148 / 190
橘祐也
レコーディング 1
しおりを挟む
CDは、楽曲があればぽんと収録してはい終わり、残りはプレス工場のお仕事、というものではないと理解したのは、今年に入ってからだった。
三月半ばの日曜日、学年末考査を突破した氷川達は現在、都内のスタジオに詰めていた。今週末からは春期休業に入るが、それを待って時間を無為にすることはできない。今日はリードトラック以外の楽曲のプリプロダクションの初日だった。現在は梨野作曲の楽曲の作業をしている。ちなみに過日、橘に相談された楽曲は結局、選考から漏れてしまった。
既に一曲、レコーディングを行なったので、ある程度の勝手は理解できている。選曲、プリプロダクションを経てパートごとにレコーディングを行い、トラックダウンしたものを完全パッケージメディアと呼ぶ。全曲揃えたところでマスタリング作業というものが待っているが、トラックダウンが済めばひとまず聞ける状態になる。そこまでの道のりは、口で言うよりは随分と長い。
プリプロダクションは、楽曲をレコーディングできる状態に仕上げる作業だ。仮唄を録り、テンポを含めた全体の構成、各パートの音色や全体のアンサンブル、細かなフレーズなどのアレンジを煮詰めていく。
スタジオの椅子でギターを抱えた江上が、眠そうにまばたきをした。バンダナで前髪を上げ直し、晒した額をてのひらで擦る。
「なんっか違うんだよなあ……」
先程から江上と梨野、そして橘の三人は、延々コード進行について話し合っていた。ベーシストらしい、ベースがリズム隊に徹しない楽曲は、コードの選び方が難しいようだ。戸田は一人で難しい顔でフレーズを詰めている。氷川はどちらにも加わることなく、仮唄を聞きながら歌詞を読んでいた。
首にかけていたヘッドフォンを外し、席を立つ。そして弦楽器隊の輪に歩み寄った。肩より長い髪をひとまとめにした背中に呼びかける。原曲者と話をしたかった。
「梨野さん、ちょっといいですか」
「んー?」
上体を反らして、梨野が氷川を見上げる。バンド内最年長の彼だが、所作が幼いためあまり気負わずに話せてありがたい。普段よりも丸く見える顔を見下ろして、口を開いた。
「Aメロの歌い出しなんですけど、どういう感じがいいのか悩んでて」
「ああ、最初って大事だもんな。悪い、ちょっと席外すわ」
姿勢を直した梨野が、江上と橘に断って席を立つ。快く送り出してくれたギター隊に軽く手を振って、梨野と二人で元いた場所に戻った。並んでソファに腰掛け、梨野が書いた歌詞を覗き込んだ。
喪失を嘆く、寂しげな言葉たち。失恋とも、死別とも、それ以外のものとも断定されないそれは、しんみりしたバラードに載っていれば迷わず叙情的に歌い上げることを選ぶが、梨野が書いてきたこの曲は、橘曰く“拳を上げやすい”、割とノリの良い曲だ。感情の見せ方は難しい。
「氷川のイメージはどんななの?」
クリップボードの縁を指先でつつきながら、梨野が訊ねる。氷川は僅かに首を捻り、抱いているイメージと、違和感を伝える。すると、梨野は丁寧に説明をしてくれた。
シャツの胸ポケットからボールペンを出し、クリップボードを下敷きに梨野の解説の要点を書き留めていく。郷愁。そう捉え方を調整すると、他人のものだった言葉が馴染んだ気がした。
「そうすると、あれですね、曲調はノリいいですけど、音的には哀愁漂う感じになりますか?」
「やり過ぎて歌謡曲にならない程度にな」
「絶妙なバランス感覚、期待してますね。よし、書けました。ありがとうございます、これで歌い込んでみますね」
「ああ、喉を使いすぎないように」
「はい」
とはいえ、ある程度歌わなければピッチも安定しないし、そうならなければ感情など込められないから、ある程度は声帯に働いて貰うことになる。
