隷は売らずに大切に育てます』

『転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件』
 を新作連載しました。

 こちらも爽快で、主人公最強の冒険ファンタジーとなっておりまして、テンポよく1話1500字で毎日更新していきます。
 是非読んで見てください。
 




 転移魔法を発動させると浮遊感が身体に襲いかかる。

 発動と同時に視界がぐるりと展開し、移り変わる。
 転移が成功したのか、襲いかかっていた浮遊感は霧散して、いつも通りの地面を足の裏の前面に感じる。

 そして、浮遊感に襲われ、咄嗟に飛びてしまった瞳を開けると、
 
 そこには100メートル超の大木が所狭しと林立していた。

 そんな光景にアオバは

「すっごーーい! ここの木すっごい大きいーー!」

 珍しい光景なのかアオバは楽しそうに巨木に向かって、ぴょんぴょんと跳ねている。

 物攻が0の為、衝撃は全くないので、木の葉一枚も揺れることが無かった。

 そんな光景に少し可哀想だなと思ってしまう。

 100メートル超の巨木が周りを埋め尽くす中、顔をグーっと上に持ち上げると、そこに目の周りにある木を軽ーく凌駕する程の大きさの大木が聳え立っていた。
 
「なんだあれは? でかいっていうレベルじゃないよ?」

 推定1,000メートル程ある木を、まるで田舎から東京に出てきて、初めてスカイツリーを見たように口を開けて見上げていると、

「……ごしゅじん、今見てるのが世界樹様、大きいでしょ……」

 ソフィアが心なしか、自慢げな口調で目の前に見えるのが世界樹である事を教えてくれる。

 そんなソフィアの様子が可愛かったので、俺はソフィアの頭を不意にもよしよしと撫でてしまう。

 頭を撫でるとソフィアは気持ちいいのか、ふにゃりとした笑みをこぼす。

 ソフィアの頭を撫でているとアオバがその光景が気に加わなかったのか、

「ご主人様ぁ、イチャイチャはダメですぅぅー」

 アオバは文句を垂れながら、俺の肩にピョーンと飛び交かり、見事肩にくっつく事に成功する。

 すぐ嫉妬を燃やしてしまうアオバのことも撫でてやる。

 エルフの里への転移に成功し、団欒の済んだところでソフィアが

「……ごしゅじん、世界樹様がなんか少し元気がないみたい……」


 訝しげな目で巨木、世界樹を不安そうに眺める。
 
 ソフィアの発言が気になったので、神眼を発動して、世界樹を見つめる。

 すると、世界樹の状態がわかった。

『マスター、わかりましたか? 原因は邪気にありそうですね?』

 チユキが念話を通して、ソフィアが世界樹に元気が無いと思う理由を伝えてくる。

「(そうみたいだね。って、ところで邪気ってどんなものなのかな?)」

 純粋に邪気がどんなものか気になった俺はチユキに邪気が何なのかを聞く事にする。

『マスターが質問してくれるなんて嬉しいですね。じゃあ、仕方ないので教えてあげましょう。邪気というのは邪な気で、誰か強大な存在のものが悪意を抱いていたり、悪さをしようとした時に出る負のオーラのことです。他にも気であると、瘴気がありますが、瘴気と邪気は少し違います。瘴気が自然発生の負のオーラとすると邪気というのは人為的な負のオーラと言えます』

 チユキが智慧神らしく、丁寧に分かりやすく邪気というものが何かを教えてくれる。

「この邪気というものが世界樹に影響しているっていうことだよね。そして、邪気が蔓延している以上、元凶がいるってことだね」

 人為的に発生する邪気が蔓延している以上、発生源が必ずいるはず。
 そして、ソフィアの話を信じるとすると、おそらく元凶というのはハイエルフの青年で間違いないだろう。

「(はい、そんな感じですね)」

 まぁ、おいおい原因は分かるだろうし、後にしよう。

 それにしても世界樹に元気が無いというものの、その壮大さには流石の俺も驚かされてしまう。

 いつしかまたお登りさんになってしまった俺たちはソフィアの言葉で我に帰る。

「……ごしゅじん、エルフの里に行きましょ……」

 いきなりエルフの里へと転移魔法を発動させることも出来たが、突然里に見知らぬ男が転移してきたら、里のエルフたちも困憊することが安易に予想されたので、俺はエルフの里から少しだけ離れたところへと転移する事にした。

 そして、転移してソフィアがエルフの里へと案内してくれる。

「……ごしゅじん、こっちこっち……」

 ソフィアが小さな体ながら必死に道案内をしてくれる。

 そんな姿に少しだけ保護者のような庇護欲をくすぐられながら、世界樹が聳え立つ方角へと歩くことおよそ5分。


「……ごしゅじん、もう着く……」

 ソフィアの到着の合図から僅か数秒、100メートル超の木々の先に、世界樹を取り囲むような円形の集落が広がっていた。

 周りの巨木を活用した木造りの構造物が立ち並んでいて、この街の村人だろうエルフが何人かいた。

 少し気になったのが、村になんだか不穏な空気が立ち込めているのであった。

 おそらく穏健派と過激派の内部対立によるものだろうが、子供の姿が見受けられない。

 内部対立のせいで、人が少なってしまっま道をソフィアと俺とアオバで抜けていく。

 アオバは終始興味深々の様子でぴょんぴょんと飛び跳ねながら進んでいく。

 村人の1人がソフィアの存在に気づくと、ソフィアが帰還したことが周りに伝播したようで、村がざわめき出す。

 ソフィア様がお帰りになられた
 ソフィア様の隣にいる人族は何者だ?

