2 / 4
2◆来賓館
しおりを挟む
卒業記念パーティにおける婚約破棄と求婚の騒動の関係者は、大ホールから移動した。
ここは、ダーマ王国貴族学院、来賓館にある応接室のひとつ。
現在、応接室内に滞在する人物は三グループに別けられる。
婚約破棄ならびに求婚をされたファシル公爵令嬢ローデリア、その保護者であるローデリアの両親。
婚約破棄を宣言した第二王子フェーゴ、フェーゴの新たな婚約者(暫定)であるクラーロ男爵令嬢ロサ。フェーゴの保護者枠で列席していた側近筆頭プルプラ伯爵令息。
そして、ご令嬢の婚約が破棄された直後に求婚した二人目の男、帝国民の貿易商アグワと関係者を名乗る壮年の女性。
尚、婚約破棄の直後に求婚をした一人目の男である遠方国の自称王太子は、ローデリアから強烈なお断りを突き付けられ、この修羅場に参戦する意欲は、……もう無い。
皆がソファに着席し、お茶の給仕を受けた後、人払いがなされた。
第二王子フェーゴの護衛二人は扉の両脇に立ち、側近筆頭は主の斜め後ろに控えている。
「初見の者がおりますわね、簡単な自己紹介からはじめましょう」
右隣に座った母のひとことで、話合いがはじまります。
横長のソファに、母、わたくし、父が座っております。左前のひとり用のソファが二席。近い方から帝国商人アグワ、隣が壮年の女性はダーマ王国商人ベレタ。わたくしの向かいに座る、クラーロ男爵家のご令嬢ロサ様、隣にはクラーロ様と手を繋いで座る第二王子フェーゴ殿下、ソファーの後ろに殿下の側近で保護者として参加していたプルプラ様、そして右前の一人席に学院長様。
「ベレタ、あなた卒業生の保護者かしら? それとアグワとの関係を伺っても?」
「はい。卒業後に貴族商人の家へ入る子がおります。アグワ様とは商人として親しい間柄でございます。諸外国でも話題になるダーマの貴族学院を見学したいと前々から伺っておりましたので、本日の卒業式のパートナーとしてお誘いしました」
「卒業生でもないクラーロ嬢の兄が列席していた理由はわかりました。説明ありがとう」
貴族学院は入学条件は”貴族の子”ですが、平民であるベレタの子のように将来貴族家に連なる者、逆に将来は平民になるが、一代貴族の子など成人前はギリギリ貴族の範囲に含まれる者も入学出来ます。貴族学院の卒業式ですから当然貴族のルールに合せパートナー同伴です。偶然誘ったパートナーが、騒動の当事者であるクラーロ様の血縁とは数奇な巡り合せです。
「クラーロ嬢、念のため伺いますけど、アグワとは既知ですの? 男爵家の子?」
「いえ、初めて会いました」
「左様ですのね、クラーロ嬢及びクラーロ男爵家は、帝国民アグワと無関係。で、いいかしら?」
「クラーロ家では見たこと、聞いたことは無い、ので、、、たぶん、ですけど、はい」
怯えたように話すクラーロ様の腰をフェーゴ殿下が掴んで引き寄せています。
そんなに警戒せずともよろしいのに。場を弁えて過度のイチャコラは控えていただければ、お二人を引き離したりしませんわよ。
「ここからのお話合いは、中立の立場にある学院長様に進行をお願いしたします、よろしですわね」
「えっ? ははい。ご指名とあらば」
お互いの関係性を確認したお母様は、立会人として同席した学院長様に進行役を譲ります。
学院長様は先ず学院の規則に則り、身分や言葉使いを理由に無礼を問わないことを宣誓されました。
「最初に話合う内容を決めましょう。発言は挙手の後、僭越でありますが私が指名する方が発言する、会議形式でお願いいたします」