元の場所へ戻っていく梨野から、江上と橘へ視線を移す。彼らはとても真剣な表情で話し合いを続けていた。膝に抱えたギターを弾いては言葉を交わす。
「……あ」
橘が江上の手元に手を伸ばした。江上が弦を押さえ、橘の指が音を拾う。当たり前のように。
それは何もおかしな光景ではないだろう。氷川が橘と知り合うよりずっと以前から、彼らは一緒にバンドを組んでいた。二年間活動していたということは、それ以上の付き合いがあるということだ。まして同じ楽器を弾く者同士、仲が良いのはごく自然で、良いことのはずだ。
痛む胸に手を当てて、氷川はソファに背中を埋めた。
橘とは、あの日以来、元通りの距離を保っている。不用意に触れすぎないよう互いに気を配って、自然な立ち位置を取り戻すことに成功してはいた。ふとした瞬間にわき上がる衝動を逃がすことにも慣れた。けれどそんなもの、対症療法に過ぎないことも気付いていた。
目を瞑って動揺を押し込める。そうしていると、乾いた足音が近付いてくることに気付いた。
「大丈夫か」
そう声を掛けるのは、先程話していた梨野ではない。橘や戸田よりも低い声に氷川はゆっくりと目を開いた。
「江上さん、どうしました?」
「ちょっと休憩」
言って、江上は先程まで梨野が座っていた場所に腰を下ろした。体温が残っていたのか軽く顔をしかめ、しかし席を移ろうとはしない。
「プリプロって大変ですね、時間もかかりますし。でもそんなに合せるわけじゃないのに、一緒にスタジオ入るのはなんでですか?」
リードトラックのレコーディング前にも思ったことを訊ねると、彼はちょっと眉を上げた。
「そうだな、今時はネットでデータやりとりしてアレンジ詰める人もいるらしいけど」
江上がいくつか、ベテランのバンド名を上げ、肩をすくめる。
「そういうのは“出来る”人らだからできることでさ、俺らみたいな駆け出しには“一緒にやる”時間が要る、ってのが俺の持論。音を合せるのもそうだけど、一緒にいて、呼吸を揃えないと、ミックスしても音がバラバラな音源になっちまいそうでさ。そういうのはバンドとは言わねえから。用意ドンでライブ録音しなくてもバンドらしい音にするには、積み重ねが大事なんだよ」
淡々と語って、それから少し気恥ずかしそうに頬を掻く。
「やべえ、なんか熱いこと言った。恥ずかしい」
「そうやって照れられると俺も恥ずかしいんですけど、でも、なんかわかりました。ありがとうございます」
「……ん」
軽く下げた頭に、大きくて温かな手が乗る。無骨な指が髪を掻き回して、離れていく。
「頑張ろうな」
「はい」
江上がソファを離れ、扉に向かう。おそらく喫煙所に煙草を吸いに行くのだろう。彼とすれ違うようにして、小柄な人影が入ってきた。室内をくるりと見回して、戸田が近付いてくる。
「お疲れ。どこか行ってたの?」
「お茶飲んできた。さっき梨野さんと何話してたの? 難しそうな雰囲気だったけど」
「歌詞の話聞いてた。やっぱり書いた人に聞かないと分かんないこともあるから」
覗き込むように訊ねた戸田が、氷川の返答を聞いて二、三回軽く頷いた。
「聞いて分かった?」
「なんとなく」
「そっか」
曖昧な返答を質すことなく、戸田が唇に笑みを掃く。それに頷き返して、氷川は目を細めた。ソファにもたれて身体から力を抜く。
「分かんないなりに、考えて頑張るけど……難しいな、分かんないなって思うことがあると、五歳差って大きいんだと実感するよ。橘くんはよく、五つも十も年上の人と組んでたよね」
「それは橘くんはギターだからってのもあるんじゃない? トレモロのエトさんは最年長だったからね」
トレモロというのは、橘と江上が前にやっていたバンドで、エトとはボーカルの佐竹のステージネームだ。戸田はそのバンドのファンだったそうで、今でも時折、ステージネームで呼んでしまっては慌てている。本名や、それに近い名前でも、感覚的に問題があるらしい。
