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「休憩終了。九階です。」
階段降りるたびに画面は徐々に明るくなり、熱帯森の日差しの強いをもろに受けた広場に出る。
「すり鉢状にフィールドを巡る順路は、階段を下りて右側が起点です。東雲の通路法則です。」
唯一の道に視線を向ける。
右側から外周に沿って弧を描く砂利道。
「九階まで来ると大分広くなります。比較的安全な渦巻き状の通路に沿って進むとフルマラソン以上の距離です。」
「目的のセンリンコウは、比較的乾いた土地を好むので、通路に沿って進みます。」
おそらく屈伸した少年に連動し、カメラが上下に揺れた。
順路と森の境目付近に位置取り走り出す。
この配信ではお馴染みとなりつつある、足音と呼吸音のみのロードラン配信が再開される。
「それらしい痕跡がありました。」
ふいに走る速度が落ちた。
右から左へ少年の視線を追ってカメラが動いた後、少年は熱帯森の奥を見る。
「本格的に森の中へ入ります。九階にもなるとモンスターは増えるので慎重に進みます。トークがなくなったら、何か危ない状況です。」
木々の枝葉が擦れる音、時折甲高く鳴く鳥と、緩やかになった少年の足音。
強烈な陽光を熱帯特有の大きな葉が遮り、明暗の極端な森の地面を舐めるように映す。モンスターの存在を示す何かを探し地面の堆積物を除けるのだろう、落ち葉や砂利の擦れる音がする。
そんな光景が三十分も続けば、生配信は過疎るものだ。
偶然とAIの活躍で増えた配信の同接数が零と一桁を繰り返すようになった頃、カメラは画面の隅にターゲットを捕らえる。
「やっと、みつけ、ました。」
少年は囁くような声を拾う。
何となく疲れたような、それでいてホッとしたような声音だ。
「センリンコウは基本的に雄雌のペアで行動します。一匹見つけたのでペアと合流するまで追います。」
一度立ち止まり、簡単に行動理由を説明をする。
それから、足音を立てないようモンスターを追う。
しばらく進むと一周り大きな同種のモンスターと接触し、互いに何度か鼻を突き合わせる。
人間の言葉にすれば「私は右、俺は左」という会話でもされたように、モンスターのペアは再び別れる。
数秒停止し、視線だけでモンスターペアの行先を確認した後、少年はポツリとつぶやく。
「鱗はがし、はじめます。」
少年の駆ける音、急速にセンリンコウ迫る画面。
しかし、モンスターの背をハードルのように飛び越え、真正面にある木の幹に突進する。
木にぶつかる寸前、方向転換する少年がチラリとカメラに映る。
急反転から、またセンリンコウ接近するが、一瞬で走り抜け遮蔽物の陰に身を隠す。
「今の接近で鱗二枚です。もう一回鱗を取って、討伐します。」
手元にある二枚の鱗を掲げ、カメラに映るように見せる。
立ち上がり、物陰から跳び出すと再びセンリンコウに向かって走る。
接敵、斜めに後方抜け、目の前の木の根を足場に反転する。
四度目の接近。
センリンコウに肉薄する瞬間、鱗を刈る。
チュンッと甲高い音が鳴る。
ナイフが鱗を切断する瞬間の接触音だ。
急停止、そのまま側面からモンスターの横腹を蹴り倒す。
ゴロッ、と横倒しになったセンリンコウの喉元へアーミーナイフが深く刺す。
傷口を拡げるように腹側へ引き、奥をかき回し、ナイフを抜く。
バックステップでモンスターから離れる。
視線は切らず、ナイフも構えたまま。
モンスターの輪郭がぼやけはじめた。
OK、討伐完了。
▼▲▼
:九階 wktk
:見た目は平和そうなフィールド
:やっぱマラソン配信か?
:ひまぁ~
:マラソンから、密林散歩になったな。
:リラックス系の作業用動画
:飽きた。そして、ねむ。
:お昼寝のタイムかw
:ノシ
:鱗は気になるが…
:リアタイ抜けるわ
:おつかれー
:後追いがベストじゃね?
:同感 落ちますねー
:やっとか
:モンスター探査、長かった
:だな。
:ペアで狩るのか
:やっと探究者っぽい動きを
:???
:接近してスルー?
:お見事!
:うろこ
:何時取った?
