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10話 生きづらさ
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今日は火曜日で休日だ。俺は多少の変動はあるものの、火曜日と金曜日に休日になることが多い。シフトは俺が決めているけれど、従業員にはまるで俺の都合で作っているように思われて仕方がない。
今日も小説を書こう。将来のために。そして読者のために。さくらちゃんにも見せたいし。また、共感してくれるだろうか。今のところパソコンのワードで32ページまで書いてある。俺はまるで小説家気取りだ。
今のシーンは他に好きな女性ができた主人公が、恋人に別れを告げるところ。俺は女と喋るのも好きだけれど、小説を書くのも好きだ。読書も時間があいたらしようと思っている。自称小説家、読書家。こんなこと知り合いに言ったら笑われるだろうか。自分で言えるくらいだから少しの自信はあるように思える。
その時、スマホが鳴った。この音は電話だ。相手は俺の兄の伊勢川亮からだ。どうしたんだろう。とりあえず、出てみた。彼からくる電話はいつも予想が付かない。
「もしもし、兄貴?」
久しぶりの通話だ。あまりに話さなさ過ぎて他人のように感じる。
『晃、母さんから聞いたか?』
俺はそう言われ、頭に疑問符が浮かんだ。何か予感めいたものを感じた。
「何のこと?」
『そうか。知らされてないのか……』
「うん? 何が?」
俺の疑問は更に深まった。早く言えよ、と思った。焦らされているようで少しイラっとした。
『貢おじさんが……亡くなったらしい……』
「え……!」
俺は一瞬、言葉を失った。この瞬間だけ俺の心は無のようになった。
『お前、貢おじさんにとても可愛がられてたよな。羨ましいぐらいに』
「……うん、そうだな……」
俺はショックを隠し切れなかった。体に電撃が落ちたようになったというのはこのことをいうのか。そして、疑問も湧いた。少しの沈黙のあと、俺は兄貴に質問した。
「貢おじさんは、なんで亡くなったの?」
『……それはだな。末期の膵臓ガンだったらしい。余命半年と言われていたようだ。それ以来、自宅で余生を過ごしていたようだ。最期は孤独死だったらしい……」
俺は言葉にならない複雑な気持ちがこみ上げてきた。思わず嗚咽を漏らしそうになる。その間、何も言わないでいると、
『晃、大丈夫か?』
「……うん……。母さん、なんで知らせてくれなかったんだろ……?」
兄貴は黙っている。まるで仏像のように。
「なんで……黙ってる?」
『それはだな……。今だから言うけど、病気があるお前にこれ以上辛い思いをさせたくなかったらしい……』
俺はひとつ気になることがある。これはスルーできない。
「葬儀は終わったのか?」
兄貴はまた黙った。そして、
『終わったよ。言わなくて悪かったな。これもお前のためを……」
彼の言葉を遮るように、
「なんで言ってくれないんだ! 俺がどれだけ貢おじさんを慕ってたか知ってただろ! なんでだよ……!」
俺は、感情に任せて兄貴を怒鳴り散らした。目から溢れたそれは止めどなく流れた。
『まあ、今思えば連絡すればよかったと母さんと話していたんだ。でも、全てはおまえの身を案じてしたことだ。悪かった」
俺は、怒りと悲しみの感情がごちゃまぜになっていて混乱していた。自分の気持ちの整理がまるでできない。
俺はどうすればいいかわからず、一方的に電話を切った。子ども染みているようだが。虚しく、「ツー、ツー」とその音だけが聞こえていた。今までの話が虚構であって欲しいと強く思った。まるで、誰かを呪うかのように。
俺は気持ちを落ち着かせようと、じゅうたんの上に大の字になった。41歳の男が子どもに返ったようだ。
なんで、こんな辛い思いをしなくちゃいけないんだ、と、その時――
しね
いなくなれ
まただ……。こんな時に暗い幻聴が聞こえるとは……。俺は尚更辛くなった。今更ながらに、この幻聴は、俺を呪っているかのように感じた。でも、いつからか俺は幻聴と現実の区別が自然とつくようになった。きっと、薬のお陰もあるんだろう。これは、良いことだ。俺は自然と一筋の光を探しているような錯覚に陥った。
急に電話を切られた兄貴は今、どんな気分だろう。きっと、後悔の念と怒りに苛まれているだろう。まあ、仕方がないな。また、ほとぼりが冷めた頃に連絡がくるだろう、兄貴か母親からかわからないが。こっちから電話をする気はない。それは、敗北を意味しているように感じたからだ。