佐竹か、と氷川は溜息を飲み込んだ。文化祭の晩に宴席で同席した佐竹は人当たりの良い好青年だった。橘を通じて近況を聞くこともあるし、あちらも気に掛けてくれているらしい。しかし、映像で見たステージ上の姿とオフモードとの、豹変とさえ呼びたくなる変化は著しく、思い出すとコンプレックスが刺激された。比べられると非常に困る。望まれてもいないだろうが、あんな風には振る舞えない。
「人生経験の差、みたいなのもあるか……あの人みたいにはなれないな」
「でも僕、氷川くんはそれでいいと思うな。あんまり生々しくない感じが綺麗でいいと思ってるから」
戸田の言葉には、慰めるための嘘の気配はなかった。それをありがたく受け取って、けれど口を衝いて出たのは可愛げのない感慨だった。
「まあ結局、一番素人なの俺だもんね。背伸びしても仕方ないか」
「別に皮肉じゃないよ。淡々としてるほうが伝わる時もあるし。大仰なのばっかりがいいわけじゃなくて、抑圧してるほうが真に迫る、みたいなのあるでしょ」
「うん、わかるよ。ありがと」
戸田の言うことも理解はできる。しかし、パートごとに感情表現の比重の重軽はあり、ボーカルは特にそれが重い立場だ。噛み砕けないなりに適当に、ではこなせない。元来、氷川は物語などに感情移入しない性質だし、あまり感情を露わにすることを好まない。演者のように他者の感情を表現しようとするだけで難しいのに、それが自分の中にないものとなればひとしおだ。だが、ポピュラー音楽は淡々と音をなぞっただけでは成立しない。やるだけ、やらなければならない。
「頑張るね」
そう言うと、戸田は少し困ったように目を眇めた。
「仕上がり、楽しみにしてるから」
「うん。俺もちょっと水でも飲みに行ってくるね」
「いってらっしゃい」
軽く指を振って送り出す戸田に見送られて、防音室を後にした。
三月半ばの日曜日、学年末考査を突破した氷川達は現在、都内のスタジオに詰めていた。今週末からは春期休業に入るが、それを待って時間を無為にすることはできない。今日はリードトラック以外の楽曲のプリプロダクションの初日だった。現在は梨野作曲の楽曲の作業をしている。ちなみに過日、橘に相談された楽曲は結局、選考から漏れてしまった。
既に一曲、レコーディングを行なったので、ある程度の勝手は理解できている。選曲、プリプロダクションを経てパートごとにレコーディングを行い、トラックダウンしたものを完全パッケージメディアと呼ぶ。全曲揃えたところでマスタリング作業というものが待っているが、トラックダウンが済めばひとまず聞ける状態になる。そこまでの道のりは、口で言うよりは随分と長い。
プリプロダクションは、楽曲をレコーディングできる状態に仕上げる作業だ。仮唄を録り、テンポを含めた全体の構成、各パートの音色や全体のアンサンブル、細かなフレーズなどのアレンジを煮詰めていく。
スタジオの椅子でギターを抱えた江上が、眠そうにまばたきをした。バンダナで前髪を上げ直し、晒した額をてのひらで擦る。
「なんっか違うんだよなあ……」
先程から江上と梨野、そして橘の三人は、延々コード進行について話し合っていた。ベーシストらしい、ベースがリズム隊に徹しない楽曲は、コードの選び方が難しいようだ。戸田は一人で難しい顔でフレーズを詰めている。氷川はどちらにも加わることなく、仮唄を聞きながら歌詞を読んでいた。
首にかけていたヘッドフォンを外し、席を立つ。そして弦楽器隊の輪に歩み寄った。肩より長い髪をひとまとめにした背中に呼びかける。原曲者と話をしたかった。
「梨野さん、ちょっといいですか」
「んー?」