最初に挙手したのは、わたくしとアグワ。フェーゴ殿下は……、小さく挙手して、すぐ引っ込めてしまいました。殿下は何をしてるのかしら? 短慮と優柔不断の相互通行は、みっともなくてよ。
「わたくしと第二王子殿下の婚約破棄について、再確認をお願いいたしますわ」
「俺とファシル嬢の結婚だ」
学院長様に指名された順に、議題を挙げます。
「他はございませんか? では挙手されましたお二方の議題で話合いを進めます」
「一点目、婚約破棄の再確認です。第二王子殿下の有責で婚約を破棄する。殿下、ローデリア様、ファシル公爵は本件を了承する。よろしいですかな?」
「ああ、これでロサが安心してくれるなら、私は満足だ」
「フェーゴ殿下ぁ、、、わたし嬉しい」
「ええ、結構です」
「ファシル公爵家として了承します」
わたくしの親であるファシル公爵が同意いたしました。多くの貴族の前で宣言した婚約破棄が覆る事は無いでしょうが、外遊中の両陛下が帰国するまで少々時間も空きます。予め関係者の同意や言質を取っておけば、確実に婚約破棄が成立するでしょう。
それにしても……、向かいの席の空気が甘ったるいですわね。お茶の渋みが足りない気がしますわ。
「では、次に進みます。二点目、帝国民であるアグワ殿の求婚について」
「有り得ませんわね。国家簒奪でも狙っておいでなのかしら?」
「まぁ! 噂で耳にしましたが、もしやファシルのお嬢様に決まっておられたのですか?」
ベレタの問いは次世代の王位にまつわる裏取りでしょう。ダーマ王国の継承順位は通常は当人の成人をもって正式決定します。十数年前に順位の変則的な入れ替えがあり、公表時に未成年であった者の名は隠されました。ですが、卒業式後の成人した今であれば隠す必要もございません。フェーゴ殿下との婚約破棄と併せてわたくしの立場についても、近日中に公式アナウンスが出るでしょう。
「ええ、王子殿下は勿論ですが、国王夫妻の近縁も父母の両系統で血が近いものですから、前王陛下の代に遡り、血縁の一番遠い娘が継承の最上位になりましたの」
「なぁ、俺には話しが見えないんだが、何のことだ?」
中央にあるローテーブルをトントンと軽く叩き、アグワが皆の耳目を集めました。
次世代の王を産む王胎と王位に関する公式発表は、ダーマ王国民であれば誰もが知る事柄ですが、帝国民のアグワは知らないようです。
「わたくしの婚姻には、未来の王位が付帯いたしますの」
「何でだ? 王子と婚約破棄は決定だろっ?」
「まぁ、落ち着いて聞いて下さい。現在のダーマ国王陛下の近縁は近親者同士の婚姻が多く、血が濃くなる問題が起こっております。そこで、問題解決の為に王家傍系の血筋を王位に据える方針に致しました。次に御生れになる王の母、帝国流に言うと国母に現王陛下と血の遠い傍系血統のローデリア様が指名されした。次王はローデリア様か直系の王子殿下を、その次の王はローデリア様の産んだ子。そのように十年ほど前に決定しております」
流石は教職の学院長様です。通常の継承と異なる理由を捕捉しながら、わたくしと王位継承の関係を説明してくださいました。帝国民アグワはダーマ王国の情報がほとんど持って無いか、偏っておりますから、より丁寧に説明して下さったのでしょう。
「マジかよっ! 道理で王子と婚約破棄されても強気な訳だ」
「ですから、商人には分不相応と申しましたのよ?」
「つーことは、お嬢は王家の姫に内定してて、結婚したら王。更に未来の王の父親になるのか!」
ご商売の常識はまったく存じませんが、貿易する相手国の情報収集は必須なのでは?
