【連載小説】僕の好きなこと

遠藤良二

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6話 職探し

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 父は18時過ぎに帰宅した。辞職したことを言わなければ。怒られるのは承知の上。僕は自分の部屋にいて、玄関のドアが開く音で父が帰って来たことに気づいた。

 父が何か母と喋っている声が聞こえる。父は晩酌するのでお酒を飲む前に報告しよう。酔ってからだと余計にうるさいと思うから。声も大きくなるし。なので、リビングに降りた。

 父は上下、黒いジャージに着替えたところのようだ。僕は、「父さん、話したいことがあるんだ」 急に話しかけたからか、驚いた顔をしてこちらに向いた。「何だ、どうした?」 躊躇したが、言わないわけにはいかないので思い切って言った。「僕、仕事辞めた」 父は一瞬、理解していないようだった。そして、「何だと? それは本当か?」 眉間に皺を寄せている。「本当だよ。限界だよ、あの仕事は。気の荒い人たちばかりだし、仕事も向いてない」 はぁーっと、父はため息をついた。「もう少し続くと思ったが、半年しか続かなかったな。全く、俺に紹介してもらったこと忘れたのか?」 やっぱり、そう言われた。「忘れてないよ。父さんの顔に泥を塗ったのは悪かったと思ってる。でも……もうこれ以上は無理」 父は不貞腐れている表情だ。「今度社長に会ったら謝っておくからな。全く!」  両親は僕の気持ちを一切、理解していない。でも、いいんだ。これからは自分で職を探すから。家に入れるお金も捻出しないといけないし。だから、呑気に構えて仕事を探すわけにはいかない。正社員の仕事が見つかるまで、すぐに辞めてもいいようにコンビニかスーパーマーケットでバイトをすることにした。

 翌日。僕は母の車を借りてハローワークに向かった。今の時刻は9時30分ころ。到着したがなぜだろう、そこは混雑していた。ドアを開けて中に入ると、白髪頭の男性職員に呼び止められた。「お客さん、今日は失業保険の認定日なんだけどそれに関することかい?」 訊かれた。でも、何のことかわからなかった。なので僕は、「後から来た方がいいですか?」「あ、求人のことできたんだね」「はい」「大丈夫だよ、何か見つけてもすぐに対応できるかどうかわからないけどね」 その男性職員は笑みを浮かべて言った。「わかりました」  それから僕は周りを見渡すとパソコンがあった。あれで検索するのかな。そう思い近付いて行った。その前には椅子があったので座り、職種や年齢などを入力していった。 すると、コンビニもスーパーマーケットも載っていた。コンビニは夜中のもある。時給もそれなりに高い。よし、後でもう1回来よう。そう思って、一旦、自宅に戻った。

                            つづく……
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