上体を反らして、梨野が氷川を見上げる。バンド内最年長の彼だが、所作が幼いためあまり気負わずに話せてありがたい。普段よりも丸く見える顔を見下ろして、口を開いた。
「Aメロの歌い出しなんですけど、どういう感じがいいのか悩んでて」
「ああ、最初って大事だもんな。悪い、ちょっと席外すわ」
姿勢を直した梨野が、江上と橘に断って席を立つ。快く送り出してくれたギター隊に軽く手を振って、梨野と二人で元いた場所に戻った。並んでソファに腰掛け、梨野が書いた歌詞を覗き込んだ。
喪失を嘆く、寂しげな言葉たち。失恋とも、死別とも、それ以外のものとも断定されないそれは、しんみりしたバラードに載っていれば迷わず叙情的に歌い上げることを選ぶが、梨野が書いてきたこの曲は、橘曰く“拳を上げやすい”、割とノリの良い曲だ。感情の見せ方は難しい。
「氷川のイメージはどんななの?」
クリップボードの縁を指先でつつきながら、梨野が訊ねる。氷川は僅かに首を捻り、抱いているイメージと、違和感を伝える。すると、梨野は丁寧に説明をしてくれた。
シャツの胸ポケットからボールペンを出し、クリップボードを下敷きに梨野の解説の要点を書き留めていく。郷愁。そう捉え方を調整すると、他人のものだった言葉が馴染んだ気がした。
「そうすると、あれですね、曲調はノリいいですけど、音的には哀愁漂う感じになりますか?」
「やり過ぎて歌謡曲にならない程度にな」
「絶妙なバランス感覚、期待してますね。よし、書けました。ありがとうございます、これで歌い込んでみますね」
「ああ、喉を使いすぎないように」
「はい」
とはいえ、ある程度歌わなければピッチも安定しないし、そうならなければ感情など込められないから、ある程度は声帯に働いて貰うことになる。
元の場所へ戻っていく梨野から、江上と橘へ視線を移す。彼らはとても真剣な表情で話し合いを続けていた。膝に抱えたギターを弾いては言葉を交わす。
「……あ」
橘が江上の手元に手を伸ばした。江上が弦を押さえ、橘の指が音を拾う。当たり前のように。
それは何もおかしな光景ではないだろう。氷川が橘と知り合うよりずっと以前から、彼らは一緒にバンドを組んでいた。二年間活動していたということは、それ以上の付き合いがあるということだ。まして同じ楽器を弾く者同士、仲が良いのはごく自然で、良いことのはずだ。
痛む胸に手を当てて、氷川はソファに背中を埋めた。
橘とは、あの日以来、元通りの距離を保っている。不用意に触れすぎないよう互いに気を配って、自然な立ち位置を取り戻すことに成功してはいた。ふとした瞬間にわき上がる衝動を逃がすことにも慣れた。けれどそんなもの、対症療法に過ぎないことも気付いていた。
目を瞑って動揺を押し込める。そうしていると、乾いた足音が近付いてくることに気付いた。
「大丈夫か」
そう声を掛けるのは、先程話していた梨野ではない。橘や戸田よりも低い声に氷川はゆっくりと目を開いた。
「江上さん、どうしました?」
「ちょっと休憩」
言って、江上は先程まで梨野が座っていた場所に腰を下ろした。体温が残っていたのか軽く顔をしかめ、しかし席を移ろうとはしない。
「プリプロって大変ですね、時間もかかりますし。でもそんなに合せるわけじゃないのに、一緒にスタジオ入るのはなんでですか?」
リードトラックのレコーディング前にも思ったことを訊ねると、彼はちょっと眉を上げた。
「そうだな、今時はネットでデータやりとりしてアレンジ詰める人もいるらしいけど」
江上がいくつか、ベテランのバンド名を上げ、肩をすくめる。
「そういうのは“出来る”人らだからできることでさ、俺らみたいな駆け出しには“一緒にやる”時間が要る、ってのが俺の持論。音を合せるのもそうだけど、一緒にいて、呼吸を揃えないと、ミックスしても音がバラバラな音源になっちまいそうでさ。そういうのはバンドとは言わねえから。用意ドンでライブ録音しなくてもバンドらしい音にするには、積み重ねが大事なんだよ」