継承順位のような比較的新らしい情報、といっても既に十年前に出ておりますが、タイミングもございますし把握していなくともご商売は出来ると思います。しかし二百年以上変わっていない我がダーマ王国の基本情報にして、重要な価値観。それを知らないとは……。
同じ言葉を使っても会話が噛み合わない原因がやっと解った気がいたします。
そうなるとアグワの求めた婚姻は十中八九帝国法に定める婚姻を意味したのでしょう。ダーマ王国と帝国では婚姻の定義に異なる部分があります。わたくしの伴侶イコール王や王族ではありませんし、王族の正式な伴侶であっても、平民のままで王位に関わらない婚姻は可能なのですよ。
「やめだ、やめっ! 貴族ならいいが王族なんて面倒な立場はゴメンだっ」
「えっ、はっ? ……あのっ、それは、アグワ殿のこの求婚は取り下げる。という意味で、よ、よろしい、ですかな?」
「そうだっ。俺ぁ国には縛られねぇ。自由に国を渡る貿易商だっ」
「あらあらっ! では、これで話合いは、終りましたわね。ねっ。よろしいですわよね、学院長様、皆様」
お母様と学院長様は帝国商人の勘違は聞かなかったことにするようです。勿論わたくしも求婚取り下げの流れに乗ります。勝手にダーマを属国と見下して自国の常識を押し付ける者に、アレコレ親切に教えて差し上げる必要はござませんわ。
「あ、ははい。それでは皆様、以上で、お話合いを終りたいと存じます。お疲れさまでした」
軽く会釈をすると、学院長様が話合いの終了を宣言いたしました。
皆それぞれ、終了の挨拶を返しております。
「うむ、皆、ご苦労であった」
「えっと、、、お疲れさまです?」
無事終わった話会いに、ほっとした様子の殿下とクラーロ様。父母は貴族らしい笑顔で首肯しております。
あら? ベレタは静かに俯いておりますわね。
「司会役お疲れさん! ところで、お嬢が抜けた後のファシル公は誰がなるんだ?」
「そうですね、国防の要職となるファシル公の人選は機密情報扱いになります。ですが……、後嗣不在の慣例では臣下に下る王族に託されております」
学院長様の言う通り、私が王家に入り、弟が婿入りした後の公爵家は後継ぎがおりません。殿下が継ぐ予定と聞いておりますが、わたくしの産む二子以下を父母の養子にする案と甲乙付け難く、議会が紛糾しているとか。
「そうだよなぁ。情報ありがとなぁ!」
「おほほ、よい情報は得られたかしら? 今後のご商売、上手く運ぶとよろしいですわね」
「おう! ロサと王子にも顔つなぎ出来たし、前途洋々だぁ」
にこやかに挨拶を交わす母とアグワ。
最初から変わらぬ勢いだけはある言葉を残し、上機嫌で席を立つアグワを横目に、隣の席で放心しているベレタに好奇心でそっと囁きます。
「商人ですのに、情報不足では? ねぇ、ベレタはどう思って?」
「……機を見て直ぐ行動するアグワ様の積極性は、商人として尊敬できる素晴らしい長所だと思っておりました。ですが、ですが今回の事で関係を見直す必要が出て参りました。はぁぁ」
「ええ、確かに機を見て動く瞬発力は素晴らしかったわ。でも、ご商売相手はしっかり見極めた方がよろしくてよ」
「はい、お嬢様。ご忠告、感謝いたします」
ひきつったような笑顔で言葉を絞り出すベレタ。今までは商売相手としてよき関係を築いていたのでしょう。
ですが、多くのダーマ王国貴族の前で未来の国母に不敬を重ねた人物です。今後ダーマ国内での商売は難しいでしょう。プエルトにあるという拠点が他人の手に渡らないとよいですわね。
※最後まで隠した予定なのだけど、王=女なのは気付いたかな?
ここは、ダーマ王国貴族学院、来賓館にある応接室のひとつ。
現在、応接室内に滞在する人物は三グループに別けられる。
婚約破棄ならびに求婚をされたファシル公爵令嬢ローデリア、その保護者であるローデリアの両親。
婚約破棄を宣言した第二王子フェーゴ、フェーゴの新たな婚約者(暫定)であるクラーロ男爵令嬢ロサ。フェーゴの保護者枠で列席していた側近筆頭プルプラ伯爵令息。
そして、ご令嬢の婚約が破棄された直後に求婚した二人目の男、帝国民の貿易商アグワと関係者を名乗る壮年の女性。
尚、婚約破棄の直後に求婚をした一人目の男である遠方国の自称王太子は、ローデリアから強烈なお断りを突き付けられ、この修羅場に参戦する意欲は、……もう無い。
皆がソファに着席し、お茶の給仕を受けた後、人払いがなされた。
第二王子フェーゴの護衛二人は扉の両脇に立ち、側近筆頭は主の斜め後ろに控えている。
「初見の者がおりますわね、簡単な自己紹介からはじめましょう」
右隣に座った母のひとことで、話合いがはじまります。
横長のソファに、母、わたくし、父が座っております。左前のひとり用のソファが二席。近い方から帝国商人アグワ、隣が壮年の女性はダーマ王国商人ベレタ。わたくしの向かいに座る、クラーロ男爵家のご令嬢ロサ様、隣にはクラーロ様と手を繋いで座る第二王子フェーゴ殿下、ソファーの後ろに殿下の側近で保護者として参加していたプルプラ様、そして右前の一人席に学院長様。
「ベレタ、あなた卒業生の保護者かしら? それとアグワとの関係を伺っても?」