それにしても、こういう気分が暗い時の幻聴ってどうして暗い内容なのだろう。リンクしているのか。俺は、病気のことは自分ではろくに調べもせずに、医者任せにしているから幻聴のことは詳しくわからないない。まるで無学の人間のようだ。生きづらさを感じているのも、病気のせいだろか。
今日も小説を書こう。将来のために。そして読者のために。さくらちゃんにも見せたいし。また、共感してくれるだろうか。今のところパソコンのワードで32ページまで書いてある。俺はまるで小説家気取りだ。
今のシーンは他に好きな女性ができた主人公が、恋人に別れを告げるところ。俺は女と喋るのも好きだけれど、小説を書くのも好きだ。読書も時間があいたらしようと思っている。自称小説家、読書家。こんなこと知り合いに言ったら笑われるだろうか。自分で言えるくらいだから少しの自信はあるように思える。
その時、スマホが鳴った。この音は電話だ。相手は俺の兄の伊勢川亮からだ。どうしたんだろう。とりあえず、出てみた。彼からくる電話はいつも予想が付かない。
「もしもし、兄貴?」
久しぶりの通話だ。あまりに話さなさ過ぎて他人のように感じる。
『晃、母さんから聞いたか?』
俺はそう言われ、頭に疑問符が浮かんだ。何か予感めいたものを感じた。
「何のこと?」
『そうか。知らされてないのか……』
「うん? 何が?」
俺の疑問は更に深まった。早く言えよ、と思った。焦らされているようで少しイラっとした。
『貢おじさんが……亡くなったらしい……』
「え……!」
俺は一瞬、言葉を失った。この瞬間だけ俺の心は無のようになった。
『お前、貢おじさんにとても可愛がられてたよな。羨ましいぐらいに』
「……うん、そうだな……」
俺はショックを隠し切れなかった。体に電撃が落ちたようになったというのはこのことをいうのか。そして、疑問も湧いた。少しの沈黙のあと、俺は兄貴に質問した。
「貢おじさんは、なんで亡くなったの?」
『……それはだな。末期の膵臓ガンだったらしい。余命半年と言われていたようだ。それ以来、自宅で余生を過ごしていたようだ。最期は孤独死だったらしい……」
俺は言葉にならない複雑な気持ちがこみ上げてきた。思わず嗚咽を漏らしそうになる。その間、何も言わないでいると、
『晃、大丈夫か?』
「……うん……。母さん、なんで知らせてくれなかったんだろ……?」
兄貴は黙っている。まるで仏像のように。
「なんで……黙ってる?」
『それはだな……。今だから言うけど、病気があるお前にこれ以上辛い思いをさせたくなかったらしい……』
俺はひとつ気になることがある。これはスルーできない。
「葬儀は終わったのか?」
兄貴はまた黙った。そして、
『終わったよ。言わなくて悪かったな。これもお前のためを……」
彼の言葉を遮るように、
「なんで言ってくれないんだ! 俺がどれだけ貢おじさんを慕ってたか知ってただろ! なんでだよ……!」
俺は、感情に任せて兄貴を怒鳴り散らした。目から溢れたそれは止めどなく流れた。
『まあ、今思えば連絡すればよかったと母さんと話していたんだ。でも、全てはおまえの身を案じてしたことだ。悪かった」
俺は、怒りと悲しみの感情がごちゃまぜになっていて混乱していた。自分の気持ちの整理がまるでできない。
俺はどうすればいいかわからず、一方的に電話を切った。子ども染みているようだが。虚しく、「ツー、ツー」とその音だけが聞こえていた。今までの話が虚構であって欲しいと強く思った。まるで、誰かを呪うかのように。
俺は気持ちを落ち着かせようと、じゅうたんの上に大の字になった。41歳の男が子どもに返ったようだ。
なんで、こんな辛い思いをしなくちゃいけないんだ、と、その時――
しね
いなくなれ
まただ……。こんな時に暗い幻聴が聞こえるとは……。俺は尚更辛くなった。今更ながらに、この幻聴は、俺を呪っているかのように感じた。でも、いつからか俺は幻聴と現実の区別が自然とつくようになった。きっと、薬のお陰もあるんだろう。これは、良いことだ。俺は自然と一筋の光を探しているような錯覚に陥った。
急に電話を切られた兄貴は今、どんな気分だろう。きっと、後悔の念と怒りに苛まれているだろう。まあ、仕方がないな。また、ほとぼりが冷めた頃に連絡がくるだろう、兄貴か母親からかわからないが。こっちから電話をする気はない。それは、敗北を意味しているように感じたからだ。
それにしても、こういう気分が暗い時の幻聴ってどうして暗い内容なのだろう。リンクしているのか。俺は、病気のことは自分ではろくに調べもせずに、医者任せにしているから幻聴のことは詳しくわからないない。まるで無学の人間のようだ。生きづらさを感じているのも、病気のせいだろか。
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