 という話が耳にかすかに触れる。

「ソフィア、なんだか俺は歓迎はされていないみたいだね?」
 
 疑念が俺に向いていることをソフィアに伝えると

「……ん、だいじょうぶ、なんとかなる……」

 ソフィアが俺に無表情でピースサインを向ける。

 ソフィアは不穏な空気を感じ取り、不安であるのにも関わらず、いつも通りの元気を見せようとしてくれる。

 そんなソフィアが愛おしかったので、俺は何気なくソフィアの頭を撫でてやる。

「……ごしゅじん、今はダメ、みんな見てる、こう見えても私は偉い……」

 ソフィアは少し頬を赤く染めながらも、威厳を保とうとしている。

 村の人に囲まれながらそんな団欒をしていると、ソフィアが帰ってきたことを聞いたのか、初老の男がソフィアの下へと駆けつけてきた。

「ソフィア様、ご無事で御座いましたか。本当によかったです。ソフィア様にもし何かあれば、この村は大変な危機に瀕してしまいます。本当によかったです」

 初老の男は本当にソフィアの身を案じていたようで、ソフィアが戻ったということを聞きつけてすぐ駆けつけたのか、かなり額を汗で濡らしていた。

「大袈裟ですよ、ハラス。私は大丈夫。けれどこんな時に村を空けてしまったのは本当に申し訳ない」

 目の前の初老の男はハラスというらしく、ソフィアがいない中、穏健派のリーダーを務めていた人物であるとのことだった。

「いえいえ、ソフィア様には何か策があって外へ飛び出したのでしょう……して、そちらの隣にいる人族はどちら様でしょうか?」

 ソフィアが無事に帰還した事に安堵したハラスは、ようやく興味を俺に向けてきた。

「紹介する、この人は私の伴侶となるご主人。だから丁重にもてなすように」

 ソフィアの瞳孔が少し揺めきながら、頬を軽く染めて、ハラスにそう告げる。


 一方、告げられたハラスはというと内容の真偽が掴めず、放心状態で

「……………………」

 ハラスの驚いた表情、人間で言ったら10歳くらい若返ったような顔をしている。

 そんな驚いて開いた口が塞がらないハラスの表情は面白かったが、俺はソフィアの伴侶?

 ソフィアの奴、何勝手に決めてるんだ?
 アオバもソフィアの発言が気に食わないのか、ソフィアに対して必死に飛びつき必死に抗議を示していた。

「おい、ソフィア。嘘はついちゃダメだ」

 勝手に進めようとするソフィアのおでこをコツンと小突くと、ソフィアは小突いたところを涙目になって抑えている。

 移り変わる状況に置いていかれていたハラスさんは

「して、そちら様はソフィア様とはどんな関係なのでしょうか?」

 ソフィアとの仲を見て、俺にも敬意を示してくれたのか、ハラスは丁寧な態度で俺にソフィアとの関係性を問う。

「俺とソフィアは別に特別な関係はない。そして、今回この村に来たのはソフィアの送迎と手助けの為かな?」

 俺は初老のハラスに対して、今回ソフィアをエルフの村へと連れてきた事と、この村に起こっている内部対立のヘルプとしてこの村に訪れたことを伝える。

 そう告げると

「……そうですか。あなた様がソフィア様を連れてきてくださったこと、そして手助けをしてくれるというのは有り難いです。ですが、どうにも人族がこの問題を解決できるとは思えません……」

 ハラスは非常に申し訳なさそうに、下を俯きながらそう俺に言う。

 その発言に対して、隣にいたソフィアはというと

「ハラスっ!! 失rr———」

 ハラスの発言に対して叱責を加えようとするが、それを俺は手で制す。

 ハラスの言っていることは別に間違っていない。

 エルフの村の内部対立の解決に、1人の男、しかも素性のわからない人族がどうにかできるようなものではない、と考えるのが普通である。

 つまりハラスは非常に現実的に物事を考えていて、それに対して俺の身を案じてそう告げてくれたのである。

「俺の身を案じてくれてありがとう、ハラス。どれだけ役に立てるかわからないけれど協力しても良いかな?」

 そう俺はハラスに告げる。

 そんな俺にハラスは仕方ないかという表情を浮かべ、

「……仕方ないです。ソフィア様がここまでお怒りになるということは何かあなたにはあるのでしょう。それにあなたの精霊の物凄く愛されているので、信じる事にしましょう」

 最後はハラスは俺に向けて微笑んでいた。




 そして、次の瞬間———


 ハラスの心臓に矢が貫通した。



 
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