「はい。卒業後に貴族商人の家へ入る子がおります。アグワ様とは商人として親しい間柄でございます。諸外国でも話題になるダーマの貴族学院を見学したいと前々から伺っておりましたので、本日の卒業式のパートナーとしてお誘いしました」
「卒業生でもないクラーロ嬢の兄が列席していた理由はわかりました。説明ありがとう」
貴族学院は入学条件は”貴族の子”ですが、平民であるベレタの子のように将来貴族家に連なる者、逆に将来は平民になるが、一代貴族の子など成人前はギリギリ貴族の範囲に含まれる者も入学出来ます。貴族学院の卒業式ですから当然貴族のルールに合せパートナー同伴です。偶然誘ったパートナーが、騒動の当事者であるクラーロ様の血縁とは数奇な巡り合せです。
「クラーロ嬢、念のため伺いますけど、アグワとは既知ですの? 男爵家の子?」
「いえ、初めて会いました」
「左様ですのね、クラーロ嬢及びクラーロ男爵家は、帝国民アグワと無関係。で、いいかしら?」
「クラーロ家では見たこと、聞いたことは無い、ので、、、たぶん、ですけど、はい」
怯えたように話すクラーロ様の腰をフェーゴ殿下が掴んで引き寄せています。
そんなに警戒せずともよろしいのに。場を弁えて過度のイチャコラは控えていただければ、お二人を引き離したりしませんわよ。
「ここからのお話合いは、中立の立場にある学院長様に進行をお願いしたします、よろしですわね」
「えっ? ははい。ご指名とあらば」
お互いの関係性を確認したお母様は、立会人として同席した学院長様に進行役を譲ります。
学院長様は先ず学院の規則に則り、身分や言葉使いを理由に無礼を問わないことを宣誓されました。
「最初に話合う内容を決めましょう。発言は挙手の後、僭越でありますが私が指名する方が発言する、会議形式でお願いいたします」
最初に挙手したのは、わたくしとアグワ。フェーゴ殿下は……、小さく挙手して、すぐ引っ込めてしまいました。殿下は何をしてるのかしら? 短慮と優柔不断の相互通行は、みっともなくてよ。
「わたくしと第二王子殿下の婚約破棄について、再確認をお願いいたしますわ」
「俺とファシル嬢の結婚だ」
学院長様に指名された順に、議題を挙げます。
「他はございませんか? では挙手されましたお二方の議題で話合いを進めます」
「一点目、婚約破棄の再確認です。第二王子殿下の有責で婚約を破棄する。殿下、ローデリア様、ファシル公爵は本件を了承する。よろしいですかな?」
「ああ、これでロサが安心してくれるなら、私は満足だ」
「フェーゴ殿下ぁ、、、わたし嬉しい」
「ええ、結構です」
「ファシル公爵家として了承します」
わたくしの親であるファシル公爵が同意いたしました。多くの貴族の前で宣言した婚約破棄が覆る事は無いでしょうが、外遊中の両陛下が帰国するまで少々時間も空きます。予め関係者の同意や言質を取っておけば、確実に婚約破棄が成立するでしょう。
それにしても……、向かいの席の空気が甘ったるいですわね。お茶の渋みが足りない気がしますわ。
「では、次に進みます。二点目、帝国民であるアグワ殿の求婚について」
「有り得ませんわね。国家簒奪でも狙っておいでなのかしら?」
「まぁ! 噂で耳にしましたが、もしやファシルのお嬢様に決まっておられたのですか?」
ベレタの問いは次世代の王位にまつわる裏取りでしょう。ダーマ王国の継承順位は通常は当人の成人をもって正式決定します。十数年前に順位の変則的な入れ替えがあり、公表時に未成年であった者の名は隠されました。ですが、卒業式後の成人した今であれば隠す必要もございません。フェーゴ殿下との婚約破棄と併せてわたくしの立場についても、近日中に公式アナウンスが出るでしょう。
「ええ、王子殿下は勿論ですが、国王夫妻の近縁も父母の両系統で血が近いものですから、前王陛下の代に遡り、血縁の一番遠い娘が継承の最上位になりましたの」
「なぁ、俺には話しが見えないんだが、何のことだ?」
中央にあるローテーブルをトントンと軽く叩き、アグワが皆の耳目を集めました。
次世代の王を産む王胎と王位に関する公式発表は、ダーマ王国民であれば誰もが知る事柄ですが、帝国民のアグワは知らないようです。
「わたくしの婚姻には、未来の王位が付帯いたしますの」
「何でだ? 王子と婚約破棄は決定だろっ?」
「まぁ、落ち着いて聞いて下さい。現在のダーマ国王陛下の近縁は近親者同士の婚姻が多く、血が濃くなる問題が起こっております。そこで、問題解決の為に王家傍系の血筋を王位に据える方針に致しました。次に御生れになる王の母、帝国流に言うと国母に現王陛下と血の遠い傍系血統のローデリア様が指名されした。次王はローデリア様か直系の王子殿下を、その次の王はローデリア様の産んだ子。そのように十年ほど前に決定しております」
流石は教職の学院長様です。通常の継承と異なる理由を捕捉しながら、わたくしと王位継承の関係を説明してくださいました。帝国民アグワはダーマ王国の情報がほとんど持って無いか、偏っておりますから、より丁寧に説明して下さったのでしょう。
「マジかよっ! 道理で王子と婚約破棄されても強気な訳だ」
「ですから、商人には分不相応と申しましたのよ?」
「つーことは、お嬢は王家の姫に内定してて、結婚したら王。更に未来の王の父親になるのか!」
ご商売の常識はまったく存じませんが、貿易する相手国の情報収集は必須なのでは?