淡々と語って、それから少し気恥ずかしそうに頬を掻く。
「やべえ、なんか熱いこと言った。恥ずかしい」
「そうやって照れられると俺も恥ずかしいんですけど、でも、なんかわかりました。ありがとうございます」
「……ん」
軽く下げた頭に、大きくて温かな手が乗る。無骨な指が髪を掻き回して、離れていく。
「頑張ろうな」
「はい」
江上がソファを離れ、扉に向かう。おそらく喫煙所に煙草を吸いに行くのだろう。彼とすれ違うようにして、小柄な人影が入ってきた。室内をくるりと見回して、戸田が近付いてくる。
「お疲れ。どこか行ってたの?」
「お茶飲んできた。さっき梨野さんと何話してたの? 難しそうな雰囲気だったけど」
「歌詞の話聞いてた。やっぱり書いた人に聞かないと分かんないこともあるから」
覗き込むように訊ねた戸田が、氷川の返答を聞いて二、三回軽く頷いた。
「聞いて分かった?」
「なんとなく」
「そっか」
曖昧な返答を質すことなく、戸田が唇に笑みを掃く。それに頷き返して、氷川は目を細めた。ソファにもたれて身体から力を抜く。
「分かんないなりに、考えて頑張るけど……難しいな、分かんないなって思うことがあると、五歳差って大きいんだと実感するよ。橘くんはよく、五つも十も年上の人と組んでたよね」
「それは橘くんはギターだからってのもあるんじゃない? トレモロのエトさんは最年長だったからね」
トレモロというのは、橘と江上が前にやっていたバンドで、エトとはボーカルの佐竹のステージネームだ。戸田はそのバンドのファンだったそうで、今でも時折、ステージネームで呼んでしまっては慌てている。本名や、それに近い名前でも、感覚的に問題があるらしい。
佐竹か、と氷川は溜息を飲み込んだ。文化祭の晩に宴席で同席した佐竹は人当たりの良い好青年だった。橘を通じて近況を聞くこともあるし、あちらも気に掛けてくれているらしい。しかし、映像で見たステージ上の姿とオフモードとの、豹変とさえ呼びたくなる変化は著しく、思い出すとコンプレックスが刺激された。比べられると非常に困る。望まれてもいないだろうが、あんな風には振る舞えない。
「人生経験の差、みたいなのもあるか……あの人みたいにはなれないな」
「でも僕、氷川くんはそれでいいと思うな。あんまり生々しくない感じが綺麗でいいと思ってるから」
戸田の言葉には、慰めるための嘘の気配はなかった。それをありがたく受け取って、けれど口を衝いて出たのは可愛げのない感慨だった。
「まあ結局、一番素人なの俺だもんね。背伸びしても仕方ないか」
「別に皮肉じゃないよ。淡々としてるほうが伝わる時もあるし。大仰なのばっかりがいいわけじゃなくて、抑圧してるほうが真に迫る、みたいなのあるでしょ」
「うん、わかるよ。ありがと」
戸田の言うことも理解はできる。しかし、パートごとに感情表現の比重の重軽はあり、ボーカルは特にそれが重い立場だ。噛み砕けないなりに適当に、ではこなせない。元来、氷川は物語などに感情移入しない性質だし、あまり感情を露わにすることを好まない。演者のように他者の感情を表現しようとするだけで難しいのに、それが自分の中にないものとなればひとしおだ。だが、ポピュラー音楽は淡々と音をなぞっただけでは成立しない。やるだけ、やらなければならない。
「頑張るね」
そう言うと、戸田は少し困ったように目を眇めた。
「仕上がり、楽しみにしてるから」
「うん。俺もちょっと水でも飲みに行ってくるね」
「いってらっしゃい」
軽く指を振って送り出す戸田に見送られて、防音室を後にした。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる