日の出が祝福する時

ふつうのひと

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1章

7話 本物の悪に制裁を

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「あっははははっ!!!そんな事も出来るの!?」
侵入者...仮に白黒男としよう。俺は出した炎を2つほど白黒男にぶつけ、爆散させる。だが、その爆発も爆発によって飛んだ木々の破片も白黒男の近くに入った瞬間に弾けるように逆方向へ飛んでいく。そして戦っていてわかるが、この白黒男は先頭を楽しんでいるようだ。

「通常手、低炎!!」
体から俺の体の2倍程の大きさの炎を出し、相手へ向かって放つ。だが、それも白黒男の周りに入った瞬間に弾けるように逆方向に飛んでいく。カウンターの様な形になってしまったため、俺は低炎の爆発にまきこまれてしまう。

(あっぶねぇ、炎が俺の体に影響を及ばさない性質でよかった)

俺の炎は力の性質上、炎が俺を焼いたり、爆発に巻き込んだりすることは無い。
それにもし俺が何らかのダメージを受けても先生が俺の体に常に力を使い続けて四肢が欠損する程のダメージ以下なら隙も出来ずに即治癒...いや修復と言った方が適切だろう。攻撃を受けた部分の傷跡が若干残っている。まあこれも時間経過で完全に塞がるだろう。

それより問題は敵だ。あいつの底は計り知れない。実際、今はわざと致命的な攻撃を俺に当ててこないが、それは恐らく俺で遊び、楽しんでいるからだろう。もしもあいつが俺に飽きたら...考えるだけで悪寒が走る。

「これはー?避けれるかな?」
白黒男は俺の足元を指差す。その瞬間、足元が弾けて土埃が目に入って視界を奪われる。

「くっそ...!!!」
俺は咄嗟に炎を出して炎に自分の体の周りをかなりの速度で周らせ、土埃を払う。だがそれも束の間、すぐに奴の追撃が来る。白黒男は今まで遠くから攻撃してくるだけだったのに急に接近してきて俺の腹に横蹴りを入れる。

それだけでは終わらず、俺の二の腕辺りを掴んで胸に重い蹴りを入れる。先生の力で痛みを感じるのは一瞬で済んだが、その一瞬の痛みが俺はとても耐えられずにその場に倒れ込む。胃液が喉から飛び出そうなのを無理やり喉奥に押し込む。俺は大きく咳込み、涙目になりながら白黒男を睨みつける。

「ひぇ~怖いねぇ怖いなぁ、怖いよぉ?」
白黒男は両手を頭の左右に肘を曲げて広げ、手首を外側に曲げてふざけた態度で心にも思ってないことを言う。

....まだだ。まだ内界力が完全に貯まっていない。やるならもっと貯めて...大技を決める。それで倒せなくとも、逃げることぐらいは出来るはずだ。

その為に必要なのは...時間だ。

「....お前らは、何しに来たんだよ」
俺は戦闘開始から今も尚無傷、服すらも汚れが着いていない状態の白黒男を睨みつけながら時間稼ぎの為に質問をする。

「ん~若い芽を摘むため、かなぁ。あ、あとお前らじゃなくてお前、ね。」

「なっ──1人で来たのか!?」
もしこいつが一人で来たのなら。何故本部は壊滅状態になっていたんだ?白黒男が一人で生徒を殺してからかなりの距離がある本部まで移動し、本部を壊滅状態にしてから俺達の所まで来たとは流石に馬鹿げている。

「んーまぁ本部は強かったけど、なんて言うか捻りがないというか...」
白黒男は頭を指で掻きながら目を閉じて少し不機嫌そうな顔をする。この態度から、どうやら先の馬鹿げた事は本当だったらしい。

「まっ、今はそんな事どうでもいいよね」
白黒男が指を鳴らした瞬間、俺が立っている地面が弾け、俺の体が宙に浮く。

「...僕、そろそろ飽きちゃった」
さっきまでの笑みを一瞬で消し、つまらなそうに俺に指を指す。先生を見ると、先生は焦っているのか次々に俺に力をかける。そんな事をしているとすぐに内界力が無くなっちゃうのに。

あぁ、俺これ死ぬかな。
今死んじゃうのか。嫌だな、それは。

あぁ、俺まだ、彼女出来てねぇよ....。

...俺の分まで翔庭さんは頑張ってくれるかな。俺と俺の家族の仇、皆が倒してくれるかな。

俺は死を悟り、死ぬ時は自分のぐちゃぐちゃになった所を見たくないなと目を閉じる。

そして白黒男が指示を出し、俺の体は爆ぜてそのまま勝敗がつこうと──

「危ない危ない。大丈夫?賢」
少し経って俺が死んでいないことに違和感を覚えて目を開くと、目の前には俺を抱えた矢羽根さんがいた。

「えっ、なんで矢羽根さん....」

「そりゃあ、教師だから」
矢羽根さんは手をグッドポーズにして返事になってない返事をする。さっきは肝を冷やしたが、どうやら俺は死んでいないらしい。

「じ、じゃあ後は...」
俺は恐る恐る矢羽根さんに聞く。矢羽根さんがここに来てくれたってことは、そういうはずだ。

「うん!もう逃げてよし!」
俺は心の中でガッツポーズをしてから矢羽根さんの腕から降ろしてもらう。

「淡生!大丈夫だったか!?矢羽根先生、後は任せてもいいですか?」
先生は走って俺達の所まで来て息を切らしながらそう聞く。

「OK、任せとけ」

「!どうか、お気をつけて。淡生、行くぞ」
先生は俺の手を引き、戦場から離れる。矢羽根さんもだが、あの白黒男も相当強い。どう戦うのかは気になるが、とりあえず今は命優先だ。早く翔庭さんと合流しなければ。
不意に、後ろから轟音が聞こえた。
おそらくあの二人の戦いが始まったのだ。