継承順位のような比較的新らしい情報、といっても既に十年前に出ておりますが、タイミングもございますし把握していなくともご商売は出来ると思います。しかし二百年以上変わっていない我がダーマ王国の基本情報にして、重要な価値観。それを知らないとは……。
同じ言葉を使っても会話が噛み合わない原因がやっと解った気がいたします。
そうなるとアグワの求めた婚姻は十中八九帝国法に定める婚姻を意味したのでしょう。ダーマ王国と帝国では婚姻の定義に異なる部分があります。わたくしの伴侶イコール王や王族ではありませんし、王族の正式な伴侶であっても、平民のままで王位に関わらない婚姻は可能なのですよ。
「やめだ、やめっ! 貴族ならいいが王族なんて面倒な立場はゴメンだっ」
「えっ、はっ? ……あのっ、それは、アグワ殿のこの求婚は取り下げる。という意味で、よ、よろしい、ですかな?」
「そうだっ。俺ぁ国には縛られねぇ。自由に国を渡る貿易商だっ」
「あらあらっ! では、これで話合いは、終りましたわね。ねっ。よろしいですわよね、学院長様、皆様」
お母様と学院長様は帝国商人の勘違は聞かなかったことにするようです。勿論わたくしも求婚取り下げの流れに乗ります。勝手にダーマを属国と見下して自国の常識を押し付ける者に、アレコレ親切に教えて差し上げる必要はござませんわ。
「あ、ははい。それでは皆様、以上で、お話合いを終りたいと存じます。お疲れさまでした」
軽く会釈をすると、学院長様が話合いの終了を宣言いたしました。
皆それぞれ、終了の挨拶を返しております。
「うむ、皆、ご苦労であった」
「えっと、、、お疲れさまです?」
無事終わった話会いに、ほっとした様子の殿下とクラーロ様。父母は貴族らしい笑顔で首肯しております。
あら? ベレタは静かに俯いておりますわね。
「司会役お疲れさん! ところで、お嬢が抜けた後のファシル公は誰がなるんだ?」
「そうですね、国防の要職となるファシル公の人選は機密情報扱いになります。ですが……、後嗣不在の慣例では臣下に下る王族に託されております」
学院長様の言う通り、私が王家に入り、弟が婿入りした後の公爵家は後継ぎがおりません。殿下が継ぐ予定と聞いておりますが、わたくしの産む二子以下を父母の養子にする案と甲乙付け難く、議会が紛糾しているとか。
「そうだよなぁ。情報ありがとなぁ!」
「おほほ、よい情報は得られたかしら? 今後のご商売、上手く運ぶとよろしいですわね」
「おう! ロサと王子にも顔つなぎ出来たし、前途洋々だぁ」
にこやかに挨拶を交わす母とアグワ。
最初から変わらぬ勢いだけはある言葉を残し、上機嫌で席を立つアグワを横目に、隣の席で放心しているベレタに好奇心でそっと囁きます。
「商人ですのに、情報不足では? ねぇ、ベレタはどう思って?」
「……機を見て直ぐ行動するアグワ様の積極性は、商人として尊敬できる素晴らしい長所だと思っておりました。ですが、ですが今回の事で関係を見直す必要が出て参りました。はぁぁ」
「ええ、確かに機を見て動く瞬発力は素晴らしかったわ。でも、ご商売相手はしっかり見極めた方がよろしくてよ」
「はい、お嬢様。ご忠告、感謝いたします」
ひきつったような笑顔で言葉を絞り出すベレタ。今までは商売相手としてよき関係を築いていたのでしょう。
ですが、多くのダーマ王国貴族の前で未来の国母に不敬を重ねた人物です。今後ダーマ国内での商売は難しいでしょう。プエルトにあるという拠点が他人の手に渡らないとよいですわね。
※最後まで隠した予定なのだけど、王=女なのは気付いたかな?
