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第二部 ムーンダガーの冒険者たち
2-9 優しくした方が良い
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「これこれ、人を見た目で判断するでないよ…これでもお嬢ちゃん達の何十倍も生きとる。年寄りには優しくせんといかんと…ご両親から習わなかったんかのう…」
「「「えっ?」」」」
「あの坊主共のじじいとは古い知り合いでのう…躾け直してくれと頼まれとる。お主らにその役目が務まるというのなら、譲ってやっても構わんが」
それまでにっこりと笑みを浮かべていたところを、急に鋭い眼光で睨み付けてやる。
その場にいた者の喉がごくりと鳴る。
「どうじゃ?」
生徒たちが気まずそうに、お互いの顔を見合っている。
「リリ!」
遠くの方で大きな声を出している人がいて、全員が一斉に同じ方を振り返った。
ああ、よかった。ジュノーだ。知り合いが見つかって、ひとまず迷子の状況から脱せたことに安堵する。
「リリ!」
それよりジュノーがこんな大声出している所を初めて見た。従魔でも探しているのかそれともリリさんという方がここにいらっしゃるのか、と思って辺りを探してみる。どうやらそれっぽい反応をしている人はいない。
近づいてきたジュノーが人の壁を掻き分けて、僕と手を繋いだ。
リリ、ってまさか…僕のこと呼んでたの?
「みんなが探している」
「おお、それはすまんかったのう…」
「もう、行こう」
「お主らくれぐれも年寄りには優しくすることじゃ…では失礼」
塔に向かってジュノーが僕の手を引いて歩き出す。僕らがその場を離れた途端、後方が再びざわざわと騒がしくなった。
フンフンとジュノーが鼻を鳴らして、肩を震わせている。どうやら笑っているらしい。
「あの…どこから聞いてました…?」
「悪い、俺はずっと中庭にいたんだ」
つまりあの実はおじいちゃんムーブを始めから全て聞かれていたということになる。これは恥ずかしすぎる。お願いだからみんなには言わないで、と心の中で祈る。
「さっきの話、長く生きてるというのは本当なのか」
「なんでそう思いました?」
「なんとなくだ」
「まあ当たらずとも遠からず、という感じですかね」
「そうか」
またフンフンしてる。
「君のそういうところが良い」
「ありがとうございます?」
塔の下につくと、みんな揃っていたのでダッシュで向かう。
「スマセンシタァッ!!」
「…それ何?」
「なにしてるの」
90度の最敬礼で謝意を伝えるも失敗した。そうだ、ここにはそういう文化はなかった…
「ジュノーがチビすけのことデカい声で呼んでたの、こっちまで聞こえてきた!」
「リリ!ってねえ」
ニヤニヤ顔でジュノーに迫る二人。
「囲まれていたから、手助けしただけだ」
「僕、リリって人が別にいるのかと思っちゃってて、気がつかなくてすみません…」
さっきまでニヤニヤしていた二人が、それを聞いて急に呆れた表情を浮かべる。
「まぁーた言ってねーのかよ!!」ケイがジュノーの脇腹にパンチした。
「あのねえ…」とリュリュは眉間を押さえている。
「ジュノーが名前を発声すると相手を誘惑しちゃうから、そのままの名前では呼べなくて」
「ユ、ユーワクって?あの誘惑?」
「うん、その誘惑。だから普段はあだ名で呼んでるよ」
「従魔は別だけどな」
僕自身も呼ばれた覚えはないし、ジュノーがそもそもプエムくん以外の名前を口にしていた記憶がない。
「というか、この人ヴァンパイアなんだよねえ」
「ヴァ…?え?」
「ジュノーはヴァンパイアのそういう性質を上手いこと使ってテイマーやってるんだよ」
この世界にはヴァンパイアがいるんだ、それは知らなかった。しかも実際に会えるなんて…
感動で言葉が出なかったのをケイが勘違いして「人は食べないから大丈夫だぞ!」とフォローを入れる。メシャア、とケイがジュノーに顔面を掴まれていた。前にもこういうの見たなあ。尖った爪がめりこんで痛そうだ。
「本人は言うつもりなかったみたいだけど…今後も長い付き合いになるだろうし、いろいろと話しておいた方がいいよねえ」
「まあ~腹も減ったし、そこらへんは昼メシ食いながらにしよーぜ」
-----------
移動するとそこは窓からたっぷりと陽の光が注ぎ、その中に広いオープンキッチンを構えた食堂だった。
まだ昼食には早い時間らしく生徒はまばらだ。中央にはたくさんの机と椅子が並んでいたが、僕たちはそれを無視して二階に上がった。そこには個室が並んでおり、そのうちの一室に入る。
「食堂のど真ん中で俺たちがご飯食べてると迷惑が掛かるって、教職員用のスペース使わせて貰ってる」
席に着くと、ウェイターがメニューと一緒に小鳥用の止まり木を持ってきたので思わず笑ってしまった。花の飾られたサイドテーブルにその止まり木が置かれるとユンはそちらに飛び乗る。ご飯も一緒に出てくるのかもしれない。
「…迷惑って?」
「見物客が多くて邪魔なんだって」
「何で?」
駅でも中庭でもそうだったけど、あなた達はアイドルか何かですか?
リュリュが困った顔で頬を掻きながら、ケイの方を見る。
「オレら…すげー顔がいいからな!」
「あーハイ」
にぱーと最高に良い笑顔のケイ。
確かにその通りではあるんだけど、何故か軽く流してしまった。
.
「「「えっ?」」」」
「あの坊主共のじじいとは古い知り合いでのう…躾け直してくれと頼まれとる。お主らにその役目が務まるというのなら、譲ってやっても構わんが」
それまでにっこりと笑みを浮かべていたところを、急に鋭い眼光で睨み付けてやる。
その場にいた者の喉がごくりと鳴る。
「どうじゃ?」
生徒たちが気まずそうに、お互いの顔を見合っている。
「リリ!」
遠くの方で大きな声を出している人がいて、全員が一斉に同じ方を振り返った。
ああ、よかった。ジュノーだ。知り合いが見つかって、ひとまず迷子の状況から脱せたことに安堵する。
「リリ!」
それよりジュノーがこんな大声出している所を初めて見た。従魔でも探しているのかそれともリリさんという方がここにいらっしゃるのか、と思って辺りを探してみる。どうやらそれっぽい反応をしている人はいない。
近づいてきたジュノーが人の壁を掻き分けて、僕と手を繋いだ。
リリ、ってまさか…僕のこと呼んでたの?
「みんなが探している」
「おお、それはすまんかったのう…」
「もう、行こう」
「お主らくれぐれも年寄りには優しくすることじゃ…では失礼」
塔に向かってジュノーが僕の手を引いて歩き出す。僕らがその場を離れた途端、後方が再びざわざわと騒がしくなった。
フンフンとジュノーが鼻を鳴らして、肩を震わせている。どうやら笑っているらしい。
「あの…どこから聞いてました…?」
「悪い、俺はずっと中庭にいたんだ」
つまりあの実はおじいちゃんムーブを始めから全て聞かれていたということになる。これは恥ずかしすぎる。お願いだからみんなには言わないで、と心の中で祈る。
「さっきの話、長く生きてるというのは本当なのか」
「なんでそう思いました?」
「なんとなくだ」
「まあ当たらずとも遠からず、という感じですかね」
「そうか」
またフンフンしてる。
「君のそういうところが良い」
「ありがとうございます?」
塔の下につくと、みんな揃っていたのでダッシュで向かう。
「スマセンシタァッ!!」
「…それ何?」
「なにしてるの」
90度の最敬礼で謝意を伝えるも失敗した。そうだ、ここにはそういう文化はなかった…
「ジュノーがチビすけのことデカい声で呼んでたの、こっちまで聞こえてきた!」
「リリ!ってねえ」
ニヤニヤ顔でジュノーに迫る二人。
「囲まれていたから、手助けしただけだ」
「僕、リリって人が別にいるのかと思っちゃってて、気がつかなくてすみません…」
さっきまでニヤニヤしていた二人が、それを聞いて急に呆れた表情を浮かべる。
「まぁーた言ってねーのかよ!!」ケイがジュノーの脇腹にパンチした。
「あのねえ…」とリュリュは眉間を押さえている。
「ジュノーが名前を発声すると相手を誘惑しちゃうから、そのままの名前では呼べなくて」
「ユ、ユーワクって?あの誘惑?」
「うん、その誘惑。だから普段はあだ名で呼んでるよ」
「従魔は別だけどな」
僕自身も呼ばれた覚えはないし、ジュノーがそもそもプエムくん以外の名前を口にしていた記憶がない。
「というか、この人ヴァンパイアなんだよねえ」
「ヴァ…?え?」
「ジュノーはヴァンパイアのそういう性質を上手いこと使ってテイマーやってるんだよ」
この世界にはヴァンパイアがいるんだ、それは知らなかった。しかも実際に会えるなんて…
感動で言葉が出なかったのをケイが勘違いして「人は食べないから大丈夫だぞ!」とフォローを入れる。メシャア、とケイがジュノーに顔面を掴まれていた。前にもこういうの見たなあ。尖った爪がめりこんで痛そうだ。
「本人は言うつもりなかったみたいだけど…今後も長い付き合いになるだろうし、いろいろと話しておいた方がいいよねえ」
「まあ~腹も減ったし、そこらへんは昼メシ食いながらにしよーぜ」
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移動するとそこは窓からたっぷりと陽の光が注ぎ、その中に広いオープンキッチンを構えた食堂だった。
まだ昼食には早い時間らしく生徒はまばらだ。中央にはたくさんの机と椅子が並んでいたが、僕たちはそれを無視して二階に上がった。そこには個室が並んでおり、そのうちの一室に入る。
「食堂のど真ん中で俺たちがご飯食べてると迷惑が掛かるって、教職員用のスペース使わせて貰ってる」
席に着くと、ウェイターがメニューと一緒に小鳥用の止まり木を持ってきたので思わず笑ってしまった。花の飾られたサイドテーブルにその止まり木が置かれるとユンはそちらに飛び乗る。ご飯も一緒に出てくるのかもしれない。
「…迷惑って?」
「見物客が多くて邪魔なんだって」
「何で?」
駅でも中庭でもそうだったけど、あなた達はアイドルか何かですか?
リュリュが困った顔で頬を掻きながら、ケイの方を見る。
「オレら…すげー顔がいいからな!」
「あーハイ」
にぱーと最高に良い笑顔のケイ。
確かにその通りではあるんだけど、何故か軽く流してしまった。
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