(矢羽根さん...大丈夫なのか...?)
俺は矢羽根さんの心配を心の中で呟き、前を向いて足を進めるのであった。

​───────​───────​───────
特進クラス選抜試験緊急事態対策会議室にて。
「矢羽根講師と侵入者が激突したようです!どうしますか?藤岡指揮。」
1人の教師が部屋の中のモニター前の椅子に腰掛けている老人──藤岡春江に次の指揮を求める。藤岡は部屋の奥、モニター前の椅子に座っているが、後ろには教員達10数名が今でも作戦を話し合っている。10数名の声が同時に聞こえるのでかなりうるさい。1人の教師の声を聞きとるので精一杯で、藤岡は少し頭痛がしてきた。

「...ふむ。彼奴と凪...そうさな、適任の胸以上の実力者を2人の付近に向かわせろ。それと、わしゃあ指揮はもう辞めたわい。」
右手で頭を軽く叩いて頭痛を無理やり収まらせる。

「はい!直ちに適任の実力者を向かわせるよう指示します!」
最後の指摘には反応せず、教師は早々に部屋から立ち去って行った。その背中を見届け、藤岡は短くため息を吐く。

「儂もついこの間まで前頭だったんじゃが...時の流れとは凄まじいものじゃな」
と、元前頭の実力者である盟主能議会の一員はモニターを見つめながらそう呟く。
藤岡はそれからしばらくモニターを見つめていたが、急に目を細め、椅子から勢いよく立ち上がる。周りの教員達は何事だと驚いたが、今の藤岡にはそれに気遣ってやれる余裕が無い。
何故なら.....

「これは...何じゃ?」
何故なら、突如として無数のバツ印が『力の影響開始予測地点』としてモニターに映し出されたからである。
これまでにもこのバツ印が何個か出たことはある。このバツ印が出るのは、誰かが力を使う予兆を示した時にその力を使われる地点を予測した時に出るものだ。
なので、会場内の誰かが力を使おうとすれば、どこかしらの地点にバツ印が記録される。だが、それも1、2個で5秒ほどで消える。だが、この無数のバツ印はいつまで経っても消えないのだ。

侵入者に続く2度目の異常事態。部屋中に混乱があっという間に広がる。


「な、なんだこれは!?こんな──」「これは、力の影響──」「なんでこんな何回も何回も問題が──」「み、皆落ち着け!今はそ──」「と、とにかく速やかにこの原因を調──」「それよりも生徒を──」「もう手一杯だぞ!これ以上──」「大体なんで問題が起きた時の──」「話してる時間なんて今は──」「この...バツ印──」「あぁ!?なんだよ、聞こえねぇ──」「...生徒...テント──」「おいおいおい、このバツ印いつまで──」「対策は!対策はどうするんだ──」「だからなんだよ!?聞こえねぇよ!さっきから──」「だから...このバツ印──」「おい、これ──」「生徒の避難優先!今すぐ──」「矢羽根講師の状況がバツ印で隠れて──」「くっそぉ!なんなんだよ──」「だから、落ち着けって!なんて言ってるのか分から──」

不意に、机が力強く叩かれる。その音で周囲は段々と静かになっていく。その机を叩いて周囲を黙らせたのは、藤岡だった。

「静かにせい。そこな教師、そう、おまえだ。先はなんと言うておった?」
藤岡は、先程声が小さくて気付いたことを上手く言えなかった1人の教師を指名し、さっきはなんと言っていたかを問う。

「え、えっと...バツ印が、救助テントの方に...集結してませんか....?」
彼の言葉が終わった瞬間、部屋中が再度どよめく。だがそれを藤岡が手で制止。一瞬でとよめきは無くなって部屋内が無音になる。

「そうじゃ。その若者の言う通り、救助テントに印が集結しておる。そして生徒は今もなお怪我の治療でその場におるじゃろう。」

「じ、じゃあ....これは、生徒達を殺す為の、力の遠隔発動...?」
1人の教員がそう口にする。

「それに、今の凪との戦いも儂ら、凪を騙すための罠なのかもしれんな」

「そ、そんな...!!!」
またも部屋中にどよめき、一人一人が自分の意見を今度は小声で話し合う。そんな中、藤岡は心の中でこの事について考えていた。

(力の遠隔発動...それも無数の...こりゃあ相当な手練さな。凪、下手を打つでないぞ)
藤岡はそこに立ち尽くし、打開策を考えるしか無かった。

​───────​───────​───────
場面は2人の男が対峙しているところに変わる

「さて....随分好き勝手やってくれたみたいだね」

「矢羽根 凪...か。久しぶりだなぁ。僕は嬉しいよ、あ~んなガキんちょがこんなに育ってさっ」
白黒男は両手で肩を抱き、嬉しさを強調する。最も、彼は再会を祝福する気なんて全く無いのだが。

「俺は再会もしたくなかったけどね」
矢羽根は苦虫を噛み潰したような顔をし、白黒男を拒否する。白黒男は「あ~らら」と呟き、両者互いに向かい合う。

──エンパイアからの刺客と実行高専の番人。二人の戦いを、誰も見ることは出来なかった。
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