:センリンコウ気付いとらんぞw
:はやっ!
:サクッと討伐
階段降りるたびに画面は徐々に明るくなり、熱帯森の日差しの強いをもろに受けた広場に出る。
「すり鉢状にフィールドを巡る順路は、階段を下りて右側が起点です。東雲の通路法則です。」
唯一の道に視線を向ける。
右側から外周に沿って弧を描く砂利道。
「九階まで来ると大分広くなります。比較的安全な渦巻き状の通路に沿って進むとフルマラソン以上の距離です。」
「目的のセンリンコウは、比較的乾いた土地を好むので、通路に沿って進みます。」
おそらく屈伸した少年に連動し、カメラが上下に揺れた。
順路と森の境目付近に位置取り走り出す。
この配信ではお馴染みとなりつつある、足音と呼吸音のみのロードラン配信が再開される。
「それらしい痕跡がありました。」
ふいに走る速度が落ちた。
右から左へ少年の視線を追ってカメラが動いた後、少年は熱帯森の奥を見る。
「本格的に森の中へ入ります。九階にもなるとモンスターは増えるので慎重に進みます。トークがなくなったら、何か危ない状況です。」
木々の枝葉が擦れる音、時折甲高く鳴く鳥と、緩やかになった少年の足音。
強烈な陽光を熱帯特有の大きな葉が遮り、明暗の極端な森の地面を舐めるように映す。モンスターの存在を示す何かを探し地面の堆積物を除けるのだろう、落ち葉や砂利の擦れる音がする。
そんな光景が三十分も続けば、生配信は過疎るものだ。
偶然とAIの活躍で増えた配信の同接数が零と一桁を繰り返すようになった頃、カメラは画面の隅にターゲットを捕らえる。
「やっと、みつけ、ました。」
少年は囁くような声を拾う。
何となく疲れたような、それでいてホッとしたような声音だ。
「センリンコウは基本的に雄雌のペアで行動します。一匹見つけたのでペアと合流するまで追います。」
一度立ち止まり、簡単に行動理由を説明をする。
それから、足音を立てないようモンスターを追う。
しばらく進むと一周り大きな同種のモンスターと接触し、互いに何度か鼻を突き合わせる。
人間の言葉にすれば「私は右、俺は左」という会話でもされたように、モンスターのペアは再び別れる。
数秒停止し、視線だけでモンスターペアの行先を確認した後、少年はポツリとつぶやく。
「鱗はがし、はじめます。」
少年の駆ける音、急速にセンリンコウ迫る画面。
しかし、モンスターの背をハードルのように飛び越え、真正面にある木の幹に突進する。
木にぶつかる寸前、方向転換する少年がチラリとカメラに映る。
急反転から、またセンリンコウ接近するが、一瞬で走り抜け遮蔽物の陰に身を隠す。
「今の接近で鱗二枚です。もう一回鱗を取って、討伐します。」
手元にある二枚の鱗を掲げ、カメラに映るように見せる。
立ち上がり、物陰から跳び出すと再びセンリンコウに向かって走る。
接敵、斜めに後方抜け、目の前の木の根を足場に反転する。
四度目の接近。
センリンコウに肉薄する瞬間、鱗を刈る。
チュンッと甲高い音が鳴る。
ナイフが鱗を切断する瞬間の接触音だ。
急停止、そのまま側面からモンスターの横腹を蹴り倒す。
ゴロッ、と横倒しになったセンリンコウの喉元へアーミーナイフが深く刺す。
傷口を拡げるように腹側へ引き、奥をかき回し、ナイフを抜く。
バックステップでモンスターから離れる。
視線は切らず、ナイフも構えたまま。
モンスターの輪郭がぼやけはじめた。
OK、討伐完了。
▼▲▼
:九階 wktk
:見た目は平和そうなフィールド
:やっぱマラソン配信か?
:ひまぁ~
:マラソンから、密林散歩になったな。
:リラックス系の作業用動画
:飽きた。そして、ねむ。
:お昼寝のタイムかw
:ノシ
:鱗は気になるが…
:リアタイ抜けるわ
:おつかれー
:後追いがベストじゃね?
:同感 落ちますねー
:やっとか
:モンスター探査、長かった
:だな。
:ペアで狩るのか
:やっと探究者っぽい動きを
:???
:接近してスルー?
:お見事!
:うろこ
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