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
政略結婚のハズが門前払いをされまして
紫月 由良
恋愛
伯爵令嬢のキャスリンは政略結婚のために隣国であるガスティエン王国に赴いた。しかしお相手の家に到着すると使用人から門前払いを食らわされた。母国であるレイエ王国は小国で、大人と子供くらい国力の差があるとはいえ、ガスティエン王国から請われて着たのにあんまりではないかと思う。
同行した外交官であるダルトリー侯爵は「この国で1年間だけ我慢してくれ」と言われるが……。
※小説家になろうでも公開しています。
転生悪役令嬢の、男装事変 〜宰相補佐官のバディは、商会長で黒魔女です〜
卯崎瑛珠
ファンタジー
第2部連載中です。
※陰謀やバトル、国家間貿易などの商談中心で、恋愛要素皆無です。ご了承ください。
現代日本の商社で働いていた鳥辺アリサ(とりべありさ)は、不運にも海外出張中に交通事故死してしまった。ところが『全能の神ゼー』と名乗る存在によって『愛と太陽の女神テラ』が司る世界へ転生してくれないかと頼まれる。その女神は、『英知と月の女神ナル』にコンプレックスを持っており、自分が統括している世界でナルに似た人間を作っては、とことん過酷な運命に置くことで、留飲を下げるということを繰り返しているという。ゼーはその蛮行を止めようと説得するが、余計に怒り狂ったテラは聞く耳を持たない。そうしていたずらに人間の運命を操作することによって神の力が失われ、世界の維持すら危うくなっているというのだ。テラの目を覚まさせるため、テラの世界で幸せに生きて欲しいと告げてきたゼーに「特別なことはできない」と断るアリサ。ゼーは、幸せに暮らすだけで良いと告げた。それぐらいなら、と引き受けたアリサが転生した先は、なんと没落寸前のトリベール侯爵家。再興させるため、貴族学院に入学したアリサは、聖女が学院の同級生であることを知る。闇の魔力を持つアリサは聖女と比較される黒魔女として、周囲に忌み嫌われる役目らしい。アリサは前世の知識を生かして商会長(女性はなれないので、男装)となって起業し、侯爵家を再興しようと奮闘する。借金を返し、没落寸前の家を救う――奔走するアリサはやがて、次期宰相と噂のロイクと出会う。二十歳の公爵令息で宰相補佐官という地位にあるロイクは、情報を扱う『商会』を使って王国に蔓延する薬物の調査に乗り出した。男装商会長と宰相補佐官の異色のバディ、陰謀に立ち向かう!
-----------------------------
小説家になろう・カクヨムでも掲載しています。
表紙:しろねこ。様(Xアカウント@white_cat_novel)
※無断転載禁止です
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました
神村 月子
恋愛
貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。
彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。
「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。
登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。
※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています
(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!
青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。
すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。
「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」
「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」
なぜ、お姉様の名前がでてくるの?
なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。
※タグの追加や変更あるかもしれません。
※因果応報的ざまぁのはず。
※作者独自の世界のゆるふわ設定。
※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。
※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
婚約破棄を避けるために攻略を頑張る悪役令嬢
もふきゅな
恋愛
エリザベート・フォン・シュヴァルツは、王太子アルベルトと婚約している美しい名門貴族の令嬢。しかし、最近アルベルトの態度が冷たくなり、婚約破棄の危機を感じ始める。エリザベートは愛するアルベルトを取り戻すため、彼の興味を引く作戦を立て、歴史の勉強や彼の側近との信頼関係を築く努力を重ねる。
【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く
とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。
まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。
しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。
なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう!
そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。
しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。
すると彼に
「こんな遺書じゃダメだね」
「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」
と思いっきりダメ出しをされてしまった。
それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。
「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」
これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。
そんなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる