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#0 バッド・スノー

プロローグ 最凶の殺し屋は、家事ができない

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「助けてくれ!なんでもするから、命だけは!!」

太っ腹の男が必死に命乞いをしてきたのを無視して、フードを被った殺し屋は無情に刀を突き刺した。
男は声を上げることなく、絶命して床に倒れこむ。

「今更、命乞いするぐらいなら行動を改めてもらいたかったね。」

フードを取ると、輝くような銀髪が垂れた。瞳は綺麗な水色で、整った顔立ちをしていた。女はべったりと血の付いた刀を布で拭くと、鞘に収めた。そして居間に所狭しと並べられた金品を袋に詰め始めた。

日本刀の殺し屋バッド・スノー。
1年前に突如、彗星のごとく東京に現れた彼女は、不正を働く権力者や金持ちを次々と手にかけていった。通称「バッド・スノー事件」である。
そして奪った金品は貧しい者たちに分け与えていた。貧しい者たちからは義賊と、権力者からは最凶の殺し屋と呼ばれていた。

卓越した運動神経と、天才的な戦闘能力を持っていたが、普段から薄情であったことから、好んで接する人は裏社会で多くなかった。

スノーはカバンから赤色のスプレー缶を出すと、壁に大きく「BAD×SNOW」と書き殴った。いつものパフォーマンスだ。

「これで良し。帰ろ。」

スノーはカバンを背負って窓から飛び出すと、東京の街並みを駆けた。

ビルの屋上を足早に駆け抜けた後、動く電車の上に飛び乗る。そして、駅の屋根に飛び移って、さらに足は加速していく。紅く妖しく光った満月がスノーの足元を照らしていた。

そして自宅の賃貸マンションに到着した。

(奪った金品を整理しないと。家賃も3カ月滞納してるし。このままだと追い出される。まあ、今日奪った金品とかで返せるだろ。)

ドアを開けて、家に入る。

床一面にはゴミが散乱している。ゴミといっても走り書きのメモや新聞、スナック菓子の袋とかである。ただ、パンパンのゴミ袋も床に転がっていた。

スノーはカバンと武器の日本刀をテーブルに置くと、ベッドに倒れこんだ。

(あー疲れた。今日は遅いし、もう寝よう。掃除は明日やればいいや。)

スノーは家事全般が苦手だ。
料理は自分で作らず、ウーバーイーツなどのデリバリーで済ませている。少し前に、殺し屋仲間に手料理を作ってあげたが、悶絶して倒れたため、それ以降二度とキッチンには立たなくなった。今のキッチンも荷物が置かれて、倉庫状態だ。
掃除は言うまでもない。掃除機を出すのがおっくうだ。殺し屋の家に、掃除サービスに来てもらうのは論外だろう。

(アシスタントが欲しいな。私の仕事にちょっかいを出してこなくて、かつ家事をやってくれるアシスタント。ただ、見知らぬ人を雇うのもリスクが高いし・・・、どうすればいいんだか。)

スノーはそんなことを思いながら、眠りに落ちていった。


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